魔王様は何か違和感を感じる。
「さぁアルプトラウム、そろそろデュクシを返してもらいましょうか」
「ふふ……私もデュクシだと言っているのにどうやらうまく伝わっていないようだね」
目の前の奴は不敵に笑う。そのヘラヘラした顔すぐに引きつらせてやるわよ!
「おやおや凄い殺気だね……怖い怖い。でも君達にはまず私の余興に付き合ってもらおうか」
「まだ何かふざけた事をする気? アルっていつもそうやって自分のやりたい事ばっかりだから友達ができないのよ」
「メア……君は変わってしまったね。だからこそ見たい物があるのだよ。私はいつでも自らを尊重し楽しむ為だけに生きている。君もそうだったはずだ……思い出してみるといい」
アルプトラウムはその不吉な笑みをさらに凶悪な物に変え、その両腕を大きく広げた。
「みんな、あいつ何かする気よ! 気を付けて!!」
私の声に皆身構え、そして私の手を握るめりにゃんの掌に力がこもる。
「大丈夫、何があっても私達は負けない。そうでしょ?」
「……うむ、そうじゃな! 少し弱気になっておったようじゃ」
「ならば君等が本当に望んでいる物を私に見せてくれ」
空間が、ピキピキと音を立ててひび割れていく。
そして、剥がれ落ちた向こうには……。
「えっ、めりにゃん!?」
私の横から、めりにゃんの姿が消えていた。
いや、それだけじゃない。
一緒に来ていたメア、ショコラの姿も無い。
「アルプト……らう、む……?」
一体何をした、そう問いかけようと思った。
だけど、目の前にはアルプトラウムすらいなくて……。
「アンタ何ぼーっとしてるのよ! 早くこっちきて手伝いなさい!」
声の方を振り向けば、襲い来る魔物に魔法を放つアシュリーの姿が。
「あ、アシュリー? どうしてここに?」
「寝ぼけてんじゃねぇぞ! 自分の仕事をさっさとやれ!」
「えっと、わ、分ったわ! すぐに加勢に……って、あれっ?」
身体が上手く動かない。重たい。
「何よ、これっ!」
「セスティ! 何をやってるんだお前らしくもないぞ!」
躓いてしまった私をさっと受け止め、こちらに襲い掛かってきた魔物を刀身の美しいロングソードで切り裂く。
私を抱き留めてくれたその人の顔を見上げると、綺麗な金髪が風になびいていて……。
「ってリュミア!? えっ、嘘っ!? どうしてリュミアがこんな所に!?」
「おいセスティしっかりしろ。どうしたって言うんだ? 頭でも打ったか?」
「そそそ、そんなんじゃないわよっ! それより、えっ、ジービルも居る! アシュリーも、それに……リュミア……どうして? 私、さっきまでアルプトラウムと戦ってたのよ?」
目の前のリュミアは眉間に皺を寄せて不思議そうに私の顔を覗き込んで来る。
顔近い顔近い!
彼は私の知っている、一緒にパーティを組んでいた頃のリュミアだった。
「おい、本当に頭でも打ったのか? 喋り方が女みたいになってるぞ」
「……えっ?」
自分の身体を改めて見て見ると……。
「あれっ? 俺、何してたんだっけ……?」
「セスティ! 馬鹿言ってないで手伝えって言ってるだろうが!」
「ほら、大賢者様もお怒りだ。さっさと魔物達を倒してしまおう。立てるか?」
リュミアは私の……俺の手を取って立たせてくれた。
リュミア。その笑顔はとても眩しくて、俺の憧れた勇者リュミアそのものだ。
「二人……とも、何、してる……?」
「あぁ、ジービルすまない! すぐに加勢するぞ!」
リュミアは魔物に向かい、時々苦戦しながらも見事に敵を切り伏せた。
「まったく、今日のお前はどうかしてるぞ? まるで色ボケしたリュミアのファン共みたいだった」
「おいおいやめてくれよ。さすがにセスティにそんな目で見られたらどうしていいか分からなくなるだろ」
「……恋というのは、年も、性別も、関係……ない」
戦いが終わって、近くの街により酒場で一杯やりながら食事を取って居る。
あれ、いつのまにここに移動したんだろう。
どうも頭の中がぐちゃぐちゃして場面がうまく繋がらない。
「おいセスティ聞いてるのか!?」
「アシュリー、飲みすぎだぞ? そんな小さな体で酒乱なんて……可愛い顔が台無しじゃないか」
自然とそんな言葉が漏れていた。
「かっ、可愛い……!? ば、ばばばば馬鹿じゃないのかお前! リュミアに色目使いだしたと思ったら今度は私か!?」
「何言ってんだよ……お前あんなに俺の愛人になろうとしてた癖に……」
ガタッ!! とリュミアとジービルが勢いよく立ち上がり、テーブル上のスープが少し零れた。
「なっ、ななななっ、私が、セスティの……愛人だとぉぉぉぉ!? 貴様、ついに脳みそが腐ったのか!?」
「……君達がまさかそんな関係に……」
「いやっ、ちがっ……」
「好きに、すればいい……人を想う事は尊い」
「だからっ、ちがっ……」
「なんだよアシュリー今更恥ずかしがるような事じゃねぇだろうが」
「ばっ……ばかぁぁぁぁっ!! セスティのばかぼけしねぇぇぇぇっ!!」
アシュリーが泣きながら酒場を飛び出していった。
「……セスティ、今のはさすがにアシュリーが可哀想だろう?」
「うん、それは確かに、そう」
二人からやれやれと言った呆れ顔を向けられてしまった。
あっれー? 何かおかしいんだよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます