魔王様と面倒な神様。
「あー、あー、てすてす。おーいこれってもう映ってるのかー?」
「邪魔だからどいていたまえ」
「ふぇーい」
突然の出来事に国中が騒然とする。
「なんだなんだ?」と面白がる者、「この前のカエルみたいなのと同じか?」と訝しむ者、ただただ恐怖に慄く者。
みんなそれぞれの反応をしているけれど、きっとこれはディレクシアだけでなく世界中に同時に映し出されているんだろう。
映像に映っていたのはデュクシと一緒にいた赤髪の女性だった。
そして……。
「初めまして皆さん。私はアルプトラウム……皆に分かりやすく言うなら神、悪魔、そのあたりだろうか」
先程までの騒々しさが嘘のように治まる。
自分らに呼び掛ける神、そして悪魔と名乗った人物に恐れを抱く者、そして興味津々な者、これも先ほどと同じで多種多様。
でもみんなが等しく、彼の次の言葉を聞き逃すまいと耳をそばだてた。
「デュクシ……とうとう動いたようじゃのう」
めりにゃんが私の服をぎゅっと掴む。
「大丈夫。それにあいつはデュクシであってアルプトラウムだから。何か悪い事考えてるならアルプトラウムをぶっ飛ばしてデュクシを助け出すわ」
めりにゃんの手に力が入っているのに気付いたので優しく撫でてあげた。
「突然現れて神だ悪魔だと言われても信じられないだろうね。だからこう認識しておけばいい。君らとは明らかに違う超越した存在だとね」
そう言って彼はつまらなそうに笑う。
「別に神だから崇めろと言っている訳じゃない。悪魔だと罵り滅ぼそうとするならそれも構わない。だが言わせてもらおう。この世界には魔物と魔族という人間の敵がいたわけだが……」
こいついったい何を言い出すつもり……?
「君達も知っている通り魔物は今人間が王になり人間との橋渡しをする事で協力関係を築いた。これは驚くべき事だよ」
人々は口々に「セスティ様のおかげだ」とか、「魔物に恨みのある人も居るけど、セスティ様の事は信じられる」とかそんな嬉しい言葉を呟いた。
この人々の期待に応えてあげないとだよね。
「そして世界に新たな敵が現れたのは皆も知っているだろう? 魔族だ。魔族は魔物からの突然変異で生まれた者達だが、その多くが好戦的で狂暴だった為に神……当時の私達が別世界に隔離していた」
魔族という名前が聞こえた事で皆の表情が強張る。みんなも気付いたんだろう。神が魔族を隔離していたのなら……。
「ああ、一つ誤解をしないでくれたまえ。当時の神々はきちんとこの世界の事を考えていたよ。魔族も危険だから隔離したわけだね」
人々が困惑の表情に変わる。敵なのか味方なのか計りかねているのかもしれない。
「だが、ほぼ全ての神々は私が滅ぼした。そして魔族をこの世界に連れ戻したのも私だ」
そう言って彼は目を細め、口角を吊り上げる。さも愉快でたまらないという表情だ。
私には全然楽しそうに見えないんだけど。
彼の思惑通り、なのかは分からないけれど人々は怒り、そして恐怖した。
明らかな人類の敵だと、認めざるを得ない。
「だがね、君等の英雄であるプリン・セスティという人物はね、その魔族の王すら撃退し、私がかけていた洗脳までも解いてしまった……おかげでこちらに残っている魔族はあと僅かだよ」
僅かって事はまだ居るって事かな。ロザリアが他に連れて居なかったみたいだからアレで全部だと思ったのに……もしかしたら最初からロザリアに任せなかった人員が居たのかも。
私がそんな事を考えていると、人々にとって気になる部分は違う所だったみたいで、「セスティ様すげぇ!!」とか「人類の希望よ……」みたいな声があちこちから聞こえてくる。
……ちょっと、おかしい。
さすがに違和感を感じる。気持ち悪い。
「セスティ様マジ女神! ママになってほしい!」
「結婚してくれなくてもいいからワンナイトで相手してほしい!」
これは違う意味で気持ち悪い。
アシュリーやめりにゃんもその違和感に気付いているみたいで、眉をひそめて彼の次の言葉を待っていた。
ヒールニントは、もっと感情的になるかと思ってたけど、何故かぽけーっとその映像を口半開きで眺めていた。
「今世界はプリン・セスティを中心に一つになろうとしている。いや、既に【成った】と言っていいだろう。それでね、こちらとしてもそろそろ本格的に対処が必要と判断した訳だ」
嘘よ。こいつの言っている事は嘘っぱちだわ。
ここまでくれば私にだって分かる。
間違いなくこいつはこの時を待っていた。
世界が協力しあえるその日を。
全世界が自分の敵になるこの時を。
「これを見たまえ」
映像が切り替わり、空に浮かぶ大陸がいくつか映し出される。
「これは私が苦労して用意した物でね。それぞれの島に神術搭を用意してある。そしてこれらを使った術式により……」
ぐごごご……と急に空が真っ暗になり、暗闇を裂くように時折魔力が雷のように迸る。
「あいつ……何をする気だ!? ヤバい気配がするぞ!!」
アシュリーが誰よりも敏感に危険を察知していた。
「雷という物を天の怒り、神の怒りと表現する者も多いが……確かにこれを意図した場所に落とせば都市の一つや二つ一瞬で滅ぼす事が出来る」
……神術搭とかいう物で魔力をブーストし、神の雷を落とす……?
私にはそれが目的とは思えなかった。
「しかし私はそんな事に興味は無い」
空の彼方で一際大きな光が迸り、映像がその場所を映し出した。
巨大な光の剣がゆっくりと、海の中へ吸い込まれていく。
いや、海水は剣を避けるように、海に穴が開く。
やがて光の剣は地表に到達し、突き刺さる。
「私が合図を送ればこの剣はこの大地に穴を穿つ。ここは世界のバランスを取るのに重要な場所でね、ここを貫けば君らの世界は崩壊し、すべてが海に沈むだろう」
そこで彼は心の底から楽しそうな笑顔になって、間違いなく私個人に向けて口を開いた。
「さぁ、出来るものなら阻止してみたまえ。私を楽しませてくれ! さぁ、さぁさぁ! 私を止めてみせてくれ!」
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