らいごす君は遅れてやってくる。


「えぇい、まだつかないのであるか!?」


「もうすぐだようるせぇなぁ……」


 グリフォンがかなりのスピードで空を駆けているがそれでもまだ足りない。

 今は少しでも早く到着したかった。


「お、見えてきたぞあそこが俺の……」


「グリ蔵! この近くにある民家の方へ行ってほしいのである!」


「おいこら勝手に……」


「分かった。連れてってやる」


「グリ蔵!?」


「かたじけないのである!」


 ライノよりよっぽど話が分かるではないか!


「おいおいマジかよ……俺の家魔物群がってんじゃんよ……」


「すまんライノ。あちらが終われば我も協力するのである」


「ったりめーだろうが! 俺の畑が使い物にならなくなったらどうしてくれるんだ畜生……こうなったらさっさと行くぞ!」


 ライノはブツブツ文句を言いながらもこちらを手伝ってくれるようだった。


「すまぬ」

「謝るくらいなら感謝しやがれ」


「……そうで、あるな。ありがとう」


「うえっ、気持ち悪っ……お前本当に変わったよな。ヒルデガルダ様と一緒に居る時は振り回されて大変そうだったが、それ以外はぶっきらぼうで我が道を行くって感じだったのによ……」


 ライノはグリ蔵に跨ったまま我の方を振り向き、そこに誰も居ないと気付くと視線を下に向けた。


「……身体までこんなに可愛くなっちまって……」


「その点ライノは何も変わっておらぬな。昔から飄々としたその態度……今も王国に与する訳でもなく一人で……」


 ライノが一瞬顔をくしゃっとして、こんな事を言った。


「それはお前んところの姫さんのせいだろうがよ……プリン仮面がどれだけトラウマになったか……」


 プリン仮面……そう言えばそんな事もあったのである。今となっては懐かしい話であるが……。


「ちなみに今セスティ殿は呪いが悪化して常にあの状態である」


「……嘘だろ……?」


 ライノがガタガタと震えだした。余計な事を言ってしまったのである……。


「しかし今はアルプトラウム……お前も見たであろう? 神と対峙しに行っているのである。お前が会う事はないであろうよ」


「……マジでそう願うぜ。あの無邪気な笑顔を思い出すだけで冷や汗が噴き出てくるんだよ……そ、それより! あっち少しやばそうだぞ」


 ライノの言葉に、グリ蔵から顔を出して下を見ると目的地の周りに魔物がうようよと集まってきていた。


 そして、今まさにドアを破壊し魔物が突入した所だった。


「ライノ! 我をあの二階の窓目掛けて投げろ!」


「お、おう! 行くぜーっ!」


 ライノが我の頭を掴みぐるんぐるんと二回ほど腕を回してぶん投げる。


「きゃぁぁぁぁっ!!」


 窓ガラスの向こうに懐かしい顔が。

 しかしその顔は恐怖に歪んでいた。


 がっしゃぁぁぁぁん!!


 こんな体でもライノの怪力で思い切り投げつけられればガラスくらい割る事が出来る。


 そして、今にも襲い掛かろうとしている獣型の魔物へ飛び蹴り。


 これはたいして効きもしないが、怯ませる事くらいは出来たようである。


「無事かリナリー!?」


「ら、ら、らいごす君だぁぁぁ!!」


「遅くなってすまなかったのである。こんな奴等我があっという間に片付けてやるのである!」


 我に気付いた途端、リナリーが飛びついてきたので身動きが取れなくなってしまった。


「ぬおっ、リナリー! 離れるのである! 戦えないのである!」


「らいごす君だらいごす君だらいごす君だぁぁぁっ!!」


 そんな状況を魔物達が待ってくれる訳もなく、こちらに一匹が飛び掛かってきた。


「ええい、やむを得ん!」


 リナリーに抱き着かれたまま元の姿に戻り、我と共に元のサイズに戻った魔斧を振り下ろす。


「ぐぎゃぁぁっ」


「らいごす君おっきーい!」


「いっそそのまましっかり掴まっているのである!」


「わかったー♪」


 我はそのまま部屋になだれ込んでくる魔物達を次々に切り伏せた。


「リナリー! パパ殿はどこであるか!?」


「……パパは多分一階に居ると思うの……」


 急に不安そうになるリナリーの頭を撫でる。


「大丈夫なのである。すぐに助けにいくのである!」


 部屋を出て廊下へ飛び出ると廊下にも魔物がおり、そいつらをなぎ倒してリナリーの案内でパパ殿の部屋へ。


「……誰もいない、のであるか……?」


「ぱぱー? 居ないのー?」


 部屋の隅でガタッ! と音がして、「リナリー!? 無事なのか!?」と声が聞こえてきた。


「うん、私は大丈夫だよー!」


「そ、そうかよかった……」


 そう言いながら部屋の隅にあるクローゼットの中からパパ殿が姿を現し……。


「ぎゃーっ!!」


 我の姿を見て叫んだ。


「こらっ! らいごす君は私達を助けに来てくれたんだよ!?」


「らい、ごす……くん? あ、あぁ……! 君はいつぞやの……!!」


「しばらくぶりであるパパ殿。先日上空に投影された映像は見たであるか?」


 パパ殿は「あの神様だとかなんとかいう……?」と訝し気に呟いた。


「そちらではない。我はセスティ殿の仲間である。安心せよ。既に家の中の敵は全て排除したのである」


「そ、そうだったのか……君には、その……いつも辛く当たってしまい、申し訳なく……」


「カッカッカ! 構わんのである! 人間からしたら怖かろう。しかし我が来たからにはもう安心である! ……シロはどこであるか?」



「シロなら外に……」


 その言葉を聞いてすぐに外へ飛び出した。

 せっかくあんな大変な状況を生き延びたのにこんなところで死なせるわけには……!


「おう、遅かったな」


 そこには魔物達を蹴散らしたライノラスが。

 そして……。


「キャンキャン♪ ワン♪」


「おい、こいつをどうにかしてくれ……」


 ライノの足元を元気なシロがぐるぐる駆け回っていた。


「ライノ、感謝するのである。よくシロを守ってくれた」


「よせやい気持ち悪い。それより、次は俺の家だからな?」


 そう言って笑うライノに、もう一度礼を言おうとした時。


「らいごす君のおともだちー? らいの君って言うの? わたしリナリーよろしくね♪」


 我等は顔を見合わせて豪快に笑った。

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