魔王の妹と魔族のおねーさん。


「おねーさんもそうだったんでしょ?」


「え、え? ちょっと、ヤダ……来ないでっ!!」


 彼女はお尻の辺りから黄色と黒の縞々模様の触手を伸ばして、その先にある棘で私を貫こうとした。


「……」


 私はその棘を親指と人差し指でパシッと受け止める。


「ふ、ふはははっ! この私の毒針に触れたが最後、身体中の血管が破裂して死ぬ事になるわっ!」


「ふぅん」


「……待って、待って……なんで大丈夫なのぉ……?」


「触れたら危ないのかもしれないけど、私は直接掴んでる訳じゃないし」


 神器礼装の効果で私の身体はうっすらとした光の膜に覆われている。

 例えばこういう危険な物を摘まんだとしてもその薄い光の膜で掴んでいるので身体には影響がない。


 これがある程度の物理無効効果を生んでるわけだけど、こういうタイプの敵にも便利なんだなぁ。


「おねーさんの尻尾はちょっと行儀が悪いみたいだね」


 思い切り触手を引っ張って、おねーさんのお尻から引っこ抜いた。……というより引きちぎった。


「い゛ッ!?」


「愉しませてくれるんでしょ? それにはこんな危ないの必要ないでしょ?」


 引きちぎった触手を放り棄てる。


「搭が壊されてしまったならどのみち私にもう道は無い……! せめて貴女だけでも殺して手土産にしないと……!」


 まったく、この期に及んでまだそんな事を言ってるのか……。


「せっかくあの方にアーティファクトまで預かったというのに……搭を破壊されてしまうなんて……なんという失態なのかしら……私の大事な尻尾まで……もう絶対に許さないんだから! このクイービィ、命がけで貴女を殺すわ!」


「へぇ、クイービィって言うんだ? その殺意のこもった眼もいいね。早くその目を歪ませてやりたいな」


「こ、こいつ……頭がおかしいの!?」


 失礼な。頭がおかしいかどうかは問題じゃない。


 私が楽しめるかどうかが重要なんだよ。

 私はもう当初の目的を果たしている。

 だったら、少しくらい楽しんでいったってバチは当たんないよね?



「私を舐めた事後悔させてやるわ!」


「違う違う。舐めるのはこれからだってば」


「ひ、ひぇぇ……! ヤられる前に殺るしかない! くらいなさい!」


 クイービィは自分の頭から数本の髪の毛を抜き、フッと吹く。するとその髪の毛一本一本の質量が膨れ上がり、クイービィが全部で五人になった。


「ふふふ、残像なんかじゃないわよ? 私がもらった複製のアーティファクトは完璧にそれその物を複製するの」


「……一瞬期待したけどガワだけじゃん」


 綺麗なおねーさんが五人になった! って期待したけど、本人以外の四人は抜け殻みたいにぼけーっとしてるだけ。完全に人形状態。

 意思とかそういうのが全然ないみたい。


「甘く見ないでちょうだい! ここからが私がこのアーティファクトを授かった理由よ!」



 クイービィが魔力をそれぞれに送る。

 すると……。


「これでどうかしら?」


 私は口をぽかんと開けて絶句してしまった。


「うふふ♪ 言葉も出ない程驚いたみたいね」



 それぞれが完全に意思を持ち、本物がどれか分からないくらいイキイキと動き出した。


「うわ……」


「どう? 凄いでしょ? これで貴女なんか……」


「たまんねぇなおい」


「えっ?」


「ちなみに一つ聞いていい? それって五感とかはどうなってるの?」


「これは私が操ってる訳じゃないのよ……私の特殊な能力、意識を五等分にする事が出来る……本来はあちこちに散りばめて監視や鳥に憑依させて偵察する程度の力なのだけれど……さすがあの方は私の特性を見抜き最適なアーティファクトを……」


 なるほどなるほど。それは最高だ。


「つまりそれぞれが別の人だと思っていいんだね?」


「そうよ♪ 五対一……貴女に勝ち目は……うひゃぁぁぁぁっ!?」


 イキってた五人のうちの一人に抱き着いて首筋を舐めた。

 なんだか甘い香りがする。


「言ったでしょ。舐めるのは……これからだって」


「こ、こいつ……頭がイカれてるわ!」


 全員が恐怖に歪んだ表情に変わっていく。


「そうそうそれ……それが見たかったんだよね……しかもこの人数とか、ダメだもう我慢できない」


 だって増えた所でこのおねーさんの実力が変わる訳じゃないし、ただ純粋に増えただけ。


 それならあと十人増えたって私は可愛がってみせる。


 引きつった顔で私に飛び掛かってくるおねーさん達の攻撃をかわしながら弱点を探っていくと、不思議な事にそれぞれ別の場所が弱いみたい。


 例えば……。


「お前はここ」


 脇腹を指先でつーっと優しく撫でる。


「きゃぁっ! 貴様……っ!!」


「そんでこっちはここ」


 おへその周りを円を描くように撫でる。


「ひゃっ、こ、この変態っ!」


 こういう具合だ。

 意識を分割した事によって弱点も分散しているのかもしれない。


 という事は、もともとこのおねーさんは全身性感帯って事だ。感度がいいのは良い事だよね。


「おねーさん、私の仲間があの狼人間を始末するまでまだ時間かかると思うんだよね」


「な、なんなのこいつ……! こうなったら!」



 尻尾の無い一人以外の四人が一斉に私に向かって棘を向け、その先に集中させた魔力を一気に解き放った。


 どうやらかなり威力のある魔力砲のようだけれど、それじゃダメだよ。


 パァン!


 神器礼装を翻しただけでそれらは一瞬で空に霧散する。


「ば、馬鹿な……こんなの、勝てるわけない……!」


「おねーさん、私達さ……いろんな意味で相性いいと思わない?」


 戦闘面でもこれ以上ないくらい相性が良かった。

 きっとそれ以外も相性がいい筈。


 だってこんなに人数増やして私を楽しませてくれるんだもん。

 それにみんなめっちゃ敏感。


「生まれてきた喜びってのを教えてあげる」


「や、やめてっ! 何をする気なの!?」


 私は全員に小さな針を投げた。針には私の血から作った毒を少量。


「身体がっ……う、うごか……」


 身動き取れなくなって落下していくクイービィを全員回収して地上に降り立ち、いざお楽しみタイム。


「くっ! 私にこんな、こんな辱めを……!! こ、殺せ!」


「おねーさん、時間ギリギリまで楽しもうね♪」


「ひっ……!」

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