魔王様の誤算。
「本当に今日という日を迎えられたのはセスティ様、そして魔物フレンズ王国のお力あってこそです。国民に代わりお礼を言わせて下さい」
「あー、うん。それはもう分かったって」
「まぁそう言ってやるな。レオナもやっと国民を想う気持ち、そして王としての自覚に目覚めたのだから」
先王はそう言ってケラケラと笑う。
「それに、あの時私が死ななかったのはそなた達のおかげでもあるのだ」
「それを言うなら私もです。メア様とヒールニント様が居なければ私はとうに死んでいました……」
「分かった分かったから!」
まったく……恩義を感じてくれるのはありがたいがこう引きずられるとやり辛くてしょうがない。
「それで、その式典ってのはいつ頃始めるんだ?」
「国内は既にお祭り騒ぎですよ。賑やかな声が聞こえてくるでしょう? このあと式典の時間になれば皆が王城の周りに集まってくるでしょう。ささ、準備を宜しくお願いします」
レオナに別室へ引き摺られて、服を着替えろと言われたが出来ればこのままがいい。
「どうしてです? この日の為に用意したドレスもあるんですよ?」
上目遣いで瞳をうるうるされたら断るに断れない……。
「分かった。いいよ着ればいいんだろう? マリス、服やめてリボン」
「きゅっ」
一撫でするとマリスはしゅるしゅると頭の上に集まって、リボンがさらに豪華になった。
「す、凄い! その服って生きてるんですか!?」
「あぁ、レオナは知らなかったな。こいつは俺の相棒なんだ」
そう言ってリボンを撫でると気持ちよさそうに「きゅ~♪」と鳴いた。相変わらず可愛い奴だなぁ。
というか勢いですっぱだかになってしまったので慌てて用意された服を着こむ。
ずっとマリスのドレスで通して来たからこの白いドレスっていうのは新鮮だ。
……というか女物の服を出されてそれを着る事になんの違和感も感じなくなってるのはいろいろマズい気がする。
「それで、めりにゃん用の服もあるんだろうな?」
「勿論です♪ ささ、メリニャン様こちらの服をどうぞ」
「う、うむ……なんだか白くてふわふわしてて恥ずかしい服じゃのう……」
めりにゃんはいつも黒いゴシックな感じの服だからこういうのは苦手なのかもしれない。
「どうする? やめとくか?」
「いや、セスティもその白いドレス似合っておるしな。お揃いになりたいから儂も着るのじゃ」
めりにゃんは顔を赤らめながら俯きがちに言った。
「でしたらささ、ぱぱっと着替えちゃいましょう♪」
何故かノリノリのレオナが一瞬でめりにゃんの服をすぽーん! と剥ぎ取る。
「ぴぎゃーっ!!」
……ほう?
着ている服を一瞬で脱がすとはかなりの手練れ、或いは特殊なスキルを持っていると見える。
「な、ななななにをするんじゃぁ!! まだセスティがおるじゃろうが!!」
「えっ、でもお二人は夫婦なのですよね?」
「だとしてもこういうのはまだダメなのじゃっ!」
めりにゃんが突然俺に向かって魔法を唱えた。
「……ふう、ただの目くらましにしかならんがこれでいいじゃろう。ほれ、服を貸すのじゃ」
……多分めりにゃんは俺に暗闇系の、視覚阻害魔法をかけたつもりなんだろうが……。
自分で言っていた事を忘れてるのかなこの子は……この城内では魔法が効果を成さないと……。
正直に教えてあげようかどうか迷っているうちに着替えが終わってしまったので言い出すタイミングを逃した。
まぁ、いいよね? 夫婦だし。うん、いいに決まってるね。
「セスティ、どうじゃどうじゃ?」
めりにゃんがふわりと広がる白いドレスの裾をつまんでくるくると回る。
「うん、いつも可愛いけど今日は特別可愛いな。さすが俺の嫁」
「にゅふふ……照れるではないかもっと言ってよいぞ♪」
その時コンコン、とドアが叩かれる。
「レオナや、そろそろ皆の準備はよいか?」
「あ、はーい! もう準備出来ました! すぐに向かいますのでもう少しお待ちを!」
妙に時間がかかっていたので先王が急かしに来たのだろう。
俺達が再び謁見の間まで戻ると、アレクとテロアが俺達を案内し、城のでっぱり部分。バルコニーのようになっている場所まで連れていってくれた。
「見て下さい。今日という日をこれだけの人々が待ちわびていたのです」
アレクが無表情で促した先、俺達の眼下には……とんでもない数の人々。
「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」
この大歓声が俺達に向けられているかと思うと少しむず痒い。
「レオナ様ぁぁぁぁ!!」
「リレイディオ様ぁぁぁ!!」
「ディレクシア万歳!」
「皆の者静かに! これから我がディレクシアと魔物フレンズ王国の友好同盟を記念し、式典を執り行います!」
良く通る声でレオナが住人達へ一声かけると、驚くほど皆静かに彼女に見入っていた。
血筋ってやつは恐ろしいな。
きっちり王としての資質を持ってるって事じゃんか。
「ご存知の方もいるかと思いますが、私の盟友を皆様にご紹介いたします。魔物フレンズ王国、国王のプリン・セスティ様と、その奥方、ヒルデガルダ・メリニャン様です」
紹介に応え、俺とめりにゃんは前に出て皆に手を振る。
「二人ともなんてお美しいのかしら」
「鬼神セスティがあんなに美人だったなんて……!」
「ヒルデガルダって子も可愛い……」
……正直、悪い気はしない。
というか、なんだろ。めっちゃ高まってくる。
様子がおかしかったのかめりにゃんが心配してこちらのドレスをちょんちょんっと引っ張る。可愛い。
「おいセスティ、ちゃんと飲んできてるんじゃろうな?」
「ええ、あの薬なら勿論事前に三倍量飲んできたわ♪ ばっちりよ!」
めりにゃんが頭を抱えた。可愛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます