終章:悪夢の終わり。

魔王様は式典に臨む。


 不思議と何事もなく平和な日々が続いた。

 勿論平和なのはいい事で、それに越したことはないのだけれど。


 だからと言ってアルプトラウムの脅威は確かにこの世界に存在する。

 そしてデュクシはそこに囚われたままだ。


 アルプトラウムの存在があるというだけで、この平和な日々にすら違和感を感じるようになってしまう。



 あいつは今何をしているんだ?

 何もせず平和な日々を満喫しているなんて事はないだろう。


 だとしたらこの静かな時間は何か、理由があると思った方がいい。


 いったい何を企んでる? 何かの準備をしているのか……?


「セスティ、居るかのう?」


「ん、めりにゃんか……まだベッドの上だよ」


「まったく……いつまで寝ておるんじゃ。今日は大事な日じゃろう?」


 めりにゃんは寝室に入って来るとベッドに転がったままの俺をぼすぼす叩いて起こす。


「悪かったって。ちゃんと分ってるよ……これで、世界は一つになるんだな」


 今日、俺は王都から呼び出しを受けている。

 魔物フレンズ王国とディレクシアは同盟を結んでそれなりに経つが、各地への通信、転移転送事業、及び防衛基地設置などにより信頼を勝ち取ってきた。


 それを見て、ディレクシアの先王、そしてレオナはそろそろ頃合いだろうとの事で、大々的に式典を執り行う事となった。


 式典、というのは建前で、ディレクシアの復興祭というのがメインだが。


「ほれさっさと着替えんか。それとも儂が手伝ってやろうか?」


 めりにゃんがこちらを見てにやりと笑う。


「着替えくらい出来るって。知ってるだろ? 俺の着替えなんて一瞬なんだから……マリス!」


 俺は服を脱いで、同じくベッドの上で寝ている毛玉に声をかけた。


「ぷ……きゅ?」


「マリス。おいで」


 手を差し出すと、しゅるしゅると姿を変えて俺の身体に巻き付き、いつもの赤ドレスへと変わる。


「ふむ……やはり便利なもんじゃのう」


「よし、じゃあ出発するか」


「待て待て、寝癖だらけではないか。ちょっとこっちに座るのじゃ。髪を梳いて纏めよう」


 おとなしくめりにゃんの言う通り、ソファに座ると、めりにゃんは俺の背後に回って髪を梳き、それをひとまとめにして後頭部のあたりまで持ち上げ、髪留めでとめた。


「おいおい、こんな髪型にしなくても……」


「今日はこの国の代表として人前に出るんじゃぞ? 少しはきちんとしなきゃダメじゃろ」



 うぅ……人前に出るっていう事に対して嫌な予感しかないんだけどなぁ。


「なぁ、今からでも代理を立てる訳にはいかないのか?」


「何言っておるんじゃ。無理に決まっとるじゃろ」


「だったらほら、魔法で姿を変えるとかさ」


「出来なくも無いが……いや、今の王都では無理じゃな。危険を排除する為に城に魔封じの結界を張ってあるからのう」


「魔封じの結界ってなんだ……?」


「それはアシュリーがショコラやサクラコから魔術の知識を得て、ザラとクワッカーの力を借りて作り上げた新種の結界で……」


「待て待て、俺らが居ない間にそんな事になってたのか?」


「うむ。範囲はあまり広くないんじゃが、特定の範囲内に限り魔法等の使用を封じるというものじゃな。よってどうする事もできん」


 めりにゃんは「諦めるのじゃ」と死刑宣告を平然としてくる。

 俺が女として人前に出ると言う事がどういう事か分かっているのだろうか……?


「ほれ、その為の薬じゃろう? アシュリーから貰ってきておるから安心して臨むのじゃ」



 呪いの進行を阻害する薬……。

 あれできっちり俺を守ってくれよ……?


「よし、もう皆は王都の祭りを楽しんでおる頃じゃ。儂らも行くぞ♪」


 彼女は俺をソファから立たせると、「早く行くのじゃ♪」とニコニコしながら転移魔法を展開する。



「おお、セスティ殿お久しぶりです! その節は本当に……」


「いや、そういう堅苦しいのはやめてくれ」


 転移した先はディレクシアの謁見の間だった。

 相変わらずこの精度の高い転移が羨ましい。


 玉座から立ち上がって俺達に頭を下げてきたのがレオナ。

 その後ろには先王とアレクが控えている。


「しかしセスティ殿、ディレクシアが復興できたのも貴方達のおかげですし……」


 ……正直少し驚いている。

 だってあのレオナがちゃんと王様らしい言動をしてるんだぜ?


 先王は腕組みして何やらうんうんと頷いている。余程成長が嬉しいのだろう。


 アレクは……無表情でよくわからん。


「お久しぶりですね。その後王国の方は変わらずですか?」


「ああ、アレクが出てからはジービルとその奥さんが頑張ってくれてるよ」


「そうですか。あの人達が居れば私は必要無いでしょう。それはそうと本日のスケジュールですが……」


 めんどくさい話をしようとアレクが前に出て来たので逃げようと思ったんだが、めりにゃんにがっちりと腕を掴まれてしまって身動きが取れなかった。


「セスティ? 今どこかへ行こうとしなかったかのう?」


「い、いや……そんな事はないぞ。勿論、魔王としてやるべき事はやらないとだよな、うん。間違いない」


「お前達は相変わらず楽しそうであるな。本日の式典にて名実ともにこの世界が一つになるのだ。少し我慢してくれ」


「大叔父様の言う通りです。お手数をおかけしますが何卒……」


 先王と現王のレオナに頭を下げられてしまっては「勿論」と返すほか無かった。

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