変態砲撃手は動悸がヤバい。
転移アイテムを使ってナランに到着すると既に辺りには魔物の遺体が沢山転がっていた。
その中に紛れて王国の魔物の姿も……。
やはり個体の能力が低くてもこれだけ大群で攻め込まれると、各個撃破しか手段が無い場合こうなってしまう。
私の役目は街の、そして防衛に来ている魔物達の被害を少しでも減らす事。
そうしている間にも空はどんどん黒くなっていく。
思ったより敵が多い……地上からもどんどん集まってきているみたいだし、早くまとめて数を減らしておかないとまずいかもしれない。
「サヴィちゃん、空の奴等を一掃できますか!?」
『ちょっと数が多いですねぇ~一度で全部は難しいです~』
「なら何回かに分けてやってしまいましょう。もう空から街の中へ降り立っているのも居るようですし早くしないと」
『そうですね~じゃあいっちょやったりましょーっ♪』
ハーミット領でやったように、再び拡散式の砲撃を空に放つ。
三度の砲撃でほぼすべての魔物を焼き払ったが、砲撃の合間を縫って街へ侵入してしまった魔物も居る。
早く加勢しに行かないと……!
地上から進行してくる魔物も、街道の南側から来る敵は一通り対処出来た。
しかし北側から来ている敵も居るかもしれない。
後は街の中に侵入してしまっている魔物を倒しつつ北側の確認だ。
街の中へ入ると、数はあまり多くない者の魔物の姿が見える。
逃げ遅れた人達が悲鳴をあげながら家に飛び込んで行くところだったので、背後から飛び掛かろうとしていた魔物をエンペックで撃つ。
「早く家の中へ!」
「す、すまねぇっ!」
頭の薄いおじさんが転がり込むように家に飛び込み、鍵をかける音がした。
パッと見た感じドアを破られているような家はなさそうなので家の中に居ればある程度の安全は確保できそうだ。
確実とは言えないけれど、大きなホールや障壁などを張れる人材が居ない時点でそれぞれ身を守ってもらうしかない。
一か所に集めてそれをみんなで守る、みたいな方法がとれればそれでもいいんだけどきっと今この街の防衛部隊は街の中に散ってしまっているだろう。
このまま一気に殲滅してしまった方がいい。
「早くこちらに! 後は俺に任せて!」
路地の向こうから若い男女が飛び出してきて、私に気付くと泣きながら保護を求めてきた。
二人の家の場所を聞き、そこまで護衛しながら送り届ける。
それにしても……さっきの声は聞き覚えがあった。
「ナーリアさんじゃないですか!」
「えっ?」
急に背後から話しかけられ、振り返るとそこには……。
「あっ、イムライさん! 貴方も戦っていたんですね」
先程の声はイムライさんのものだったか。
「リーシャ達は……?」
「二人は家に待機してもらっています。無事ですよ。本来は家族を守るべきなのかもしれませんが……さすがにこの状況ですから。街を守らなければ本当の平穏は訪れません」
この人は……本来こんな状況だからこそ家族の事を最優先する物だと思うけれど……。
姫がみんなに守りたい人を最優先しろって言うのはこういう人がいるからなんだろう。
守りたいものより守るべきものを優先してしまう。
勿論それは素敵な事だと思うし、物語りなどで語られるような英雄たちは皆同じような資質を持っていた。
でも、それはとても辛い事だと思う。
「イムライさん、この街は私達が責任を持って守りますから……だからリーシャとイルナさんの傍に居てあげて下さい」
「いや、しかし……俺は……!」
イムライさんは眉間に皺を寄せ、葛藤していた。本当は自分だって家族の傍に居たいくせに。
「俺は……俺には、やらなきゃいけない事が……」
「貴方が何に責任を感じているのか分かりませんけど、少なくとも今の貴方がやるべき事は二人の傍にいて安心させてあげる事です。万が一何かあった時、後悔せずに生きられるんですか?」
「……っ!」
「……確かに、君の言う通りだしかし……本当に自分の大事な物を優先していいのか?」
彼は簡単に答えを出せないでいる。
「当然です。それにリーシャは私にとっても大切な人なんですから。きっちり守ってもらわないと困りますよ?」
「はは……そうだったね」
イムライさんは何故かとても辛そうな顔をしている。
「あの……私が口を挟むような事ではないのですが、自分の気持ちに素直になっていいと思いますよ」
「……俺は実力もないのに正義感ばかりを振りかざして……それなのにうまくいかない事を全部他人のせいにして表舞台から逃げたダメな男なんだ。こんな状況ですら動けないなら俺は本当に最低じゃないか」
……? 彼にも乗り越えなければいけない過去があるのかもしれない。
私は、このナランでいろんな事があって、今ではやっと前を向けるようになった。
いろんな人と出会って、乗り越える事ができたと思う。
彼はまだ何かに囚われたままなのだろう。
「イムライさん。私達は神様じゃないんです。出来ない事っていうのは必ず出て来ます。だからこそ、出来る事をしなきゃいけないんですよ。でもそれは自分の命があってこそなんです。戦うのは自分自身だから、家族を最優先に考えるのは当たり前じゃないですか。それは誰に非難されるものでもありません。その人のすべき事、なんですよ」
「ナーリアさん……」
「なんて、全部姫からの受け売りなんですけどね」
「姫……確かにあいつの言いそうな事だ。……そうだな、今回はあいつの言葉がスッと入ってくるよ」
イムライさんはそう言って笑った。
「すまなかったね。ずっと心にもやもやが残っていたんだ……。しかしこれでスッキリした。今日、今ならばはっきりと言える。リュミアは死んだ。俺はただのイムライだ! ありがとう! いつか必ず君には礼をさせてもらうから!」
イムライさんはその言葉を残して自分の家へ走っていった。
「それでいいんですよ。あとは私達に任せて下さい」
そんな風にカッコつけて彼を送り出し、気分良く魔物退治をしていた時にふと気付いてしまった。
イムライさんの言葉の中に出て来た名前について。
正直、魔物退治が手につかなくなるくらい心臓の鼓動が加速して辛かった。
私は、いったい誰に説教染みた事をしていたのだろう。
恥ずかしすぎて心臓発作でも起こしそうだった。
せめてリーシャの顔でも見て癒されたい。
……今幼い彼女を見たら理性が持つかわからないけど。
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