魔王の嫁とサヴィちゃん。


「では行くぞ! 手加減は期待するなよ!」


「言ってくれるのう。儂等はこう見えてそう弱くないから安心するのじゃ」


「それはそれは……愉しみだっ!」


 カタカツと名乗った魔族は両手に魔力を纏わせ、儂に一直線突っ込んで来た。


 肉弾戦メインとは少々厄介じゃのう。


 儂は足元からカタカツの方向へ、斜め上に吹き上げる炎魔法を設置し、接近した瞬間足元をタンッと踏みしめそれを爆発させる。


「ぬおっ!?」


 カタカツはダメージ無しじゃが、爆風に飛ばされて宙を舞う。


「サヴィちゃん!」


『はいはーい♪ それじゃ一発いっちゃいますよーっ!』


 そうじゃった。儂等は二人じゃが、ある意味三人で来ているのと同じ。


 カタカツが空中でくるりと回転しながら地面に着地する瞬間を狙ってナーリアのなんちゃら砲が炸裂。


 高出力の熱線は光の速さで襲い来るので狙いを定められたらかわすのは至難じゃろう。


「ふんっ!」


 なんと、カタカツは事もあろうに熱線を殴った。

 殴った上でそのまま拳を突き出し、熱線の方角を曲げて回避。


「今の攻撃はなんだ……? 恐ろしく高圧縮されたエネルギーだが……あの方に頂いたコレが無ければ一撃で死んでいた所だ」


 そう言ってカタカツは自らの手に装着している手甲をガチガチと鳴らした。


「メリニャン、あれがアーティファクトでしょうか?」


「……そうであろうな。ナーリアの砲撃を受けられる強度があるとは驚きじゃよ」


『なんですかあいつ! エンペックの起動を無理矢理逸らすなんて生物としてあり得るんですか!?』


 サヴィがその様子を見て、驚きというよりもどちらかというと歓喜の声をあげた。


「何を喜んどるんじゃお主は……」


『だってだってあんな生き物見た事ないですよ! エンペックの砲撃はゴウザニウム装甲艇だって撃ち抜けるんですよ!? 凄いです凄いです! 楽園にはこんな面白い生き物が居るんですね!』


 そのごうざなんとか艇っていうのがどんな物かは分からんが、彼女にとってはアーティファクトや魔族自体が未知の存在なのだろう。

 未知なる物に遭遇した時の反応は人によるが、大抵二つに一つじゃ。


 恐れるか、興味を惹かれるか。


 サヴィの場合は後者だったようじゃな。


「面白い生き物呼ばわりとは舐めてくれる……」


『気を悪くさせてしまいましたかー? でもでも褒めてるんですよ私にとっては驚きの連続ですー♪』


「……そもそも一体どこから何が喋っているのだ……?」


 こいつらが喋っている間に少しでも奴のアーティファクトを見極めなければ。


 正直、あのエンペックとかいう銃の砲撃をまともに受けられるとは思えない。

 例えそれがアーティファクトだったとしても純粋なアーティファクトの強度だけであの攻撃を受け切るのは無理であろう。


 ならば、じゃ。

 あのアーティファクトの能力が関係していると考えるのが一番自然じゃが……。


 ……推論なら幾つか立てる事が可能じゃが、今の情報だけではこれが限界か……。

 ここから先は少々危険じゃが実験してみるしかないのう。


 手始めに儂は炎魔法をカタカツへ向けて放つ。



「こんなものが効くと思っているのか?」


 カタカツは炎に拳を翳す。

 炎を殴るのではなく、ただ拳を翳しただけ。


 それだけなのに炎は拳にかき消されるように吹き飛んだ。


 ……? 今のはもしかして……。


 儂はカタカツの攻撃を障壁で受け流しながら、水と土属性を練り込んだ魔法を放つ。


「クレイア!」


 大気中からかき集めた水分と、大地から引き寄せた土を儂の加減で微調整し、それをカタカツへ。


「属性を変えた所で同じ事よ!」


 ドパァン!


「むっ!?」


 カタカツの拳を受けた儂の魔法は、でろりと形を変えて奴の身体に纏わりつく。


「小癪なぁっ!!」


 カタカツが高速でその腕を振り回すと、身体に纏わりつこうとしていた泥は全てはじけ飛んだ。


「なるほどなるほど、それは斥力のアーティファクトという訳じゃな」


 こんな何もない空間では本来の力は発揮できなかったが、それでもアーティファクトの能力を把握する程度には役に立った。


「……ほう、実戦の中で実験されていたという訳か……お前、なかなかやるな。しかしそれが分かった所でどうする事もできまい!」



「メリニャン! せきりょくっていうのはどういう物なんですか!?」


「簡単に言うと引力の逆じゃよ。物を遠ざける力とでも思っておけば問題無いのじゃ」


「なるほど……という事はあの魔族のアーティファクトは全てを遠ざけてしまう、という事ですか?」


「おそらくそうであろうな」


 引力も操れる可能性は捨てきれないが、こと戦闘に置いて引力を使う事というのはそうあるまい。

 斥力を用いて全ての物をあの手甲から遠ざける……つまりあやつがアレを装着している以上儂らの攻撃は届かない事になってしまう。


 ……そう、油断していた。


「う、うわわっ!!」


 儂の身体が急に浮き上がり、物凄い勢いでカタカツの方へ吸い寄せられていく。


 しまった、引力を使って離れた相手を引き寄せて物理攻撃、なんて少し考えたら分かる事じゃった!


「ぬ、おぉぉぉっ!!」


 儂は全力の障壁の球体を作り、自分の身体を守ろうとしたが、拳が直撃する瞬間に斥力に切り替える巧みな戦法で威力を増した攻撃にかなり吹き飛ばされてしまった。


 障壁もベキベキになっていてもう少し判断が遅かったら致命傷だったやもしれぬ。


 目立ったダメージは無かったのですぐに戻って来れたが……これがナーリアだったら大惨事じゃった。


「メリニャン! 無事ですか!?」


「うむ、心配ない。それよりあやつは引力も斥力も操れるようじゃ。用心せよ!」


「はい!」


『うーん、要は正と負、プラスとマイナス、陽と陰、NとSみたいな物でしょう? ならばここの磁場を狂わせてしまえば解決なのでは?』


 サヴィめ、簡単に言ってくれるわ。

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