元魔王とぴちぴちスーツマン。


 うーん、ちょっと面倒な事になってるわね……。


 私が転移で島に来たところ、既に私の周りは魔物だらけだった。


 魔物、と表現していいものかどうかわからないような生き物だけれど。

 どちらかというとこの島特有の猛獣って感じ?



 とにかくそいつらは四足歩行なんだけど体はピンク色で、身体は私の四~五倍くらいの大きさ。


 顔の真ん中から長い触覚みたいなのが伸びていてその脇から二本の大きな角が生えてるようなやつ。


 それで触覚の下にでかい口がついてて牙が物凄い。


 この島に転移した瞬間に背後からその触覚で一発殴られて、頭来たから魔法ぶっぱなしたら「ぶもーっ!」とか大声で叫び出して回りの猛獣どもが一斉に私に向かってきてあーもう鬱陶しいったらない。


 ニ十匹くらい張り倒した所であまりに面倒になって空へ移動した。


 うーん、こいつら纏めて始末した方がいいのかなぁ?

 でももしかしたらもともとここに住んでただけの動物かもしれないしなぁ。


 その可能性も一応考えて殺してはいない。

 ちょっと張り手でべちん! ってやっただけ。



 でも普通の人間があれに遭遇したら食べられちゃうだろうな。


 ……というか、塔がないんだけど。


 上空から島を見渡してもどこにもそんな物があるようには見えない。


 えーっ? どうするのこれ。

 私来る島間違えた?


 いや、セスティじゃあるまいし私がそんな失敗する訳ない。


 どういう事だろう?

 もしカモフラージュしてあるとしたら?


 私は風魔法を使って自分を中心に全方位を切り裂いた。


 衝撃波はどこまでも飛んでいき、見えなくなったあたりで消えた。


 ……やっぱり塔なんかないじゃん。

 もしかして地面に入り口があるとか?


 地下に伸びてるとか。

 塔じゃなくてただの地下施設だけど、その可能性も無い訳じゃない。


 でも地面にはあのへんなピンクの猛獣が闊歩しててゆっくり探すって訳にはいかないなぁ。


 地面を見つめてる間にまた後ろから変な触覚で叩かれるし。

 そうなったら今度こそ殺しちゃうかもしれない。


 そうするしかないのかな。


 ……うーん、でもよく考えたら塔から魔力を放出してあの光の剣の所まで飛ばしていたわけだから、地面の中っていうのは不自然な気がする。


 もし地下にあるなら、島の先っぽの方に魔力を放出する為の仕組みがあるかも。


 私は島の外周まで飛んでいき、ぐるっと一周回ってみた。


 それっぽい物は何もないなぁ……。


「……えっ、嘘でしょ?」


 その時、私は気付いてしまった。

 ずっとこの島に塔は存在していたんだ。


 私に見えなかっただけで。


 島の裏側に。


 島の裏側から塔が下に向かって生えてる。


 違和感しかないこの光景を見たら笑えてきた。

 どうりで気付かない訳だわ。


 こんなくだらない事で時間稼ぎしようとするなんてアルの奴も意外とつまんない奴ねぇ。


 それともこれが面白いとでも思ってるのかしら?


 ここに来たのが私だったからいいようなものの、アシュリー達だったら塔の対処が出来るのアシュリーだけじゃない。


 ……まぁあの子だけでもどうにかなるとは思うけれど。


 さて、塔は見つけたけれどどうしたものかな。

 普通に島の上部にあれば登ろうかとも思ってたけど、こんな逆向きになってるやつを律儀に上から下っていく必要はないわよね。


 ゆっくりと下降し、塔の最上部……この塔で言う所の最下層前まで行って、壁を思い切り殴ってみる。


 ボボン!

 勢いよく穴が開き、中へ侵入できるようになった。

 アルの事だからもっと頑丈に作ってると思ってたけど、これは壊されるの前提かもしれないなぁ。


 ここを守っている魔族が居るって話だったけどどこに居るのかしら?


「魔族さーん? 出てこないならこの塔破壊しちゃうわよ?」


「ふん。壊したければ壊せばいいだろう」


 ……暗がりの中に寝転がってる男が居た。


「あら、壊しちゃっていいの? ここを守る為に居るんじゃないのかしら?」


「こんな物はどうだっていい。どうせ壊れたところで最早計画にはなんら影響は無い」


 計画……?


「じゃあ貴方はアルが何しようとしてるか知ってるっていうの?」


「いや、知らん。というか興味が無い……俺はここに来る奴と戦えと言われているだけで塔を守れとは言われていない」


 ……どういう事かしら?

 塔を壊しても意味がない?

 もうあの光の剣が完成しているからもう魔力供給の必要が無い?

 それは確かにそうかもしれないけれど……。


「だったら遠慮なく壊させてもらうわ」


 私は今いる場所から、トンっと塔の外へ出て、塔の最下層部分をあの魔族ごと魔法で吹き飛ばした。


「……壊してもいいとは言ったが俺を巻き込むんじゃねぇ!」


「あら、頭ボサボサになっちゃって……さっきよりかっこよくなったんじゃないかしら?」



「……いい度胸だな。惚れた!」


「うげっ、辞めてよ気持ち悪い」


 よく見て見たら見た目はほとんど人間と変わらないみたいだし、顔もさほど悪くないけどどうしても受け付けないところがある。


「貴方……どうしてそんなピッチピチの服着てるの?」


 赤い色の、身体にフィットするタイプの全身スーツみたいなのを着ていてなにやらテカテカしている。


「どうだ? カッコいいだろ!」


「……うぇっ」

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