魔王の妹は機嫌が悪い。
「って訳でーっ! みんながんばろーねっ! しゅっぱーつ!!」
おにぃちゃんの合図で皆が一斉に転移していく。
「ねぇ、なんで私らだけまだ出発しないの?」
「す、すいません! 僕は皆さんみたいに器用じゃないんです! ちょっと待ってくださいね!」
コーべニアとかいう転移担当がモタモタしているせいで私達の班がビリになってしまった。
とは言ってもワンテンポ遅れてすぐに転移が発動して、私達は空飛ぶ島の上に。
「すごいのである! 本当に島が空を飛んでいるのである!!」
ライゴスは相変わらずぬいぐるみのまま……。あれ? なんでこのまま来たのこいつ。
「ライゴス、元の姿に戻してもらわなくてよかったの?」
「あっ!! この身体になじみ過ぎて忘れていたのである! ど、どどどどうしたらいいであろうか!?」
王国民バカばっかり……。
「もう手遅れだよ。それに短時間なら自力で元の姿に戻れるんでしょ?」
「それはそうであるが……」
「どういう事だ? そのぬいぐるみ……その人本当は違う姿なのか?」
「ライゴスさんって言いましたっけ? 彼はこの姿に封印されているという事なんでしょうか?」
ロンザとコーべニアならコーべニアの方がまだ賢いみたい。
「このぬいぐるみはこう見えても魔王軍の幹部の一人だよ」
「へぇこのぬいぐるみがねぇ……」
「ロンザ! 失礼だよ」
「ははは……知らないという事は罪ではないが知ろうとしない事は罪なのである」
なんだかぬいぐるみ状態のままふんぞり返って偉そうにしてるライゴス見てるとイラっとしてくるよね。
「とにかく、アレをどうにかしないとね。のんびりしてると本当に私達がビリになっちゃうよ」
この島は思っていた以上に小さい。村一つ分くらいの大きさで、木々が生茂っていた。
中央には……十階建てくらいかな? 塔が生えてる。
「ところでロンザとコーべニアだっけ? 魔族との戦闘経験はあるの? これから行くところには多分かなり強いのが居ると思うけど」
「任せろ! 俺はハーミット様と一緒に数多くの魔族を……」
「いや、お前が倒した事あるかって聞いてるんだよ」
「うっ……」
ロンザが黙る。なるほど、大体そのくらいの実力か。
「僕達はパーティでの戦闘メインだったんです。チームワークは負けませんよ!」
すかさずコーべニアがフォローに入ったけれど……。
「でもそのパーティにデュクシもヒールニントも居ないじゃん。それで本当に平気?」
「だ、大丈夫だぜ! 俺はこういう時の為に日々修行をしてきたんだ! こんな世界の命運がかかった戦いに参加できて光栄だ!」
「そう、じゃあそれなりの活躍は期待してるからね」
「おう! 期待しててくれよな。それよりあんたは本当に強いのか? こんな女の子が……」
ロンザは次の言葉を紡げない。
私が背後から首に短刀を突き付けてるから。
「こんな女の子がなんだって? 続き言ってみてよ」
言ったら遠慮なく掻っ切るけど。
「わ、悪かった……あんたが強いのはよく分かった! ……ぜ、全然見えなかったぞ……?」
「ほら、ロンザもっとちゃんと謝ってよショコラさんはセスティ様の妹なんだからね!?」
「妹さんってこの人の事だったのか……本当に、先ほどは軽率な発言申し訳ありませんでした!」
「うむ、分ればよろしい」
教育的指導っていうのは必要だよね。
ただでさえ今の私は機嫌が悪いのだ。
ここまで男しかいないような状況になったのは初めてかもしれない。
いっそ何の役に立たなくてもいいからシリルとか連れてくればよかった。
それかシャリィとか無理矢理連行してくるのも悪くなかったかもしれない。
私が転移魔法使えるなら今からでも連れてきたいくらいだ。
「ショコラ姐さん! まず俺があの塔の入り口まで偵察に……」
「その必要ないや」
「いや、それくらい俺でもしっかりやってみせます!」
何を勘違いしてるんだこの人。
「そうじゃなくて、今の状況気付かないの? 私達囲まれてるよ?」
ライゴスは気付いていたみたいだけど、私の一言でロンザとコーべニアは慌てて警戒態勢を取る。
「グルルル……」
獣人……? いや、どちらかというと魔物に近いのかな? だけど理性があるようには見えない。
「ど、どうしましょう!? 凄い量です!」
「こいつらどこに潜んでいやがったんだ!」
毒でも使えばイチコロかもしれないけどこいつらが一緒じゃ使えないしなぁ。
「魔法でどうにか出来る?」
「ぼ、僕は通常の攻撃魔法が使えないんです! 威力はあるけど使うのに時間がかかります!」
ああ、そう言えばアシュリーとなんか話してたなぁ。
だったら温存しておいた方がいいかもね。帰りの転移魔法使えなくなっても困るし。
「でもアシュリー様から頂いたこれがあれば攻撃魔法を使う事は問題なさそうです! 連発は出来ませんが」
「だったらライゴスはロンザと一緒にコーべニア守りながら戦ってもらっていい?」
「無論である! ショコラ殿はどうされるのであるか?」
「私は……ここを守ってるっていう魔族でもぶっ殺してくるよ」
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