魔王様御一行、出発す。


「じゃあみんなアシュリーの指示に従ってしっかりよろしくね!」


 集まっていた皆に一声かけてから、一緒にいくメンバー達に「ちょっと待ってて」と告げ、私はラボへ。


「おっ、ちゃんと転移出来た」

『……』


「何で無言なのよ」

『いえ、このまま完璧に転移できるようになったら仕事が一つ減るなと』


 ……えっ、もしかして……。


『ち、違います! 主が考えているような事では……!』


「メディファスったらちょっと寂しいんでしょ?」


『だからそうでは無くてですね!』


「いいよいいよそんな照れなくても~♪ どっちにしたって私はまだ完璧に転移出来る自信なんてないんだからさ、メディファスがしっかり見ててくれないと不安だよ」


『そう、ですか。分かりました今後も注視しておきます』


「よろしくね♪」


『仕方ありませんね。まったく主という人は我が』

「居ないと何もできないんですから」


『……』


「私にもメディファスが考えてる事分かるようになってきたよ♪」


『それは……困りましたね』


 そう言ってメディファスが笑った。

 この子も初めて会った時から比べてとっても人間らしくなった。

 時間っていうのは本当にいろんな事を変えていく。


 メディファスが人らしくなった。

 めりにゃんと私が結婚した。

 人と魔物が共存する世界になった。

 そしてデュクシがアルプトラウムになった。


 馬鹿な事して! って怒ってやりたい所だけど、デュクシがああなった理由を考えると私はむしろ褒めてあげたい。


 どんな手段を使ってでも大切な人を守ろうとして……事実、守ったんだもん。

 だからそれはよくやった、頑張ったね、辛かったね。って言ってあげたい。


 だけど……。


 自分を犠牲にしようとした事は許せない。

 結果的にヒールニントを守れたからデュクシとしては後悔はないのかもしれないけどさ、自分を犠牲にして守られた方の身にもなってみなよ。


 ヒールニントがその事実を知ったらどんな気持ちになるか……しかもヒールニント本人にあんな物を持たせるなんて趣味が悪すぎるって。


 それもデュクシに出来る精一杯のSOSだったんだとしたら……もしそうだったなら。


 任せておきなさい。

 きちんと連れ戻してあげるから。


 それと覚悟しておいてよねアルプトラウム。


 今度こそ……最後の戦いになるから。

 これで最後にするから。


「クワッカー、いるー?」


「あらあらぁ~? さっきまで演説してたと思ったら……こっちに何か用なのぉ?」


 奥の部屋から妙に身体をくねらせつつクワッカーが現れた。


「クワッカーは絶対ラボに籠ってると思ったよ」


 王国内の魔物があれだけ集まっていたとしても、多分この人は出てこないだろうな~って思ってた。


「まぁね~。だって様子は偵察機飛ばせば分かるしぃ~」


 きっとまたよく分からない研究に没頭してたんだろうなぁ。

 アシュリーと合同で何か始めると二人とも出て来なくなっちゃうんだよね。気が合うのは良い事だけど。


「預けておいたアレ出してもらっていい?」


「……やめなさいよ」


 クワッカーが露出の激しい胸元に手をやり、私をじっと見つめてくる。


「アレの研究はもう終わってるでしょ? だったら持ってく」


「……言い出したら聞かないのは知ってるけれど、女の子状態の魔王ちゃんは融通がきかないのが玉に瑕よねぇ~」


 私は、とあるアーティファクトをクワッカーに研究材料として渡してあった。

 それを万が一の時用に持って行こうって訳。


「よく分かってるじゃん♪ クワッカーとは付き合いそんなに長くないけど、理解力高くて助かるわ♪」


「これの効果自体はそのうち切れると思うんだけれど……副作用とかあるかもしれないわよ?」


「大丈夫だって。余程の事がなければ使わないからさ」


「自分だけの問題じゃないんだから気を付けなさいよね?」


 渋りながらもクワッカーはごちゃごちゃした機材の山の中からそれを取り出し、私に手渡した。


「はいこれ。使わなくて済むといいんだけれど」


「まぁどう転んでも世界が滅ぶよりはマシでしょ♪」


「気楽に言ってくれるわねぇ~。でもそういう所が魔王ちゃんのい・い・と・こ・ろ♪」


「えへへ、ありがと♪ じゃあ行ってくるわね」


 私に苦笑を向けながら手を振ってくれるクワッカーに私も手を振って、もう一度転移。


「……あれ?」


『……やはりまだまだ我が必要のようですね』



 さっきまで居た所に戻ろうとしたのに城の前に居た。


「……ま、まぁこういう事もあるわよねっ!」


『……』


「あるわよね!?」


『仕方のない主ですね』


 そんなやり取りをしながら転移はせずぴょーんと王国内を飛び回りながらみんなの所へ戻る。


「おにぃちゃん、どこ行ってたの?」


「んー? ちょっと忘れ物、かな?」


 ショコラが訝し気にじーっと見てくるのをかわしながらみんなの顔をぐるっと見渡して、「準備はいい?」と、分り切った質問を投げる。


「私はへーき」

「こっちはずっとセスティを待ってたのよ。それにしてもヒールニントはちゃんと避難してるのかしら……?」

「セスティと関わってからドタバタの日々じゃのう……これが終わったら二人でゆっくりするのじゃ♪」


 ショコラはジト目で訝しみ、メアはやれやれと呆れながらもヒールニントの心配。

 めりにゃんは私に微笑みかけながら腕にひっついてきた。可愛い嫁だなぁ。


「わだすも行っていいべか?」


 とてとて走ってきたチャコが私の足にしがみつく。


「チャコ……私達と一緒に行くって事は結構に危険だと思うけど……」

「百も承知だべさ! ここまで来たら一蓮托生、死なばもろともだべ!」


 死なばもろとも、って表現はこの場で使うべきじゃない気がする。私でもそれくらい分かる。


「じゃあまた神憑りお願いしようかな」

「お安い御用だべ♪」


 ……さて、ここからは本当にどう転ぶか分からない。

 出来る限りいい形で、望む結果を掴み取らないと。


「さぁ、最終決戦と行きましょうか♪」

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