魔王様と初々しい奴等。

 

「あのー、いちゃいちゃしてるところ申し訳ないんですけど、転移魔法使える人材なら一人心当たりありますよ?」


 ヒールニントの言葉に私達は一斉に彼女へ視線を向けた。


「わ、わわ……そんな期待されても困っちゃうんですけど」


「ヒールニント、とにかくその転移使えるって人紹介してくれる?」


 そんな時、会議室にペリギーがちょこちょこ走りで息を切らせながら入ってきた。


「ま、魔王様っ!」


「どしたのぺんぺん」


「ぺんぺんではなくペリギーと……まぁ今はそんな事はいいのです。お客人が来ておりまして、今重要な会議をしてると言ったのですがどうしても取り次いでくれと……」


 ……客人? こんな時に王国へやってくる人に心当たりなんてないんだけど……。

 もしかしてママとかかな?


「それどんな人達?」


「人間の男が二名です」


 ……人間の男が二人? ダメだ全然心当たり無い。


「ねぇ、この中で心当たりある人居る? 私全然思い当たらないんだけど……」


 皆に聞いてみるけど、首を傾げたり横に振ったりするだけで、私と同じく誰か分からないみたい。


「じゃあ帰ってもらうか話が終わるまで待ってもらうかしてくれる?」


「ですが、本当に押しが強くてですね、しかも人間の割にはなかなかやる連中のようなんです」


「あーもう分かった分かった、みんなちょっとだけ時間ちょうだい。少しだけ話聞いてすぐ帰ってくるから」


 立ち上がって部屋を出ようとドアノブに手を伸ばすと……。


 バァン!


「ぎゃっ!」


「たのもーっ!」

「お、お邪魔します」


 勢いよくドアが開いて私の顔面にドアが激突した。


「お前らそこに並びなさい一人ずつぶん殴ってやるわ!」


「ひぃっ! せ、セスティ様!?」

「申し訳ありません! 命だけは……!!」


 人の顔を見た瞬間に命乞いとか私どんな危ない奴だと思われてるの……?


「ロンザ? コーべニア……? こんな所までどうしたの?」


 ……ロンザとコーべニア? どこかで聞いた事があるような名前だけど……。


「あら、じゃあこの二人がヒールニントが言ってた仲間の二人なの?」


 メアがヒールニントに確認を取ってるのを聞いて思い出した。そうそう、確かどっかに置いてきちゃった二人だっけ。


「ヒールニント!? お前ここに居たのか!」

「ずっと探してたんですよ! どうして何も言わずに出ていったんですか!?」


 二人が私達の事なんて頭から消えちゃったみたいにヒールニントへ一直線に詰め寄る。


「そ、その……悪いとは思ってるんです。でも二人はハーミット様の足手まといにならないようにって頑張ってましたよね?」


 その言葉を聞いて二人は顔を見合わせ、黙ってしまった。

 この二人もアルプトラウムが世界中に見せたあの映像を見て気付いちゃったんだろうね。


「でも私はどちらかというと、どうしてもハーミット様をビンタしてやりたかったので。だから一人で出て来ちゃいました。ごめんなさい」


 そう言って彼女はぺこりと頭を下げる。


「いや、顔を上げろ。ヒールニントはハーミット様の事情をある程度知っているんだろう?」


「ロンザ……彼に何が起きてるのか、詳しくは分からないですけど、とっても面倒な事になってるのだけは確かです。この状況をなんとかするために丁度コーべニアを探しに行こうと思ってた所でした」


「……へ? 僕に何か出来るのかな?」


 ああ、じゃあそういう事なのかな?


「あー、ちょっといい? 君達がロンザ君とコーべニア君ね?」


 二人はガッチガチに固まって私の正面に立ち、深々とお辞儀をした。


「うんうん、礼儀がしっかりしてるのは好感が持てるぞ♪ ところで、君達は何しにここへきたの? まず要件を聞いてもいいかしら? ヒールニントと再会したのは偶然みたいだしね」


「お目にかかれて光栄です。俺は赤の……騎士、ロンザと言います。既にご存知かもしれませんが俺達は以前ハーミット様と旅をしていました。そして……」


 それから彼が語ってくれた内容は、デュクシがヒールニントに預けたあの球体に入っていた記憶と同じ物だった。

 勿論、最後に何があったのかロンザは知らないけれど。


「なるほどねー。それで結局君達はどうしたいの? デュクシの奴が今この世界を壊そうとしてるのは本当だよ。勿論いろいろ事情はあるけど、あいつが世界の敵なのは事実なのよね」


「俺達にハーミット様が止められるなんて思い上がりをしている訳じゃないんです。だけど、せめて何かがしたい。ハーミット様の事、誰かに任せっきりで何もせず過ごすなんて無理です。だから、俺達を使ってくれませんか?」



 へぇ、いい顔するじゃん。


「それはそっちのコーべニア、だっけ? 君も同じ考えなのかな?」


「はい、勿論です。僕も……少しでもいいから力になりたいです。きっとハーミット様は苦しんでる。アレが本心とは思えないんです。セスティ様、どうか僕らを……」


 うん、合格でしょこれは。


「おっけ♪ 君等には重要なお仕事を任せるから死ぬ気で頑張るように! ……分かった?」



 私は出来るだけ脅かそうと思ってそう言ったんだけど、なかなかどうして骨のある子達だわ。


「ありがとうございます! この身滅びようとも、紅の聖騎士ロンザ……必ずや姫のお役に立ってみせましょう!」


「右に同じです! この大賢者の弟子コーベニア……命に代えても与えられた使命を全うしてみせます!」


 紅の聖騎士と大賢者の弟子、これをまた聞くとは思わなかった。


 運命ってのはどうなるか分からないものね。


「あっはは♪ いいねいいね♪ 君達面白いねぇ! お望み通り使ってあげるから頑張りなさい。失敗したらこの世界が滅ぶから心して対処にあたりなさい♪」


 自分らの失敗で世界が滅ぶって聞かされて、流石に二人が顔を青くした。


 初々しくていいねぇ。

 道を踏み外した元勇者の仲間が彼を、そして世界を救う為今立ち上がる!

 ってね♪

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