魔王の妹、限界突破す。


「では我も本気を出すのである!」


 一瞬でライゴスの身体がマッチョに変わる。

 頭がぬいぐるみの中途半端変身じゃなく、ちゃんとした元の姿。


「ひぃぃっ!!」

「ぎゃぁぁぁっ!!」


 ロンザとコーべニアが大声をあげた。完全に悲鳴だった。


「な、なんであるか!?」


「「あ、ああああの時の!!」」


 二人の声が完全にハモる。

 どっかで会った事があったのかな?


「……? 我は二人とどこかで会った事があったであろうか?」


「……覚えてないならいいんだ。忘れたままで居てくれ……」


「お願いします。完全雑魚だった頃の話なのでこちらが忘れたいくらいです」


 なんかよく分からないけどきっとどうでもいい話だろう。


「確かにお主等はどこかで見た事があると思っていたのであるが……」


「思い出さないでくれ!」

「この話しやめません!?」


「……むぅ……そう言われると気になってくるのである。……そうか、お主等リャナの町で……」


「「わーわーわーわーっ!!」」


 ライゴスはその様子を見て「カッカッカ」と笑った。


「なぁに、誰しも最初から強かった訳ではないのである。あの頃とは違うという所を我に見せてみよ!」


「ライゴスの旦那……!」

「分かりました! 精一杯をお見せします!」



 ……この人達は放っておいても大丈夫だろう。

 私達を取り囲んでいるのはワーウルフみたいな外見の魔物みたいな何か。


 表現が難しい……人間っぽい狼っていうか狼っぽい人っていうか……私が見た事あるワーウルフとは少し違う気がする。


 もしかしたらこの島に元から生息しているタイプの魔物なのかな?

 異世界から呼び寄せた島なら、異世界の魔物……強さが全然わからないから本当は私もここに残って戦った方がいいんだろうけど、今は少しでも早く目的を果たさないといけない時だから。


「風神炎斧!!」


 ライゴスが真っ赤になったデカい斧を振り回し、周りの木々もろとも魔物達を炎の柱に包み込む。


 それにかなりの数の敵が巻き込まれて焼け焦げていった。


 ……あれで倒せるって事はなんとかなりそうだな。


「じゃあみんな後は宜しくね! 言って置くけど、コーべニアだけは絶対に守るように。帰れなくなっちゃうからね」


「俺だって死ぬつもりは……無いぜっ!」


 ロンザが敵の群れに突っ込んでいったので少しヒヤっとしたけど、特に心配は要らないみたい。


 紅の鎧が光を放ち、全身が強化されているみたいだ。

 あれなら多少ダメージを受けてもそう簡単に死にはしないだろう。


 それどころか、体当たりで一匹吹っ飛ばした後すかさず剣を振り、二体の魔物を切り伏せた。


 切れ味がいい。きっと刀身に何かしてる。魔法か魔術か……。


「オラオラ死にたい奴からかかってきやがれ!」



「ストロングゼロ!!」


 ロンザがひとしきり暴れて、ぴょんと飛びのいた瞬間に合わせるようにコーべニアの魔法が発動。

 多くの魔物を凍り付かせていく。


 これは本当に私が居る必要ないや。


 もう行こう。これ以上見守っていても意味ないし下手をするとこの人達が敵を全滅させちゃう。


 私も魔族見つけてサクっとぶっ殺してやる。


 私は神器礼装を発動させその場に浮き上がる。



「うおっ、すげーっ!!」

「神々しい……」

「こちらは任せるのである!」


 みんなを見下ろし、軽く一度手を振ってから搭へ向かう。


 直接搭のてっぺんまで飛んで行こうとしたんだけれど……。


 がんっ!


「いだっ」


「ふふふ……そんなズルをしようとしてもダメよ♪ ゆっくり時間をかけて一番下から登っていらっしゃいな」


 ……搭には透明な結界が張られていて、下から登らないといけないらしい。

 搭の天辺に羽根の生えた人型の魔族が居た。


 でもこの魔族、運が悪い。


「あらあらどうしたのかしら? そんな目で睨まれちゃうと高まってくるわ……早く虐めてあげたいから登ってらっしゃい。待ってるわよ」


「魔族って大抵外見キモイと思ってた」


「あら、それは随分低俗な魔族としか戦って来なかったのね。ある一定以上力のある魔族なら姿なんて自由自在なのよ。敢えていかつい外見にしたがる脳筋が多いのは嘆かわしい所だけれどね」


「おねーさんは綺麗だね」


「あら、私のこの美的センスが分かるのかしら? 人間にも物分かりのいいのが居るじゃない♪」


 あぁ、本当に運が悪い。


「私ね、すっごく機嫌悪かったんだ」


「うふふ♪ じゃあもう大丈夫ね。私に出会えて変わったでしょう? こんな美しい私を見たんですものね」


「うん、正直たまんないね」


 じゅるり。あーあ、可哀想な魔族さん。


「貴女気に入ったわ。私の奴隷にして可愛がってあげるから早く搭を登っていらっしゃい♪」


「そんな必要、無い」


 私は短剣の先から迸る光の剣を出力最大にして思いっきり目の前の結界に振り下ろす。


 すると結界にぱっかりと穴が開き、向こう側への通路が出来た。


「へっ!? 今何をしたの!? この結界が破れるはずが……!」


「空間を切って向こうと繋げただけ。結界は壊れてないよ」


「ひ、非常識だわ……!」


「ついでに言って置くけどもう後ろの搭、真っ二つだからね」


「……え?」


 ずずずっ……。


 ゆっくり神術搭が真ん中からズレはじめ、ガラガラと倒壊した。


「そ、そんなっ!? これでは私が叱られてしまうじゃない! なんて事をしてくれたのよっ!!」


「ねぇおねーさん。私もう我慢限界なんだよね」


「……え?」

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