大賢者は変なのを吸い寄せがち。


「やれやれ……とうとうあたしもこんな所まで来ちまったか……」


「どないしたん? そんなしみじみ遠い目しとる場合ちゃうで?」


「いやあ……ちょっと前まではさ、魔物と人間が仲良くなるなんてのも考えられない状態だったのに今じゃ神様倒す為にこんな空に浮かぶ島に来てる……なんだか改めて考えると笑えてきちまってさ」


「あー、それはうちもなんとなくわかる気するわ。それも全部セスっちが魔王になってからやなぁ」


 ……まったく、サクラコもロピアも呑気なものだ。


 比較的まともなメンバーになったと安心していたが、よくよく考えたら結局のところあの王国にまともな奴なんてほとんどいないんだった。


「なんだっけ? 神術搭? ありゃ分かりやすくていいけどよ。あの塔をぶっ壊したらあたし達の仕事は終わりでいいのか?」


 サクラコが分かりやすいと言った通り、私達が島の一つに転移して来た時真っ先に視界に入ってきた。


 この島は思って居た以上に小さい。

 島は草に覆われているものの大きな木は一本も見当たらず、島の中心に例の搭が空へ伸びている。


 とはいえ、ここは既に空の上だったな……。


「二人とも、戦闘になったら相手はアーティファクトを所持しているだろうからくれぐれも気を付けてくれよ」


「あー、あたしはアーティファクトとかいうのを持ってる奴と戦うの初めてだから何を気を付けりゃいいのか分からないんだが」


「うちも同じやね。一応セスっちじゃなくて以前の、怖い時のメアが魔王だった頃を知っとるんでアーティファクトの怖さってのは分っとるつもりやで」


 最後の最期にアルプトラウムが出してくる魔族、そしてそいつがアーティファクトを持ってる……。

 それをこのメンバーで倒せるだろうか?

 正直言うとかなり不安だ。


 サクラコは人間としてはかなり強いだろう。

 ロピアも魔物としてはかなり強いだろう。


 でも魔族は一筋縄ではいかない連中で、しかもアーティファクト持ち。


 こりゃほんとにいろいろ我慢してショコラでも連れてくるべきだったかな……。


 あいつはどうしようも無い奴だが強さだけは本物だからな。あれで人間だって言うんだからどうかしてる。


 そんな事を考えながら歩く事数分、私達は搭の麓までやって来た。


 不思議な程何も無く誰も居ない島。


「……何かおかしいな」


 サクラコが呟き、辺りをキョロキョロと見渡す。


 確かにおかしい。

 この神術搭とやらを守っている魔族ってのが見当たらない。


 普通搭を守るなら搭の前に居ないか?


 ここに居ないとなると、搭の頂上に居るパターンだろうか?

 そうなってくるといろいろ話が変わってくる。



「サクラコ、ロピア、少し離れててくれ」


 私の言葉に首を傾げながら二人が少し後ろへ下がる。


「よし、とりあえず試してみるか」


 私の魔法の中でもかなり火力のある物を使おうと、杖で地面に魔法陣を描く。


 火力特化するのならこれもあった方が確実だ。


 私を中心に描いた魔法陣が発光し、地面から複雑な模様にそって光が立ち上る。


 私が描いたのは魔法のブースト魔法陣。

 しかも魔力自体を増幅するのと同時に、この立ち上った光が銃身の役割をしてくれる。


 今回は特に、ほぼ真上に放つ事になるので役割を十二分に発揮してくれるだろう。


 本来戦闘中にこんな手間のかかる作業をやってる場合じゃないが、今回みたいな時にはとても役に立つ。


 というわけで、私は搭の天辺目掛けて風と炎属性を練り上げ一気に解き放つ。


「エアバレット!!」


 解き放たれた魔力が銃身を通り加速され、増幅されて魔力の弾丸として放たれる。


 ドバンッ!!


 以外にもあっさりと搭の最上部が消し飛んだ。



「……あれ、てっきり結界でも張ってあって弾かれると思ったんだが……」


「ぎょわわぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」


 何かが大声をあげて私の真上に落下してきたので慌てて後ろに飛びのく。


 ドゴンッ! というけたたましい音をあげてそれは地面に突き刺さった。


「ぎゃーす!!」


 ……どうやら魔族、らしい。

 なんだかテカテカしたフォルムの機械染みた身体。

 頭は地面に突き刺さっていて視認できないが、もしかしたら何かしらの兵装を身に纏っているのかもしれない。


「お、おい……なんだこいつ」

「変なのが降ってきよったで」


 そいつはピンと両足を真上にした状態で棒のように突き刺さっていたが、四つん這いになって勢いよく地面から頭を引き抜く。


 身体にとてもフィットした鎧、というか仮面のような物を被っている感じの外見だ。


「い、いきなり搭を破壊する奴があるかぁぁぁっ!! びっくりしただろうが!!」


「おい怒ってるぞあいつ」

「登って来るのを楽しみにしてたんちゃうの?」


 ……まぁた変な奴が出たよ……。

 でもさっきの魔法で無傷、って所がとても気味が悪い。


「ほんとだよっ! 普通搭があったら登るよね!? 外から吹っ飛ばすとか馬鹿じゃないの!?」


「いや、その……すまん」


「すまんじゃないよ! 謝って済むならこの世は天下泰平無様なイエスマンだよ!」


 まずい、何を言ってるかわからん……。

 こいつメリーと同じタイプのヤバいやつかもしれん。


 そこで嫌な予感が頭をよぎる。


 ……こいつ、まさか人型のアーティファクトじゃないだろうな……?

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