魔王様と始まる終わり。


 私達は最終決戦へ向かう。

 最後の最後で転移失敗したら馬鹿だからここは安全策を取ってめりにゃんにお願いした。


 メアは勝手に一人で転移し、めりにゃんが私とショコラの手を取って光の剣まで。


「近くまで来てみると……恐ろしくでかいのう」


 めりにゃんの言う通り例の剣はとてつもなく巨大だった。

 私達は剣の刀身中腹あたりに転移していたので見上げる形で上層部を目指す。


「なんだかこの剣様子が変じゃない?」


 私達の背後にメアが現れ、そんな事を言った。

 何がおかしいのかと一瞬考えたけれど、見るからにそれまでと違う所があった。


「おにぃちゃん……この剣光ってない」


 今まではエネルギーの塊で出来ているような感じで光り輝いていたんだけど、私達がここに来て見たそれは……ただのとてつもなく大きな剣だった。


 メアが近付いて刀身をコンコンと叩いてみる。


「……ちゃんと質量があるわね」


「もうエネルギーを蓄え終わって実体化したって事?」


 もしそうなら困る。

 間に合わなかったんだろうか?


 下部を見下ろしてみても剣先が見えないので状況が分からない。


 ……あれっ?

 そう言えば海が剣を避けて地面が見えていたはずだけれど、今は剣先は海に飲まれている。


 それが何を意味しているのかは私にはよく分からないけれど、明らかに状況が変わっているのだけは確かだった。


『だーりん、上の方に誰かの気配があるべさ』


 誰かの、というよりこんな所に居る奴なんて一人しかいないよね。


「分かった、とりあえず上に行こうか。いきなり戦闘になる可能性も考慮しておいてね」


 皆が頷くのを確認してから私はみんなを先導するように剣を登っていった。



「……やぁ、姫ちゃん。随分可愛らしくなったじゃないか」


 剣の一番上まで行くと、実体化している剣の上にデュクシが立っていた。


「残念だけど少し遅かったね。もしかしたら姫ちゃん達なら気付いているかと思ったけれど……少し買いかぶり過ぎたかな」


 ……デュクシ、アルプトラウムはつまらなそうな表情で顔を何度か横に振った。


「気付いてるって……何の話よ」


「そこから説明しないといけないのは少し面倒だね」


 無機質な表情をこちらに向けてくる彼は、デュクシであった事を忘れてしまったかのように感情の起伏が感じられない。


 以前はもっとコロコロと表情が変わるムードメイカーだったのに。


「そもそもだよ、姫ちゃん達はどうしてここに来たんだい?」


「こんな分かりやすい場所に待機してたくせによく言うわね」


「ふふ、確かにここに居たのは姫ちゃん達がここへ来ることを見越してだけれど……本来ならここで君らを讃えようと思っていたんだ。……だというのに、私はこれから君達へ絶望をプレゼンんとしなくてはいけなくなってしまった」


「アル、御託はいいのよ……私達は貴方と決着をつける為にここまで来たんだから。戦いましょう?」


 メアが痺れを切らしたようにどこかから剣を引きずり出す。

 あれはロザリアが持っていた剣。修復がしばらく出来なくなる質の悪い剣だった。


「メア、君は姫ちゃん達と一緒にいるようになってから少しばかり短絡的になったね。以前から、思い立ったら即行動、だったけれど……今は考える前に動いてしまっている感じだね。結果、以前よりつまらない存在になった」


「うるさいわね。勝てばいいのよ」


 アルプトラウムはその言葉を聞いてケラケラと笑った。


「勝てばいい、本当にそうかな? 君はディレクシアでの戦いで勝利した。だが本当にそれは君にとっての勝利であったかい?」


「……っ!」


 アルプトラウムはメアの反応を楽しむように、更に続ける。


「君は確かに戦いには勝利しただろう。国の民もほぼ実害はなかっただろう。だがしかし……君はそんな事よりも失いたくなかった物を……」


「うるさいっ! ……何が分かるのよ。アル、私は貴方を絶対に許さないから」


「あれはあの女が自分の意思でやった事だ。私はその背中をほんの少し後押ししてあげただけさ。実に滑稽で愚かな皇女だったが……」


 後押し……リンシャオは確かにアルプトラウムが提供した技術を利用してあれだけの事をしでかした。


 でも、きっとそれが無くてもリンシャオはやったと思う。

 規模は小さくなっただろうし、ただの国王暗殺計画程度で終わっちゃったと思う。


 勿論それが成功してしまったらどのみちディレクシアは困難な状況に陥ってただろうね。


「おにぃちゃん、やっていい?」


「だめ。もうちょっと待ちなさい」


 ショコラまで我慢の限界が近付いてるみたいだけど、まだ聞かなきゃならない事がある。


「アル、私は貴方を許さない。だけど……リンシャオさんの生き方を馬鹿にする事も許さない」


「勘違いしないでもらおうか。話には続きがある。確かに彼女は滑稽で愚かな皇女だった。しかし……私は、同時に彼女に敬意を表する。自分の命の使い方を選ぶのは勇気がいる行為だからね」


 何が言いたいのかよく分からなかったけど、彼なりにリンシャオの事を評価してるって事だけは伝わってきた。


「さて、話は戻るけれどね、君等の負けだよ。チャンスはいくらでもあった。気付く事は出来た筈だ……神術塔が六つあったとね」


「なん、ですって……?」


 神術塔が、六つ……? 私達が破壊したのは五つ。もう一つはどこに有ったっていうの?


 アルプトラウムは空虚な瞳のまま、口が裂けたかと思う程ニヤリと口角を吊り上げ、「楽しい演目もこれで終了だ」と世界の終わりを告げた。

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