魔王様は幸福な未来の夢を見るか。
「さぁ、今日はこの山だ。みんな油断しないようにな」
「……」
リュミアが皆に注意喚起するけれど、アシュリーはそっぽを向いてむくれている。
「なぁアシュリー機嫌直せって。みんなの前であんな事言ったのは謝るからさぁ」
「~~っ!!」
ぼごっ!
「ぐえっ」
アシュリーが杖の先端で俺の脇腹を突いた。
「ばかっ! しねっ! ぼけっ!!」
げしげしっ!
「わ、悪かったって! アシュリーは恥ずかしがりやだもんな、みんなにバラしたのはほんと謝るからさ」
「ムキーッ!!」
「ま、待てアシュリー! それは洒落にならん!!」
アシュリーが涙目でとんでもない強力な魔法を俺達にぶちかました。
そしてまた場面は変わる。
「どうやらここに連れてこられたのは私達だけみたいだな」
「……ここは?」
「ぼけっとするな! アレは相当ヤバいぞ!」
俺達は……そうだ。山中にある洞窟から抜け出そうとして……俺とアシュリーだけここに飛ばされちまったんだった。
目の前にはアーティファクトのガーディアン。
俺は、こいつの対処法を知っている。
「アシュリー! こいつには魔法しか効かない! それに一度使った魔法にはすぐ耐性がついちまうんだ!」
「なんでアンタがそんな事知ってる……!? いや、それは……信じてもいい情報なんだろうな?」
無言で頷く。
ガーディアンの攻撃を避けながら、一度壊れた部位が再生する事、耐性を付けて同じ魔法が効かなくなる事、などもっと詳しい説明をする。
「これで俺が知ってる事は全部だ。悪いけど今の俺じゃあこいつの情報は分っても倒す手段がない」
「いや、アンタの言う事が本当ならどうにでもなるぜ……!」
アシュリーはそう言い放つと、左右の手に相反する魔法を練り出した。
「本来こんな無駄に魔力使うやり方はしねぇんだが……セスティ、アンタを信じるよ!」
アシュリーの左手から高火力の炎が噴き出し、それは蛇のような姿になってガーディアンの手足に絡みつく。
そして、アシュリーがその掌をぐっと握ったのを合図に、絡みついた炎が一気に大爆発を起こした。
すかさずもう片方の魔法を解き放ち、爆炎ごと全てを凍らせる。
「セスティ! 今だ奴の身体のど真ん中を砕いてやれ!」
アシュリーが俺の身体を浮遊させ……というより無理矢理魔法でガーディアンの方へぶん投げ、慌てて俺は持っている剣をその胸元、身体の中央に突き立てる。
それだけでガラガラと大きな音をたてガーディアンは崩れ去った。
「私がいつものように相手の様子を見ながら戦っていたらどんどん自分の首を絞める結果になっていたってわけだな……助かったぞセスティ。それにしてもその剣はなんだ? 今までそんな物持ってたか?」
アシュリーに言われて自分が握っているそれを見ると、鈍く光る細身の剣だった。
「……メディ……ファス?」
『主! やっと繋がりました! いったいいつまでこんな所に居るつもりですか!』
「え、何……? 剣が喋ってるとか怖すぎ……!」
『主……今名前呼んだじゃないですか』
「なんだっけ、め、めめ……」
「おいセスティ。何を遊んでるんだ。そのよく分からん剣の事は後で詳しく聞かせてもらうぞ。それより今はあいつが守ってたアレの方が重要だ」
……ガーディアンが守っていた物。
アーティファクト。
俺の身体と同化しているはずのそれ。
『主! 早く戻りましょう! これはアルプトラウムが見せたまやかしです! 主の記憶から生まれた都合のいい世界なんです!』
……アルプトラウム。
そうか、そうだった。
「思い出したよ……」
『主! よかった……それなら』
「でもダメだ。俺は、アレがなんなのか確認しなくちゃいけない」
アシュリーが今取りに向かったそれ。
ザラはアーティファクトなどではない、と言っていた。
だったら俺の身体は一体何と同化したんだ?
今ここにいる俺の魂は何と同化しているっていうんだ。
「こ……これは……なんだ?」
アシュリーが、白い布に包まれたブヨブヨした物を持ってこちらへ歩いてくる。
『主!』
「待て、俺はあれの正体を……!」
それがなんなのか、確かめる前にまた場面が切り替わってしまった。
「くそっ! もう少しだったのに……」
『申し訳ありません。ですが今はそれよりも……』
「分かってる。分かってるさ」
「こらセスティ、今日はあんたが主役なんだからこっちきてみんなに挨拶しなさい!」
背後から急に声をかけられ、振り向くとそこにはおふくろが居た。
無理矢理手を掴まれ引っ張られる。
ここは俺の……家だ。幼い頃飛び出した家。
どうやら今俺の誕生パーティが開かれているらしい。
いい年になって誕生日も何もないだろうとは思いつつ、そこに集まっているメンバーを見て目を見開く。
両親は勿論、ショコラ、アシュリー、ジービル、リュミア、ナーリア、めりにゃん、ろぴねぇ、ライゴス、サクラコ、ゲッコウ、アレク、メア……それだけじゃない。
メリーやヒールニント、ステラやシリル、リンシャオ……他にも沢山。今まで出会ってきた人々が一堂に会し、俺の言葉を待っている。
その中には、デュクシの姿もあった。
「ほら、みんなに一言、何か言ってやれ」
親父に背中をぽんっと叩かれ、俺は言葉に詰まる。
『主、分っていると思いますがこれは……』
「分かってる。こうやってみんな幸せに過ごす事が俺の願望なんだろう? 確かにここは幸せだ。ずっとここで過ごしたいくらいにな」
『主……』
「だけど、これは全てまやかし。こんな全てが俺の思い通りの世界に何の意味がある? それにだ……いいかアルプトラウム。よく聞けよ……」
目の前が明るくなっていく。
「俺はこれとほとんど同じ光景を、自力で手に入れてみせるぜ」
「さて……本当にそれが出来ると思っているのかい?」
遠退いて行く景色の中、にこやかな笑顔のままデュクシがそう言った。
……当然だ。
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