らいごす君は獅子奮迅。
転移アイテムの管理を他の者に任せてグリ蔵で移動してしまったのは失敗だった。
アシュリー殿は恐ろしい人なので出来れば怒らせたくないところである。
ライデンへ転移したところ、既に街の中にまで魔物が進行しており、我はそいつらをなぎ倒しながら進む。
街中に人の遺体などが転がっていないところを見ると一応間に合った、と思っていいのであろうか?
と言ってもかなりギリギリであったのは間違いなく、ところどころで悲鳴が聞こえてくる。
それを王国から防衛に来ている魔物が対処している状態だった。
「ライア! 戦況はどうであるか!?」
「ライゴスじゃないですか! 街の奥にある大きな劇場に大半は避難完了しています。今は逃げ遅れている人々をそちらへ案内しつつ魔物を殲滅している状況ですよ!」
王国ではぽんぽこさんと呼ばれているライアが小さな体でこちらへ駆け寄ってきて状況を説明してくれた。
「しかし私は戦闘向きじゃないのでそろそろしんどかったんです……ライゴスが来てくれて百人力ですよ」
「ロピアとセスティの父上殿はどうしてるのであるか?」
確かここにはその二人が来ているはず。
「あの二人も同じです。街中を駆け回って避難が遅れている人を探している筈ですよ」
「ふむ、あとどの程度居るのかは分からぬが我も参戦しよう。現状どの程度の魔物が残っているのであるか?」
「そこまで多くは無い筈です。侵入されるまでに半数程度は始末したのですが数に押し切られてしまって……おそらく残り三十程度だとは思うのですが」
思ったより多い。ならば最初の段階で六十以上の魔物が押しかけた事になる。
それを考えればあらかじめ派遣された者達だけでよく耐えたというべきであろうか。
「あれー? ライゴっちやんか!」
噂をすればなんとやら、というやつで、ロピアが怪我をした男性を一人背負って現れた。
「らいらい、回復魔法使える奴おらん?」
「らいらい……? ま、まぁいいでしょう。それなら皆が避難している方に居ますから早く連れて行ってあげて下さい」
「さんきゅー♪ ほれ、もうちっとがんばりやー? すぐに怪我も治してやるで」
ロピアが背中の男性に話しかけ、男は少し照れながら「す、すまない」なんてやり取りをしている。
「気にせんとき。困った時はお互い様やで♪」
「そうだライゴっち、おっちゃんの姿が見えへんねん。一応気にかけておいてもらえると助かるわ」
セスティ殿の父上に何かあっては申し訳が立たない。逃げ遅れた人達を探しつつ、彼の行方も探って行く事にしよう。
「分かった。早く敵を殲滅してしまうのである。ロピアもその人を避難させ早々に戻ってくるのである」
「あいよーっ! じゃあ頼むで!」
ロピアはぴょんぴょんとリズミカルに走っていった。
「では我は撃退にあたる。ライアは無理しない程度に、逃げ遅れた人の避難誘導メインで頼むのである」
「分かりました。……貴方にこんな事言う必要は無いと思いますがライゴスも気を付けて。一人でも多く救ってやりましょう」
「うむ。心遣い感謝するのである」
ライアはどちらかというと魔王軍幹部の中でも潜入や情報収集など裏方の仕事がメインで、人里にもよく行っていた。
ほかの魔物達よりも多少人間に対し思う所があるのであろう。
奴とは昔からそれなりに付き合いがあったのでこうやって同じ戦場で戦える事を嬉しく思う。
役割は違えど、同じ目的の為に動くとなればそれは一緒に戦うのと同義。
我も遅れてやってきた身であるからそれなりの活躍をせねばなるまい。
我ながら獅子奮迅の活躍をみせた……と思う。
群がる魔物どもを千切っては投げ千切っては投げ……そして、ほぼ倒しきったそんな折、どこかから呑気な声が聞こえてきた。
「だからさ~助けてあげたお礼に今度食事に付き合ってよ~別にいかがわしい事いきなりしようなんて思ってないからさぁ」
「いきなりじゃ無ければするって事でしょう?」
「い、いやいやおじさんがそんな欲の塊に見えるかい?」
「……見える」
「やだなぁこれでもおじさんは……げっ」
……セスティ殿の父上を見つけたのはいいものの、あちらはあまり見つかりたくなかったようである。
しかし見つけてしまったからには仕方ない。
油を売っている暇があれば少しでも戦ってもらった方がいいであろう。
こちらに気付いて固まったと思っていたセスティ殿の父上は、よく見ると我ではなく少し後ろの方を見ている。
まさか魔物が背後から……?
慌てて振り向くとそこには……。
「わんころ、どいてな」
ハイカラな色をした服装の女性が鬼の形相で我を押しのけた。
「う、うむ……」
何故だか分からない。だが、我を引かせるだけの迫力が彼女にはあった。
「い、いやこれはその、人命救助に勤しんでたんだよ。あ、そうだ! それより久しぶりだな! 危険が迫ってると聞いて助けに来たんだ」
「……へぇ。そりゃありがとうよ」
「そういう事だから! さ、お嬢さん一緒に向こうへ避難しましょう」
セスティ殿の父上が、まるで彼女を恐れるかのように助けた女性を連れて行こうとするが……。
「ユリ。そいつに何言われた?」
「女将さん、この人もしかして……」
「あ、あら……もしかして、知り合い……?」
「この子はうちで雇ってる子だよ。今あんたから言われた事を全部聞き出してやるから待ってな」
父上殿の顔からサァーっと血の気が引いて行く。
「元気そうで安心したぞ! 俺はまだ魔物を倒しに行かなきゃいけないから! それじゃっ!」
「待ちなッ!」
女性が帯の内側から鞭のような物を取り出し、それは見事な鞭捌きで父上殿の足を絡め取りそのまま引き摺って手繰り寄せる。
「ご、誤解だ! 俺は人助けを……!」
「この人に食事誘われました。あといかがわしい事しようとしてました」
「待ってお嬢さん! それは誤解だってば!」
「誤解だろうとなんだろうと相手にそう思われたらそれが真実になるんだよ。あんたには二度とそんな気が起きなくなるくらいの躾が必要みたいだね」
我は無言でその様子を見ていた。正確には言葉を失い、身動き取れずにいた。
やっと気付いたのだ。この人は、きっとセスティ殿の母親であろう、と。
「ほら、まずは避難だろ? 案内しな」
「だ、だったらコレほどいてほしいな……」
「なんか言ったかい?」
「……何も」
結局そのまま父上殿はずるずると引き摺られながら道案内をしていた。
器用なものである。
「しかしまぁ、その……なんだ。わざわざ来てくれたのは……ありがと」
「そこ右……ん? 今何か言った?」
「うるせぇ死ね」
どげし! と女性が父上殿を蹴りつけた。
父上殿は、「ぐえっ」と呻きながらも何故か嬉しそうな顔をしている。
それがどのような感情なのか我にはよく分からなかったが、それこそが我等が守った物であるのは間違いないのであろう。
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