魔王様と異世界人。


「……」

「……」

「はふはふっ」

「……」

「……」

「むぐっ! けほっけほっ!」

「……」

「……」

「ねぇ、もう終わった?」

「まだめりにゃんが食べてる途中でしょうが!」

「……」

「……」

「ねぇ」

「まだ」

「……ふぅ、ごちそうさまなのじゃ♪」

「……」

「……」

「黙ってないで早く話してよ」

「え、もういいの?」

「はいメリニャンさん飲み物です」

「おっ、気が利くのう♪ ……ん? そういえばお主等どうしたんじゃ?」

「今かよ……」

「うちの嫁に何か文句でも?」

「はいはい何もないわよ。で、さっきの話だけど……」


 まったく、めりにゃんがちょうど人生初ダコ焼き中だったっていうのに横からごちゃごちゃとやかましいんだから。


「その浮遊大陸ってのはどこに浮かび上がったの?」


「何処って言われても困るわ。でもアシュリーからの報告では少なくとも五つ現れたって言ってたわね。貴女に連絡がつかないって怒ってたわよ」


 めりにゃんが口の周りにダコ焼きにかけられてた緑の粉をつけたまま私を見上げてきた。可愛すぎる。


「ああ、アシュリーからの通信なら着信があったけど今はめりにゃんとデート中だったんで無視しちゃった♪」


「……お主それ絶対アシュリーには言うなよ? 殺されても知らんのじゃ」


「心配しすぎだって。アシュリーにはちゃんと後で謝るしお詫びに可愛がってあげるつもりだからだいじょう……」


 ごいん!


「いっだ!!」


「アンタね……連絡つかないと思ったらそんな理由で無視してたの?」


 急に後頭部を杖で殴られためっちゃ痛い。


「あ、アシュリー急にどうしたの? こんなところまで……ダコ焼きとかヤギそばとか食べる? 奢るよ? そんな怖い顔しないでね? ほら一緒にあっちに行こうかあまり人がいない所知ってるからさ、ね?」


「……メリニャン、これ殴っていいか?」

「許可するのじゃ」


「ちょっと待って! 分かった! 悪かったわよ……もう、で急にどうしたの? その浮遊大陸の話?」


 アシュリーが本気でもう一度杖を振りかぶったので慌てて話題を変える。

 怒りっぽい所も可愛いけど暴力的なのは良くないよね。


「浮遊大陸の話はもうメアから聞いてるのね。……というより、こいつのコレは一体どうしちゃったの? いつもより大分壊れてるみたいだけど」


「それは……セスティの奴ディレクシア城で国民相手に演説したんじゃが、例の薬を三倍飲んだとかで……」


「あぁ、それで……ほんっとにバカなのね……薬は多く飲めばいいってもんじゃないのよ。ちゃんと説明しておいたじゃない」


「忘れてた♪」


 アシュリーが大きなため息をついて可哀想な人を見るような視線を送ってくるのが痛い。


「そんな事より、早くその浮遊大陸の話してよ。デュクシトラウムが絡んでるの?」


「デュク……ま、まぁそうね。おそらくそうでしょう。今現在観測できているのは全部で五つ。一つ一つはそんなに大きな大陸じゃ無いんだけれど、問題は何処から現れたのかって事よ」


 どこから現れたって……そんなの海からざばーっと上がってきたんじゃないの?


「言っておくが海からじゃないぞ」


 違った。言わなくて良かった。また馬鹿扱いされる。


「そう思ってたって顔だな」

「チガウ。ゼンゼン」


「まぁいいさ。海からあれだけの大陸が分離して浮き上がったら世界的な地震と津波が襲ってくるぞ。それが一切ない時点であれはどこかから現れたんだよ」


「どこかからってどこから?」


「それが分かってればどこかから、なんて言い方はしない! こいつマジでなんなのメリニャンどうにかしてよ!」


 めりにゃんはアシュリーの肩にぽんっと手を置いて「すまぬ……」とだけ言って顔を伏せてしまった。


 その反応は結構傷付くからやめてほしい。


「でも本当にどこから来たのかしらね? 別次元から大陸を引っ張ってきたってところかしら?」


「さすがメアは話が早いな。どこかの馬鹿魔王とは大違いだ。今の所それしか考えられないと私は思ってる」


「そんな大陸がある別次元とかが存在するものなんですか?」


 ヒールニントがどこか遠くを見るように顔を上に向けながら言う。


「分からない。あると言えばあるし無いと言えばない」


「アシュリーの言い回しは難しすぎるんだよ。私にも分かるように言って」


「セスティにも分かるようにってなかなかハードル高いな……」


 どういう事だこら!


「私やめりにゃんも別次元に穴を開けたり、何かを収納、取り出しなどそういう魔法を使う事は出来る。だから別次元っていうのは無いわけじゃない」


「ふんふん、それで?」


「だけど大陸がある別次元なんて……正直信じられないんだよ。万が一あれが別次元から取り寄せた物で、そこに何か生き物がいるとしたらそれは……既に異世界と言えるんじゃないか?」


 ……異世界? 異なる世界。

 生き物が居たら異世界の生き物。

 人が居たら異世界人!?


「えっ、凄いじゃん異世界人居るかな!?」


「バカ! 話はそんな簡単な事じゃないんだよ。だって私達が生きてるこの世界とは別の世界があって人々が暮らしているとしたら、一体この世には幾つそんな世界があるって言うんだ? 考えるだけで頭が痛くなる」


 私知ってる。

 アシュリーが頭を悩ませる不思議な物と直面した時って、腹の底では絶対喜んでるって事。



 あれ、でも待ってよ。

 私達にとってはこの世界が全てだったけど、ここは楽園っていう切り取られた場所であって、外の世界があった。

 私達はそれを知らなかったんだから外の世界だってある意味異世界だよね。


 それにアルプトラウムだって外の星から来たって話だったし、異世界人なんて意外とその辺に溢れてるのかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る