魔王の嫁と盲信者。
「そうは言っても磁場を歪めるなんてそう簡単に出来る事ではあるまいよ」
『そうですか? 私できますけどぉ~?』
なんじゃと……? この空間自体の磁場を歪める……例えば儂の場合は時空に異空間への穴を開けてしまえば磁場はぐちゃぐちゃになるじゃろうが、こんなカタカツの作った空間内であんな事をしてしまったら儂らまで吸い込まれかねない。
「出来るんじゃな……?」
『……と、思いますよぉ~?』
「サヴィちゃん、だったらお願いできますか? 私達に力を貸して下さい」
『勿論ですよ♪ でも、ナーリア様はマスターなんですからお願いじゃなくて命令して下さると嬉しいです~♪』
「分かりました。それなら……サビィちゃん、ここの磁場をどうにかして」
『かしこまり~♪』
ばひゅん! と、ナーリアの持っているエンペックから光が放出され、その光はひょろひょろとゆっくり上空へ登っていったかと思うとパンっと弾けた。
そしてなにやら良く見ないと分からないようなキラキラをまき散らす。
「貴様ら何をしている……?」
さすがに私達が何かをしようとしているのが分かったのか、カタカツの声が硬くなった。
「さて、では成果の程を見てみるとするかのう……アイシクルストーム!」
儂が使ったのは氷の槍を複数精製し突風に乗せて一気に貫く魔法。
「ふん、今度は数で勝負か……む? なんだと!? ぐおっ!?」
どうやらサヴィが上手くやってくれたらしくカタカツのアーティファクトによる斥力が働かなかった。
とはいえ、奴の素の戦闘力が高く、自力で半数以上落とされてしまった。
そのうち数発はカタカツの身体を捉えたものの、ほぼかすり傷のようなものじゃろう。
「貴様等……あのお方から頂いたアーティファクトを無効化するとは不敬であるぞ! 先ほど散らした何かのせいだな……?」
「メリニャン、ここは一気に畳みかけましょう!」
「うむ、合わせて行くのじゃ!」
儂の攻撃魔法と同時に、エンペックによる砲撃を重ねてカタカツへ追い打ちをかける。
しかし……。
「不敬不敬不敬であるぞ!」
激怒したカタカツがその場で物凄い拳撃を繰り出し、衝撃波が儂らを襲う。
「儂の後ろに隠れるのじゃ」
目の前に障壁を張り、ナーリアを後ろに下がらせる。
そして、不思議な事に儂の魔法もエンペックの砲撃も、再びカタカツのアーティファクトに弾かれ明後日の方向へ飛んで行く。
「サヴィちゃん! これはどういう事ですか!?」
『参りましたねぇ~相手はなかなかやり手ですよー』
「カタカツの奴……先ほどサヴィが空中に散布したキラキラしたやつを全て風で吹き飛ばしおったのじゃ」
「何が原因なのか分かれば造作もない……テメェらふざけた事しやがって許さねぇからな」
「おや? 随分口が悪くなったのう? そちらが素か? すぐにカッとなる性格を抑える為にここで精神統一をしていたという事じゃな? 笑えるのう」
急に口が悪くなったカタカツの様子を見る限り、このパターンの奴は基本気が短くプライドが高い。
自分の大切な物や自分自身が馬鹿にされたらもう止まらなくなってしまう傾向にある。
「うるせぇ! 貴様等はあのお方を侮辱した……ぜってぇ許さねぇぶっ殺してやる!」
「ははっ。簡単に化けの皮が剥がれてしまいおって可愛いのう。さっきまでは必死に冷静でいようと頑張っていたんじゃな。涙ぐましい努力じゃのう」
「……ぶっ殺す!!」
さて、煽るだけ煽ったもののどうしたものか。
一応先ほどまでの戦いで分かった事も幾つかあるが……。
まず一時的にならば磁場妨害は役に立つ事、そしてあのアーティファクト自体の効果範囲はさほど広くない事。
それらを考慮して作戦を立てるとしたら……。
ふむ、引力はともかく斥力を考えて、よし、これでいこう。
「ナーリア、サヴィ、ちょっとこっちへ来るのじゃ」
儂はカタカツに聞こえないようにひそひそと作戦を伝える。
サヴィがそんな事出来ないと言えばそこまでの話しではあるのじゃが、『おっけーです♪』との事なので大丈夫じゃろう。
「よし、カタカツよ。そろそろ終わりにするのじゃ」
「いいだろう。テメェらの死をもって終わりにしてやる!」
いい具合に頭に血が上っておるのう。
でもな、怒りに身を任せては判断力を損なうぞ?
「さっさと貴様を倒して次はアルプトラウムじゃ」
「あの方を呼び捨てにするとは! 殺す殺す殺す殺す!」
ぐんっ!
儂の身体がアーティファクトの引力で引き寄せられる。
今回は障壁を張らない。それは今ではない。
「ナーリア!」
「はいっ!」
ナーリアがエンペックの砲撃を放ち、サヴィがその軌道を操作する。
カタカツはアレの威力を知っているので儂よりも砲撃を防ぐために斥力を使用した。
そして、儂は砲撃がカタカツに接近したタイミングを見計らって障壁を張る。
少し広めに、カタカツの身体を包み込む形で出来る限り強力な結界を作る。
「な、何をする気だ!? ぐおぉぉっ!?」
「どうじゃ? いくら遠ざけたくてもそれ以上遠くへは行かんじゃろう?」
儂が作った球体の中で、カタカツは砲撃の熱線を遠ざけようと腕を振るう。
カタカツへ直撃はしなくとも、サヴィがひたすら熱線の軌道を操作し続け、球体の内側をぐるぐると回り続けた。
「や、やめろ! 離れろぉっ!! あのお方に頂いた力が、通用しない筈がっ!!」
もはやカタカツの身体のまわりを高速で回り続ける熱線で奴の姿はほとんど見えない。
結界の中は熱気で真っ白になってしまった。
もはや内部からの声も聞こえない。
『これいつまで続けますー?』
「結界内の温度上昇を考えたらあと十分もすればミイラの出来上がりじゃ。もう少しの間辛抱してほしいのじゃ」
しばし待つと、儂らは元の塔の中へ戻ってきた。つまり、奴が死んだという事であろう。
あとは塔を破壊するだけじゃ。
「なんだか、不思議な決着でしたね……」
ナーリアは優しいからこの決着には思う所があるようじゃが、打開策はいくらでもあった筈なのじゃ。
例えばアーティファクトに頼らず早々に自力で儂の結界を破ろうとしていればこんな事にはならんかった。
敗因は……アルプトラウムに対する盲信じゃろうな。
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