元魔王が耐え切れぬ感情。


「それがカッコいいとか本気で言ってるの?」


「勿論! カッコいいだろうが! まさかこのセンスが理解できないのか?」


「……全く」


 目の前の魔族さんはがっくりと項垂れ、「カッコいいのに……」とか呟いてる。


 センス的に全く理解できない。


「ちなみにだけど、それがアーティファクトなの?」


「えっ、違うけど」


 違うんかい! じゃあ本当にただの趣味でこの服装をしてるのか……。


 というか魔族ってこんなに人っぽい奴もいたのね。


「まぁいいわ。私の目的は果たしたし、特に用がないようなら私はこれで帰らせてもらうわね」


「待て待て待て、一応俺はここに来た奴と戦えって言われてるんだ。そのまま帰られたら困る」


「うるさいわねぇ……だったらさっさとやりましょうよ」


 魔族さんは何故か顎に手を当てて「うーん」と唸り出してしまった。


「確かに命令を遂行するならお前を倒さねばならん。しかし……俺はお前に惚れてしまった」


「うえっ」


「珍しい喜び方だな」


「頭に虫でも涌いてんじゃないの……?」


「いや、さすがにそんなに不潔にはしていないぞ? むしろ綺麗好きで一日に二度は水浴びをする」


 聞いてないし皮肉も効いてないし。


「で、結局どうするの? 戦うなら相手になるけど」


「出来れば戦いじゃない方の相手をしてほしいんだが……うわっ!!」


 ほんとに気持ち悪くて我慢出来なくて思わず喋ってる最中に魔法ぶっ放してしまった。


「酷いじゃないか! 急に攻撃するなんて、当たったらどうする気なんだ!」


「死ねばよかったのに」


「照れるな照れるな。ストレートに求婚されるのは初めてか? ウブで可愛い奴よな。俺が一生幸せにしてや……うわっ!!」


「ちっ」


 私が放った魔法を慌ててかわした魔族は肩で息をしながらもまだ「照れ方が激しい……!」とか言っててマジ気持ち悪い。


「そもそも私は貴方と初めて会ったんだし名前も知らないし気持ち悪いし付き合う気も結婚する気もないけど?」


「おお、それは失礼した。俺の名はマーベリック。海賊王だ! 気軽にマベさんと呼んでくれ!」


 どうしよう、どこから突っ込めばいいのか全く分からない。


「マベさんね。それでそのマベさんは何故海賊王なの? 魔族が海賊?」


「それは……海賊王、それが男のロマンだからだ!」


 ……ダメだこいつ。


「私将来性もない、センスもない、力もないの三重苦野郎と仲良くは出来そうにないわ」


「なら問題無いな! 俺は将来ビッグになるしセンスも最先端だし君より強いからな!」


 マベ野郎は「カッカッカ!」と腰に手を当てて笑った。


 ……へぇ、大口叩くじゃない。

 こいつの一挙手一投足が全て私の神経を逆なでする。


「将来性があるように見えない。センスも悪い。それにあんたは私より弱い」


「……聞き分けの無い子だなぁ。そういう強がってる所も可愛いけれど、実力っていうのをちゃんとわからせなきゃ話が進まないか……」


 ああ、もう何でもいいから早く戦いましょうよ。これ以上こいつと話してると頭がおかしくなりそう。


「分かったから早くかかってきなさい。ぼっこぼこにしてやるから」


「強気な女性は嫌いじゃないが……度が過ぎるのは良くないな。俺が勝ったら俺の物になってもらうぞ!」


 こういう人を物扱いする奴大っ嫌い。

 この自分勝手さも。


 こんなに気持ち悪くは無かったはずだけど昔の自分みたいで嫌になる。


「もうそれでいいから。その代わり、一切手を抜かないわ。死んでも恨まないでよ」


 マベ野郎がキッと真剣な表情に変わる。


「ちょっと待ってろ」


 奴が眼下に広がる海を見つめ、何かを投げた。


 それが海面に触れた瞬間、ベキベキと凍り付いていく。

 かなり広い範囲が凍り付いたけれど今何をした? 魔法……? それともアーティファクト?


「へぇ、やるじゃない。アレが私達の舞台って訳ね」


「その通り。波の形がそのまま凍り付いているから尖ってる場所もあるぞ。気を付けろよ」



 なんでそんな所だけ紳士なんだよ余計気持ち悪いわ。


「心配無用よ」


 氷の上に降り立つと、結構滑る。

 危ないので靴の裏にギザギザをクリエイトして滑り止めにする。


 ザクザクと氷を踏みしめて確かめてみたけどちゃんと機能してるようだ。


「よし、これで大丈夫っと」


「手先が器用なんだな……家庭的で素晴らしい」


 あぁほんとこいつ無理。

 こいつには私がどう見えてるんだ……。


「ベラベラ喋ってないでこっちで語りましょう?」


 拳をマベ野郎に突き出すと、奴も同じように拳を突き出し笑った。


「では行くぞ!」


 目の前からその姿が消失する。

 転移魔法を駆使して戦う相手か、そういうのも久しぶりな気がする。


 でも、私そういうのは慣れてるのよね。


 背後に現れた気配を察知し、背中を狙って突き出された拳を身体をズラしてかわし、その手首を掴んで相手の勢いを利用してぶん投げる。


「うおっ!?」


 ゴロゴロと氷の上を転がるマベ野郎へさらに追い打ちで魔力の塊を上空から落とした。


 どごごごぼぼん!


 マベ野郎は氷を貫き、そのまま海の中へ落ちて行った。


「ぶはっ! な、なかなかやるな!」


 転移ですぐ帰ってきちゃったか。


「そのまま溺れて死ねば良かったのに」


「ふはは! その毒舌も慣れると愛おしいな!」



 ……マジでさっさと死んでくれないかなぁ……。

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