魔王の嫁は正攻法。


「こうやってメリニャンと二人っていうのはもしかしたら初めてかもしれませんね♪」


「ふむ、確かにこうやってゆっくり話すのも久しぶりじゃのう」


 儂らが転移した先で見た物は、砂漠の中央に蜃気楼のようにゆらめく塔であった。


 おそらくここを守る魔族は塔の天辺に居るであろうという事でまずは塔の入り口まで向かう事になったんじゃが、この砂漠が厄介だった。


 砂に足を取られるので飛行魔法で行こうという事になったのじゃが砂漠上空を飛行していると砂漠の中からとんでもなく巨大なミミズが襲い掛かってきててんやわんやじゃった。


 しかも先端がデカい口になっていて牙がこうギラっと輝いていて、皮膚はピンク色のぶにぶにであぁもう思い出すだけで鳥肌もんじゃ……。


 儂が見た目の嫌悪感に悲鳴をあげ、身動き取れずにいた所をナーリアがあのみょうちくりんな武器でハチの巣にしてくれたので無事倒せたは倒せたんじゃが、結果的に穴だらけになったミミズが体液噴き出しながらのた打ち回って儂らの方に雨のように降り注いで今度は二人とも悲鳴をあげて逃げ回って……。


 あぁ、本当に面倒じゃった。


 今は無事塔に到着し、螺旋階段を登っている所、というわけじゃ。


 しばらく歩くと広間になっているフロアがあり、フロアの反対側にまた階段があるのでそれを登っていく。


「しかし塔の中には誰も居ないんですかね?」


「天辺にはさすがに魔族がおるじゃろうが……ここまで塔の中が無防備というのは気味が悪いのう」


 しかも面倒な事にこまめにフロアにぶつかるから中央が吹き抜けになっておらず、飛んで最上階へ、という訳にもいかぬ。


 これ皆ちゃんと登っておるのかのう。


 なかなかに面倒な塔じゃし、ここは敵の類がまったくおらんが他の塔にもおらんとは限らぬ。


 儂らより大変な思いをしている班もあるのではなかろうか。


 なんだか楽をしているようで申し訳ない気持ちになってくるのう。


 後はこの天辺に居る魔族がどの程度やる相手かじゃな。


 儂らは二人だけじゃからなかなかに厳しい戦いになるであろうが、これでも儂は元魔王じゃからな。いくら相手が強くとも負けてやらんぞ。


「二人だけでの戦いになるであろうが宜しく頼むのじゃ」


「はい! 勿論です♪」


「それにお主に何かがあったらステラに殺されかねんからのう。負ける訳にはいかんな」


「私だって! メリニャンに何かあったら自分を許せませんし姫に申し訳が立ちませんからね。必ず、一緒に帰りましょう」


「おう。負けた時の事など考えても仕方ないからのう。必ず勝って二人で帰るのじゃ」


 そして幾つかめのフロアへたどり着いた時、部屋の中央には老人が妙な姿勢で座っていて、精神統一をしているようじゃった。


「お主がここを守護している魔族かのう? 見たところほとんど人間と変わらぬようじゃが……」


「ふっ……それを言うならばお前も見た目は人間に近いだろう? 外見で判断すると痛い目に合うぞ」


 老人はまるで仙人のような姿をしていて、長くボサボサの白髪。そしてこれまた白く長い髭。ガリガリの手足。服から覗く胸元は肋骨が浮き上がっているような状態じゃった。


「私は敢えてこの姿を取っているだけだ」


「ほう、わざわざ老人になるとは物好きも居たもんじゃな」

「どうせなら可愛らしい女の子の方が世界が幸せになると思うんですけどね」


 ナーリア……少し黙っとれ。

 それにもし敵が可愛い女の子であったならお主は戦えないじゃろうが……。


「生き物というのは寿命の差こそあれいつかは老いて朽ちて逝くもの。私は敢えて自らを一番醜い姿にする事で戒めているのだ」


「ドMなんですね」


 ……ナーリア。


「どえむとやらが何の事かはよく分からないが誉め言葉として受け取っておこう」


 お前もお前でどうかしている。

 どこから突っ込むべきか……。


「念の為に聞いておくがこの先に魔力の発生源があると見ていいんじゃな?」


「無論。お前らはそれを壊しに来たのだろう? 私を倒せたのならば好きにするがいい」


「ふむ、ここで戦うという事でいいのかのう? 若干狭いが……」


 この場所では儂もナーリアも自由に戦う事が難しいかもしれん。

 逆に言えばここで戦えばきっと余波で塔自体が崩壊するであろうから目的は果たせるであろうが。


「余計な心配は要らない。特別な場所まで案内しよう」


 老人がパチンと指を鳴らすと、周りの景色がガラリと変わり、どんよりとした空気の立ち込める空間になっていた。


 儂らをどこかへ飛ばしたというよりは空間そのものを入れ替えたのかもしれん。


「これは……ザラがやっていたのに似ています」


「古都の民か……アルプトラウムの配下である魔族が使えたとしてもおかしくはないのう」



「念の為に教えておくが、私を倒してもここに閉じ込められて帰れなくなるなんて事はないから安心するがいい。どうせここで死ぬのだから要らぬ情報であろうが、それで実力を出せないなんてつまらない戦いはしたくないからな」


 こいつ、かなり強い。


 しかし、広い空間に移動できたのは好都合じゃ。


「フェアな条件で戦おうとする姿勢は好感が持てるが、その余裕がお主の首を絞める事になるのじゃ」


「ふふ……それで負けるようならば私もそれまでの存在だったと言う事よ。始めるぞ……我が名はカタカツ!」


「儂は魔王の妻、ヒルデガルダ・メリニャンじゃ!」

「ナーリア・ゼハールです!」


「いい面構えだ。では……いざ尋常に……」


 その先の言葉は分る。


「「「勝負!」」」


 三人の声が重なり、戦いの幕が上がった。

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