魔王様の優先順位。


「さぁめりにゃん! どこから回る?」


「待て待て、儂等は顔が割れているじゃろう?」


「……? それがどうかした?」


 なんでそんな事気にするんだろ。


「いや、儂らが街中をうろうろしてたら目立ってしかたないじゃろ。人だかりができて身動き取れなくなってしまうのじゃ」


 あー、そっか。さっきめっちゃ目立っちゃったもんね。


 私あんまり目立ちたくなかったんだけどやっちゃったもんはしょうがないよね?


「だったら魔法で一時的に姿変えて遊びに行こうよ! 城から出れば魔法も使えるでしょ?」



「ふむ……それもそうじゃ……ん? 待てよ……? という事はじゃ、もしかして儂が着替えてる時……」


「あ、バレちゃった? ちゃんと見てたよ♪ 見えてないつもりになって無警戒に着替え始めるから見ないと損かなーってうわ何するの!?」


 きゅうにめりにゃんが顔を真っ赤にして私をぽかぽか叩き始めた。お子様みたいで可愛い。



「黙ってたのは悪かったけど魔法が使えないってめりにゃんも知ってた筈だよね?」


「うっ……それはそうじゃが、だとしても礼儀として目を逸らすとかいろいろあるじゃろうが!」


「とっても可愛くて綺麗だったから見てたかったんだよね♪」


「むーっ! ずるいのじゃずるいのじゃ! 男に戻らんと怒るに怒れん……」


「なんでそんなに怒ってるの? 私達夫婦なんだからいいじゃん。遅かれ早かれ見せてもらう事にうわ何するの!」


「ばかーっ! ばかものーっ!」


 またぽかぽか叩いてきておさまらないからぎゅって抱きしめてキス。


「ふぇ……お、お主……今日は特に症状が酷いのう……あれだけの人間に女と認識されたのがここまで影響するとは……」


「だって薬飲んでたのにこれなんだもんしょーがないじゃん! 私悪くない!」


「飲み過ぎたお主が悪いんじゃよ馬鹿者っ!」



「バカバカ言ってると先に行っちゃうよ? いいの? 一人でお祭り楽しんで来るけど?」


「うぅ……」


「あー寂しいなーめりにゃんが来てくれないから独りぼっちだよ寂しいなー」


「分かった分かったのじゃ……もう、知らん。なるようにしかならんし楽しまなきゃ損じゃな♪」


 そう言ってめりにゃんは気を取り直したように私の腕に絡みついてくる。


 あー何この天使。いや魔物なんだけど、何この小悪魔。これだ、これが一番しっくりくる。



 八重歯をキラっと覗かせて笑うその顔はめっちゃくちゃ可愛いのだ。


「じゃあ見た目ちょちょいっと宜しくね」


「はいはい。仕方ない旦那様じゃのう♪」


 めりにゃんもそわそわしてるところを見るとお祭り結構楽しみにしてたみたい。


「セスティセスティ! あれはなんじゃ!? あれは!? あっちは何かのう!?」


「こらこら、私の名前呼んじゃダメでしょ……あれはダコ焼きって言って海に住んでるやらかいぶにぶにの生き物をぶつ切りにして……」


「うぇっ、なんじゃそれ美味いのかのう……?」


「何言ってるのめりにゃん! ダコ焼きの素晴らしさも知らないなんてかわいそう! まず食べてみてよ話はそれからっ!」


「お主だって儂の名前……まぁ、いいか。それにしてもこれ本当に美味いのかのう……?」



 屋台に並んで注文まで済ませたっていうのにまだ不審がってる。

 店主が不思議な窪みのある鉄板の上でダコ焼きをくるくると焼いていく様子が気になるみたいで、だんだんと表情が和らいでいった。


「面白いでしょ?」


「う、うむ……摩訶不思議な食べ物じゃのう」



 屋台のおっちゃんが透明なパックにダコ焼きを入れてめりにゃんに渡し、私がお会計を済ませる。


「なんかデートみたいだね♪」

「む? 儂はそのつもりじゃぞ?」


 ……ちょっときゅんとしたので照れ隠しにめりにゃんの頭をわしゃわしゃ。


「な、何をするんじゃ……どうせならもっと優しく撫でてほしいのじゃ」


「ごめん」


 ちょっと乱暴にしちゃったから素直に謝ってその綺麗な黒髪を優しく撫で、整える。


「あっちの隅の方で食べようよ」

「うむ、そうじゃな♪ どんな味じゃろうか……」


 人混みから少し離れた場所に移動し、植え込みを囲っているレンガの上に座る。


「食べさせてあげるね♪ はいあーん」


「な、なんじゃ恥ずかしいのう……」


 そう言いながらもめりにゃんはサイドの髪を耳にかけつつ唇を寄せて……。


「あっ、居ましたよあそこです!」

「ちょっとセスティ! 探したのよ!?」


「あっづ!!」


 いきなり声をかけられて吃驚して手元がブレてしまい、めりにゃんのほっぺたにダコ焼きを押し付けちゃった。


「ご、ごめんめりにゃん!」

「あっづ! あっづ! うわーん!!」


 子供みたいに泣き出しちゃっためりにゃんはとっても可愛いんだけど後ろめたい気持ちもあるから複雑な気持ち。


「ほらめりにゃん、ごめんね? 冷ましながらゆっくり食べて」


「ねぇヒールニント。私無視されてるのかしら?」


「そうみたいです。というか完全にお邪魔だったみたいですよ」


 まったく……何の用かしらないけど夫婦水入らずのデートタイムを邪魔するなんて。


「ちょっといいかしら? 大変な事が起きてるのよ」


「大変な事って?」


 メアの表情がすっと真面目な物に変わる。


「新しい大陸が突然幾つも現れたの。それも……全部浮いてるのよ」


「浮遊大陸って事!? なにそれ凄いじゃん」


「喜んでんじゃないわよ。こんな天変地異みたいな事にあいつが絡んで無い訳ないでしょ!?」


 あ、そっか……。デュクシトラウムのやつ何考えてるんだろ。


「はっふはっふ! うんまーいのじゃーっ!」



「……とりあえず話はめりにゃんが食べ終わってからでいい?」

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