大賢者はお馬鹿がお嫌い。


「お前がここを守ってる魔族か?」


「そーだよ! でもせっかく天辺で待ってたのにこの仕打ち……いくらなんでもあんまりでしょーが!」


「だからすまんて……」


「すまんで済んだらこの世は……」


「あーあーっ! もういいからそのくだりさっきやったから! そんな事よりもう守るもんも無くなったけどお前はどうするんだよ」


 このまま諦めて帰ってくれないかな……こういうタイプの奴はやりにくくてしょうがない。



「うーん……帰っちゃおうかなぁ。でもこのまま帰ったらきっと怒られるよなぁ……だったらせめて君達の首でも持って帰らないとだよね」


 ゾクっと背筋に悪寒が走り咄嗟に目の前に障壁を張った。


 これでも私は障壁に関してはそれなりに自信があるし、特に今使ったのは正面にのみ特化させたもので、以前クリスタルツリーの所で戦ったデッニーロとかいう奴の時はこいつが役に立った。


 そんな私の障壁が、次の瞬間奴の体当たりでバラバラに砕け散った。

 慌てて後ろに飛びのきつつ、砕けた障壁を攻撃に転化させる得意の戦法に切り替えて高速回転を加えた障壁を飛ばす。


「うわっなんだこれ!」


 驚いたような声をあげつつも奴は飛んで来る障壁の刃を全て殴り落とした。


「びっくりしたーっ! 君凄いね!」


「こういう脳筋が一番苦手なんだ……二人とも、サポートはするから頼んだぞ!」


 背後に目をやる事なく二人に声をかけると、見ていなくても戦闘準備をしているのが気配でわかる。


「やれやれ……思ったより大変そうだなぁ……でもきっと楽しい戦いになるね!」


 鬱陶しい……!


「僕の名前はセーガル。あのお方にアーティファクトアーマーを頂いた選ばれし魔族さ!」


 人型のアーティファクトかと思ったがどうやら違うらしい。

 アーティファクトアーマー? まためんどくせぇ物を。


「お前その中身はどうなってんだ? 人型してるのか?」


「えっ、気になる? でも僕はお子様にはちょっと興味ないかな……どうせなら後ろのお姉さん達に口説かれる方がテンション上がるんだけど」


 こいつぶっ殺すか?


「聞いた私が馬鹿だった。私の名前はアシュリー。一応言っておくが人間ではなくてハーフエルフだ間違えるなよ」


「へー! ハーフエルフなんだ? 珍しいね。是非僕のコレクションに加えたいな!」


 コレクション……?


「殺した相手の首でも部屋に飾ってんのか?」


「ううん、倒した相手の顔拓を取ってるんだ。主に動物ばっかりだけど」


 くだらねぇ……。

 きっとこいつに負けると顔面に塗料を塗ったくられて紙を押し付けられるんだろう。屈辱どころの騒ぎじゃない。


「そりゃいい趣味してやがるな」

「でしょ!?」


 嫌味を言ったつもりなのに食い気味に喜ばれた。


「でも残念ながら私のはコレクションさせてやらねーよ。こう見えて私はもう人の物だからな」


「人の物……? うわ、そいつロリコンなの!?」


「……それ、私がお子様だって言いたいのか?」



「それ以外に聞こえた?」


「殺す」


 一歩下がりロピアとサクラコに身体能力強化の魔法をかける。


「あとはあたしらに任せておきなっ!」


 トンっと軽く地面を蹴った音がしたと思ったら次の瞬間にはサクラコがセーガルとの距離を一気に詰めて、奴が気付いた時にはもう刀を一閃していた。


「えっ、早っ」


 セーガルが言葉を発しきる前にサクラコの刃が抜き放たれ、奴の身体のど真ん中を一閃。


 がぎぃぃぃぃぃん!


「いでっ!」


「くそなんだこいつめちゃくちゃ硬いぞ!」


 サクラコの刀はセーガルのアーマーを切り裂く事が出来ず弾かれてしまう。


 よく考えたらそれもそうだろう。

 あれはアーティファクトなんだから。


「全身アーティファクトか……こいつはめんどくさい相手だな」


「僕の強さが分かってもらえて嬉しいな! やっとあのお方の力になれる……! こんな雑魚の僕にこんな素敵な力をくれるなんてあのお方は最高だよ!」


 ……強さの割に発言の内容が釣り合っていない。


「なんや? 全然雑魚には見えんけどな。めちゃくちゃ強そうやで?」


 こんな相手を前にしてもいつも通りの軽いノリで居られるロピアもなかなか大したものだ。



「うーんとね、正直な話僕は明るさだけが取り柄の落ちこぼれでね。魔族の中でも爪弾きにされてたんだ。そんな僕にアーティファクトを授けて下さったあのお方に、僕は恩返しがしたくてしたくて仕方ないんだよね!」


 こいつも馬鹿正直にペラペラと……。

 勿論本当の事を言っている保証はないが、それでもかなり参考になる話だ。


 今の話しでサクラコもロピアも何かしら思う所があったようで、こちらをチラリと見て頷く。


 ああ、ここに来たのが察しのいい奴等で本当に良かった。

 ショコラは絶対「うるさい」とか言って話の途中で切りかかってしまうだろう。


 それで倒せるような相手ならいいが……いや、ショコラの場合倒してしまうのかもしれないけれど。


 それでも私はまともな反応が出来てまともな対応が出来てその上で相手を倒せるようなまともな面子の方がいい。


 大体の対策も見えて来たところだしな。


 つまり、こいつ自体はさほど強くはない。

 全てアーティファクトの性能だ。


 だとしたら、やりようはある。

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