魔王様とお子様。
「めんどぉぉだけどぉぉ……捧げ物のぉぉ為だぁぁぁ」
バカでかいダイダラボッチがその長い腕を振るう。
「メア! 一旦ゲッコウとゲコ美、あとヒールニントをどこかに避難させてきてくれ!」
「分かったわ!」
俺はぴょんとダイダラボッチの腕に飛び乗り、頭の方を目指す。
「あっしも残りやす!」
俺の後を追ってゲッコウが腕を駆け上がってきた。
飛べないやつが二人になったらメアの負担が増えるかもしれないが、こいつの気持ちも分かるのでここは止むを得ない。
「落ちても知らねぇからな!」
「了解でさぁっ!!」
肩のあたりまで一気に駆け上がるとダイダラボッチが俺達を見失い、辺りをきょろきょろと見回し始める。
「どぉぉぉこぉぉぉだぁぁぁぁ?」
「ちっ! この木偶の坊……! 大きいだけで役に立たないじゃないか!」
肩の上でキャメリオと対峙する。
奴は思ったように動かないダイダラボッチにやきもきしているようで、今までのような余裕の表情が消えていた。
「どぉぉこぉぉぉだぁぁぁ? ここかぁぁぁ?」
俺達を見失ったダイダラボッチは貯水池からゆっくり陸地へ上がり、その辺の木々をなぎ倒し始めた。
「ふ、ふははは! 私に構っている暇があるのか? このままではこの周辺は草一本残らないぞ! 見てみろ、ダイダラボッチがダムを破壊するぞ!」
「ダムを壊されてしまったらまたゲコゲコランドが崩壊してしまいやす! なんとかしないと……」
開き直ったキャメリオは脂汗を浮かべながらも俺達を脅してくる。
「ゲッコウ、こいつの始末……お前に任せていいか?」
「……! 無論でさぁ。あっしがやらずに誰がやるってぇんでい!」
その言葉を聞いて安心した。
出来ればこいつはゲッコウの手で葬るべきだろう。
俺は軽くゲッコウの肩をぽんっと叩き、ダイダラボッチの肩からダムの上へ飛んだ。
……のだが。
どうやら飛距離がありすぎて目測を誤ってしまったらしく、ダムを飛び越えてしまった。
「……まったく、何やってるのよ」
ダムの向こう側へ落下しそうになっているところを、既にどこかへ二人を避難させてきたメアが俺の腕を掴んで助けてくれた。
「ありがてぇ……助かったぜ。メア、そのまま俺に飛行の魔法とかかけられないか?」
「出来ない事は無いけど……人に飛行魔法かけてそれのコントロール権まで与えるのは難しいのよ」
……やっぱり簡単にはいかないか。それなら
アレはどうだろう?
以前めりにゃんにやってもらった方法。
「メア、俺達が初めて戦った時の事を覚えてるか? 俺がめりにゃんと一緒に……」
「あぁ、アレなら多分出来るわよ。ただし、あの子みたいに精密なコントロールは難しいから私から離れたら真っ逆さまね」
確かあの時めりにゃんは空気で出来た結界みたいなのに足先が触れる空間を閉じ込め、俺が一歩踏み出すごとにその足先に同じ事がおきるようにした。
俺は空中を走り回れるようになったわけだが……何をやっていたのかは詳しく分からない。
「あの子がやってたのはね、おにぃちゃんの足先が一定以上の力を込めた時にそこの空間を小さな結界に閉じ込めて固定する事で足場にするっていう高度な……とにかく、そんな繊細な事私には出来ないから私から離れたらもう無理」
めりにゃんはそんな大変な事を涼しい顔してやってたっていうのか。
本当にあの子には助けられてばかりだったんだな……。
ん? そうか、あの時と同じようにすればいいのか。
「だったらメア、俺達二人一組で戦うぞ。俺が離れないようにしっかり手を握っててくれ」
「……えっ」
「待て、どうしてそこで嫌そうな顔するんだよ」
「だって……なんか、ねぇ?」
『いくらわたくしの姿だとしても内面からにじみ出る変態さを拒絶しているのですわ』
「ロザリアは少し黙っててくれマジで。とにかくこの状況だと戦いにくいから一緒にやるぞ」
メアは一度深くため息をついて、「仕方ないわねぇ」と言いながら俺の身体を同じ高さまで引き上げ、足元に魔法をかけた。
「ほら、これで少なくとも私と手を繋いでる間は足場が確保できるわ。多少離れても平気だけど、あまり保証はしない」
「オーケーだ。さて、ダイダラボッチもこっちに気付いたみたいだぜ? とにかくダムから引きはがすぞ」
「そうね。じゃあおにぃちゃん……振り落とされないでね」
えっ? と質問を返す暇も無かった。
メアはその場で即転移を発動させダイダラボッチの顔の目の前に移動。
「あんたの相手はここに居るわよ。やーいやーいうすらでっかちーっ! のろまーっ!」
「……それはぁぁぁ悪口をぉぉ言ってぇぇぇるのかぁぁぁぁ?」
「そんな事も分らないの? その通りよばーかばーか!」
メア、流石に荒神相手にその煽り方はどうかと思うぞ……まるで子供じゃないか。
ある意味メアはまだ子供みたいなものかもしれないが……。
「ふんがーっ!!」
ダイダラボッチめっちゃ怒ってんじゃん……こいつも精神年齢子供かよめんどくせぇなぁ
「馬鹿っていう奴が馬鹿なんだぞぉ! もう怒ったからなぁ!! お前もこの国も全部まっ平らにしてやるぅぅ!!」
急に喋り方が早口になって、一つ目がくわっと開かれた。がらんどうだった口はへの字に曲がって、怒りを露わにしている。
そして、何より困ったのが、どうやらこいつ怒りでリミッターが外れるタイプの暴走野郎だったらしい。
「ふんっ!」
あの巨体の、大きな腕が物凄い速さで俺達に襲い掛かった。
「うわっ、あぶな……っ!」
「おいメア……この責任は取ってもらうぞ」
「何よ私が悪いっていうの? ダムからは注意を逸らせたじゃないの!」
「ダムだけじゃなくて全部ぶっ壊そうってなっただけだけどな!」
「何よもう……どっちみちぶっ飛ばせばいいんでしょぶっ飛ばせば!」
そう言って鼻息を荒くしながら空いている方の腕をぐるぐる回しているお子様に、当然ながらとてつもない不安を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます