聖女様は怒りに燃える。


 あの二人どこ行っちゃったんだろう。

 気が付いたら王国にはいなくなっちゃってたし……。


 どこかの救援とかに行ってるのかな?

 でもあの二人の戦力って王国の人達から比べたらまだまだだから不安しか無いんだよね……。


 私もちょっと様子を見に行ってみようかな。


「ねぇねぇ、コーべニアとロンザってどこに行ったか知ってる?」


 話しかけても王国にいる魔物は首を横に振るばかり。


 困ったなぁ……今王国に残ってる魔物ってほとんど低級な魔物達だからまず会話が通じない。こちらの言葉は分ってるみたいだけど。


 どっちにしてもあの二人の行き先なんて情報はこの子らは知らないみたいだし……。


 自分で調べるしかないかなぁ。


 あっ、あの人に聞けば分かるかな?


「すいませーん!」


「ん……? あぁ……確か、ヒール、ニント……だったか?」


「あっ、はい。えと……ジービルさん、ですよね?」


 ジービルさんは無言で頷くだけ。

 人付き合い苦手なのかな? 妙な空気が流れだすから黙るの辞めてほしいんだけど……。


「えっと、コーべニアとロンザって分ります? どこに行ってるか知らないかなと思いまして……」


 ジービルさんは無言。

 うぅ……空気が重たい……。


「……ない」


「えっ?」


「……知らない」


 あー、うん、はい。


「わっかりましたー。ごめんなさー……」



 ボゴンッ!!


「ひぃぃぃっ!!」


 急にジービルさんが私に殴り掛かってきた。

 と、思ったら私の後ろの方に向かって拳を突き出したみたい。


 おそるおそる振り返ると、かなり向こうの方で魔物がぐしゃってなって飛び散ってた。


「敵が来た……避難しておけ」


「は、はい……それじゃっ!!」


 あぁぁぁぁびっくりしたぁぁぁぁぁっ!!

 衝撃波どんだけ飛ばすんだあの人!

 てかあれだけ距離があるならまず私に一言あたっていいじゃんコミュニケーション能力もうちょっとどうにかしてほしいんだけど!


 そそくさとその場を移動し、王国の中心、食堂前の広場の真ん中で丸くなってたドラゴンさんに声をかけてみた。


「あのー、ドラゴンさんって言葉通じますかね?」


「……?」


 ギョロリと大きな目が私を見据えた。


「……すいませんでしたー」


 ダメだこりゃと思ってその場を後にしようとした時。


「待て、聖女よ」


「うへっ!?」


「そんなに驚く事はあるまい。我はドラゴンさんではない。聖竜である」


 光り輝く真っ白で綺麗な鱗が陽の光に反射してちょっと眩しい。


「聖竜さん、ですか。じゃあ聖同士でお仲間ですねー♪ そ、それじゃ……」


「待て聖女。我に聞きたい事があったのではないか?」


「え、えーっと……そうですね……ロンザとコーべニアがどこ行ったか知りませんか?」


 静かにここを去ろうと思ったけれど圧に負けてつい質問してしまった。


「ふむ……ロンザ、コーべニア……聞き覚えがあるな。確かせわしなくここを行き来していた連中がそんな名前を……」


「本当ですか!? どこに行ったか分かりませんか!?」


「しばし待たれよ。思い出す」


 よっこいしょとか言いながら聖竜はその巨体を起こし、どすんと胡坐をかいた。

 この世にあぐらをかくドラゴンが居るとは思わなかった。


「リャナ……そうだ。リャナに行くと言っていたな。あれはおそらく本人達だったのだろう。一人は赤い鎧を……」


「そ、それがロンザです! 間違いありません! リャナですね……! ありがとうございます♪」


「行くのか? お前は戦闘要員ではないだろう?」


「一応あの二人は私の仲間ですから。私が居ないとどうしようもない人達ですしね♪」


 聖竜は私をじっと見つめて「心配は要らぬと思うが行くなら気を付けるがいい」と言ってくれた。


「はいっ♪ 心配してくれてありがとうございます! ちょっと覗きに行ってきますね♪」


 周りで話を聞いていた他の魔物さんが転移アイテムを貸してくれたので有難くそれを使わせてもらう事にした。


「さってとー二人とも頑張ってるかな?」


 リャナの町まで転移。


 ふわっと目の前が白く輝いてちょっと頭がクラクラしたけど、一瞬で私はリャナの町の前まで……。


「えっ……」


 私が見たのは、沢山の魔物の亡骸と、手足が千切れて黒焦げになってるロンザとコーべニアだった。


「ちょっとロンザ! コーべニア!! 嘘でしょ!?」


 慌てて駆け寄る。二人は町の入り口から少し

 入った所に転がっていた。


 見覚えのある鎧と杖ですぐに二人だと気付いたけれど、これは……。


「あぁ~なんという事でしょ~う! 早くこの人達を治療してくださぁ~い!!」


 二人のすぐそばには太った人と、人間じゃない小さい人が何人か。それを遠巻きに見つめる一般人達。


「ダメですプルットさん! これだけの傷を癒す薬がもうありません!」


 小さい人が叫ぶ。でも私はその言葉を聞いて安心していた。


 これだけの傷を癒す薬が無い、という事は息はあるという事だ。


「みんな少し離れて下さい!」


「君はいったい……」なんていう定番の言葉は無視して二人に祈りを。


 黒い煤は落ちないけれど、ボロボロになっていた体はすぐに修復された。小さい人に千切れた手足をもってくるようにお願いすると、既に用意してあったらしく私に手渡してくれたのでそれも繋げる。


「……よし、これで二人は大丈夫。これはいったい何があったの……?」


「それがぁ~光ってる変な女がぁ~」


 プルットと呼ばれたおじさんがあたふたしながらそう口にしただけで、私は誰が二人をこんな風にしたのか分かってしまった。


「そいつ今どこに……!?」


「ここに居るぜ」


 上空から声がして慌ててそちらを見ると、手足が金色の毛で覆われ、頭部には獣のような耳が生え、沢山の尻尾が生えた女の人が……。



 あれは、間違いなくハーミット様と一緒に居た人だ。


「貴女が……? 絶対に、許さないから」


「おいおい……誰が来たかと思えば聖女様かよめんどくせぇな……」


 私がキッと睨むと、彼女は大きなため息をつく。


「はぁ……お前に何が出来るって言うんだよ……しかしカルゼからお前には手を出すなって言われてるんだよなぁ……まぁこれだけ暴れりゃもういいだろ」


 そう言って彼女はどこかへ消えてしまった。


 すぐにでも追いかけたいくらいだけど、それより今はすべき事がある。


「プルットさんといいましたよね? 怪我人がいるなら案内してください。私が治します!」



「しかしぃ~この二人はぁ~」


「こいつらならもう大丈夫ですから。それより怪我している人達を!」


「分かりましたぁ~! ゴギスタ! 彼女を案内してさしあげなさい!」


 どうやら王国から来ている魔物やロンザ、コーべニアのおかげで魔物自体は全て倒したようだった。ゴギスタという小さい人に話を聞くと、全て終わったと安心した所にあの女が来たらしい。


「あっという間だった……」と彼は震えながら語る。


 ハーミット様、これも貴方の指示ですか?

 それともあの女の独断ですか?


 どちらにしても、絶対に許さないから。

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