魔王様と魔力をコネる妹。


「私気付いた事があるのよ」


「……一応、聞いておこうか」


 嫌な予感しかしないんだけど。


「この身体って元々はおにぃちゃんのでしょ?」


「ああ、そうだな」


「だからね、ぶっちゃけぶん殴るのが一番破壊力出るんだよね」


 そんなこったろうと思ったよ……。

 こいつ相手に肉弾戦しようって考えがどうかしてるけど、嫌いじゃないぜその考え方。


「じゃあ思い切りぶん殴ってみろ」


「勿論そのつもり……よっ!」



 先程かろうじてかわしたダイダラボッチの一撃が再び迫る。


 その巨大な拳へ向かってメアは突進。


 こっわ!!


「砕け散れぇぇぇぇっ!!」


 どごすっ!


 びぃぃぃん! という振動音が響き渡り衝撃波が飛ぶ。そして……。


「いったぁぁぁぁい!! なにこいつ!!」


 どうやらメアの拳の方が打ち負けてしまったようだ。


 ……という事は。


「うぉぉぉぉぉん!!」


 再びゼロ距離から巨大な拳が俺達を襲い、ギリギリでなんとか俺が防御障壁を張ったものの、そのままごちんと殴られて水面へ落下。


「ぼばばばば! ぼびーびゃんばいつぶっぼぼす!」


 どうやらダメージは無いみたいだがメアはかなりご立腹なご様子で、水中だというのに無理に喋るから何言ってるか分からない。


 彼女は俺事勢いよく水面から飛び出し、俺達の頭上を振り抜いている腕にしたから蹴りを食らわせる。


 予想だにしていない方向からの攻撃で、さすがにダイダラボッチの腕も大きく跳ねた。


「ゆるさなぁぁぁぁぁい」


「許してくれなくていいわよっ!」


 メアは再び転移し、ダイダラボッチの後頭部に現れ、すぐさま渾身のパンチをぶち込む。


 がぃぃぃぃん!


「硬ぁぁい!」


「メア、殴るなら手に障壁張るとか魔法纏わせるとかした方がいいぞ!」


「さすがおにぃちゃん殴る事に関しては私より慣れてるね!」


 褒められてる気がしねぇんだけどな。


 その時、殴っても無反応だったダイダラボッチの後頭部に、巨大な目と口が現れた。


「こっちかぁぁっ!」


 こいつ後ろにも顔が……!? いや、こっち側に目と口が移動した?


 どんな生き物なんだこいつは……!


 そしてぎゅももも……っとそのがらんどうの口で大きく息を吸う。


「う、うわわわわっ! 吸い込まれる!!」


「おいメア何とかしろ!」


「ちょっと変な所掴まないでっ!」


「うわっ、す、すまん!」


 って、そんな事言ってるばいじゃ……!


「あっ、もう……無理っ!!」


 どこかに掴まるわけにもいかない上空で、ダイダラボッチの吸引力に完全に負けてしまった。


 す、い、こま、れるぅぅぅぅ!!


 俺達はその漆黒の口の中に吸い込まれてしまった。


 ぽんっ!


 そして反対側から吐き出された。


「何がしたかったんだてめぇは!!」


 さすがに今のはびっくりしたんだぞ!!


「あれぇぇ? 口の向きすぐに直したらでちまったぁぁぁ……」


「私こいつ嫌い!」

「俺も嫌いだよ!」


 その肩の上では未だにゲッコウとキャメリオが激しく斬りあっている。

 あいつらよく落ちねぇな……。


「おにぃちゃんちょっと力かして!」


「おう、構わんが何をする気だ?」


「二人分の魔力でぶん殴る!」


 結局変わらねぇじゃねぇかよ!!


「もっと冷静に対処を……」


「行くわよ! 早く!!」


「わ、分かったよ……」


 メアの拳に俺の魔力を流し込む。

 そしてメアも自分の拳に魔力を一点集中。

 その上で可能な限りの属性をてんこ盛りにして、それらをメアがコネて一つにまとめる。


 そんな乱暴な混ぜ方ってあるかよ……。



 ぐんっ! と俺の身体はメアに引き摺られるようにしてあちこち振り回され、機敏に動き回るメアはそうやってダイダラボッチの視界から外れる。


 それから背後にぐるりと回り、背中のど真ん中あたりに全力の一撃。


「行くわよ! くらいなさいオーロラサイジェフォリオ拳!!」


 どぼんっ!!


 そんな音が聞こえて、ダイダラボッチの胸に風穴があいた。


「い、いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


「何をやってるのだダイダラボッチ! 早くそいつらを始末しろ!」


 状況が良くないと見たキャメリオが焦りだし、叫ぶ。


「命のやり取りの最中によそ見とは余裕じゃねぇですかい!」


「ぐあっ!! 貴様ぁ……! 貴様の剣筋など、すべて分かっているはずなのに……どうして貴様はそれを上回ってくるのだ!」



 あっちは徐々にゲッコウが押してきているようだ。

 おそらくショウグンの剣技を取り込み、記憶もショウグンが知っている段階までのゲッコウなのだろう。


 ゲッコウだってアレから幾つもの経験を経ているのだから記憶を上回っていて当然だ。


「おいダイダラボッチ、まだ俺達とやるのか?」


「うぅぅ……修復に力、使いすぎたぁぁもう、めんどくさいなぁぁぁ」


 やっぱりこいつらは目覚めたとしても燃費が悪すぎるんだ。動いてるだけでどんどんエネルギーが消費されていく。


「この木偶の坊め! 文句言ってないで早くそいつらを倒せ!!」


「キャメリオ……ここいらが年貢の納め時ってやつじゃあねぇんですかい?」


「うるさい五月蠅い煩い! ダイダラボッチ!」


 ダイダラボッチの大きな目玉が顔の側面に現れる。


「うるさいなぁぁ……だったらぁぁ捧げものおぉぉよこぉぉせぇぇぇ!」


「分かった! なんでもくれてやるから!」



「なら、生命エネルギーをもらうぞぉぉ」


「なっ、なんだと!?」


 ぎゅもっ。


 漆黒の口も側面に移動し、一瞬でキャメリオが吸い込まれて行った。


 こんなはずでは無かった。

 そう言いたそうに目を血走らせ、敵であるゲッコウに手を伸ばし、消えて行った。

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