大賢者は約束する。
「はぁ……なんでよりによってお前と一緒かねぇ」
「姐さんそりゃねぇですぜ。あっしだって故郷を守りたい気持ちは同じ……」
「お前が守りたいのはゲコ美だろうが……あたしの場合は守らなきゃならない女が山ほどいるんだよ」
……こちらが通信を繋げている事に気付かずサクラコとゲッコウがそんな会話を始める。
このまま二人だけに任せるのも不安だ。
勿論ニポポンにもある程度の人員は派遣しているものの、小さな村や町が多いため転移能力者が誰も居ないというのは不安要素だろう。
「クワッカー、私はこれからニポポンへ行ってくる」
「ちょっと、今帰ってきたばっかりじゃないのよ」
「仕方ないだろ。動ける奴が動けるうちに動かなきゃ手遅れになる」
「ほんとにアシュリーちゃんは働き者なんだから……」
「いや、さっきはリザード達が手伝ってくれたからな。かなり楽が出来たよ」
「とか言って本当は一人の方が楽だったんじゃないの?」
「いや、そんな事はないさ。邪魔な奴等なら居ない方がいいけどちゃんと戦力になったし私も無駄に消耗せずに済んだしな」
それよりもニポポンとロンシャンだ。
「私の事はいいからクワッカー、ロンシャンの方はどうだ?」
「ロンシャンの方は今の所大丈夫そうね。それよりナランの方にも結構な量の魔物が向かってるみたいよ」
ナランか……それはそれで厄介だな……。
「本当は私がナランに行った方がいいんだろうが、ニポポンには自由に転移出来る奴の方が都合がいいからな……ナーリアに行ってもらおう」
「そうね、ナーリアちゃんなら各個撃破も多数まとめてもいけるものね」
……人がごちゃごちゃした所に行かせるのは不安もあるがこの際仕方ないだろう。
「クワッカー様、アシュリー様、ライデン方面にも魔物が……」
ザラが魔物の動きを追加で知らせて来た。やはり範囲が広いと手が回らないな……。
「おいおい……ライデンには多少人員を向かわせてはいるが……その中に居るのはロピアとセスティの親父さんか……念の為ライゴスもそちらに向かわせよう」
「アシュリーちゃん、言いにくいんだけどリャナにも人を回せないかしら? 少し苦戦してるみたいなの」
「あぁもう……! そこには、そうだな……あと誰が居る!? そうだ、あの三人を……いや、ヒールニントはいい。ロンザとコーべニアを向かわせよう」
まずはサクラコ達だな。
「おいサクラコ聞こえてるか?」
「うわっ、びっくりした……! 連絡来たって事は奴さんが来たのか?」
「とりあえず私がそっちに向かうから転移であちこち片付けて回るぞ。分かりやすい場所で少し待機しててくれ!」
それだけ伝えて通信を切る。
「おいナーリア! ハーミット領は終わったか!?」
「あっ、はい! もう大丈夫だと思います!」
よしよし、なかなか仕事が早いじゃないか。
「だったら次はナランへ向かってくれ! 頼んだぞ!」
「……ナラン、ですか……分かりました。必ず守ってみせます」
そう言えばナランはナーリアとも関りが深かったな。……上手くやれよ。
通信を切り、ライゴスを呼び出す。
「ライゴス! 今はニーラクか?」
「あ、アシュリー殿であるか? いや、その……今はわけあってニーラクから少し離れた所に居るのである」
なんだと……? こいつこの忙しい時に何を……。
「ねーねーらいごす君今どこから声がしたのー? あしゅりーちゃんの声がしたよ?」
あしゅりーちゃんだぁ??
その声は、確か……。
「そうか、リナリーの所にいるのか」
「なのである。リナリーの家にも魔物が群がっていたのでそれを片付けて、これからライノラスの家周りの魔物を……」
ライノラス? そう言えばあの近くに住んでる魔物が居たな。
「ライノラスは強いのか?」
「あったりめぇだろうが! 俺様はライゴスの奴なんかよりも強いぞ!」
ライノラスの声が通信機から聞こえてきた。
「らいごす君の方が強いよーっ!」
「ふっふっふ……お子様はまだ強さってものが何なのか分かってねぇらしい」
……なるほどなるほど。
「そうか、それだけ強いライノラスなら自分だけで魔物は何とかできそうだな」
「えっ、おい! 冗談だろ?」
「ライゴスは借りて行くからな。後は自分でどうにかしてくれ。強いんだからなんとかなるだろ」
「そ、そんなぁ……」
「ら、ライノ……すまんのである」
「あーもううるせぇなもう行っちまえ。てめぇの家くらいてめぇでなんとかするさ」
「かたじけない!」
二人の方は話がついたようだ。
「とにかく今は時間が惜しい。リナリーとその親、あと犬っころがまだ無事なら全員一度王国へ連れてこい。ここが一番安全だ。そのあとライゴスはライデンへ行ってくれ」
「そ、それが……我は転移アイテムを持っていないのである。他の者達に管理を任せていたので……」
あーもうこいつときたら!
私は即リナリーの家の前まで転移する。
「無駄な力使わせるんじゃねぇよ! ほれ転移アイテムだ! お前はこのままライデンまで行け! リナリーは私が預かる」
「わーいあしゅりーちゃんだー!」
きゃっきゃと喜ぶリナリーに軽く微笑みかけ、近くに居たライノラスに、「案内しろ。二分で全部片づけてやる」と告げ、小脇にリナリーを抱えたままライノラス宅まで行ってきっちり二分で皆殺しにしてやった。
「あぁ……畑が魔物の死骸だらけに……」
「いい養分になるかもしれないぞ」
「あんな養分いらねーよ!」
せっかく魔物を倒してやったのにうるさい奴だな。
「とりあえずライノラスにも転移アイテム渡すから一度リナリーを連れて王国へ避難してくれ。私はこのまま次へ向かう」
「わ、分ったよ……いう事聞いておいた方がよさそうだ。でも早めにケリつけてくれよな? 俺は平和に畑仕事がしたいだけなんだ」
いかつい外見の癖に平穏主義のようだ。勿論私としても平和なのが一番だけど。
「あっ!」
「……どうした?」
「リナリー嬢ちゃんの親父さんを忘れてた」
「……そいつも回収して王国へ行ってくれ」
ライノラスはめんどくさがりながらもそれに従ってくれた。
「あしゅりーちゃんまたねー♪」
「おう、すぐに平和な世界にしてやるからな」
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