魔王様と水底に眠る何か。
俺達はゆっくりと船の内部へ入っていく。
通路は狭く、人一人が通るのがやっとだった。
こんな場所ではお互い戦うのも大変だが、相手が杓子の玉を持っているというのならそれを奪い返さなきゃならない。
それさえ持ってなければこの船ごとぶっ潰して終わりだったんだけど……。
「申し訳ありません、私の不注意で……」
ゲコ美がまるでおれの心を読んだかのようにそんな事を言ってくるので逆に申し訳なくなった。
「いや、あいつの擬態はほぼ完璧だからな……騙されても仕方ないさ」
そうだ。キャメリーンの擬態はかなりの被害者を出した。
確か特殊な部隊に居たとか言っていたが、キャメリオも同じ所に居たんだろうか?
招集に従わずわざわざニポポンまで来て何をしている……?
船内は特に罠も無く、シンプルな造りで、奥までほぼ一直線だった。
奥の扉を開けると、じんわりと鈍く光る小さな玉を掌に載せたキャメリオが待ち構えている。
「キャメリオ……ショウグンの名を語った事、後悔させてやりやすぜ」
「ふふふ……こんな所まで追ってくるとは貴方方もよほど暇と見える……そんな大口を叩いていられるのも今のうちですよ」
キャメリオはこの状況でも余裕の表情。
「お前、状況分かってるのか? 俺の事を知ってるようだったが実力までは分からないなんて言わないよな?」
「勿論勿論よく知っていますよ。そこの元魔王の事もよく存じておりますし、私に油断などは一切無いと断言しましょう」
……その割になんだこの余裕は。
俺とメアが揃っていて、両名の実力も知った上でこの余裕。
間違いなく何か裏がある。
「さて……そろそろ到着する頃合いでしょうかね」
「一体どこを目指してたってんでぃ!」
「フロザエモンよ……以前ベアモンが大破した時の事を覚えているか?」
キャメリオの姿が再びショウグンの物へと変わり、声も変化していく。
「その姿、その声をそれ以上汚すことは……!」
「覚えているか、と聞いている」
「……ッ!」
ゲッコウは怒りを抑え、その時の記憶を思い出すかのようにしばし黙る。
「忘れるわけが……」
「何故この地にダムがあるか知っているか?」
ダム……? 確か水をせき止めて必要な分量の水だけを国の水路に流すっていうアレだ。
ゲッコウから聞いた話によればベアモンが大破した際ダムに激突、破壊してしまった為に大量の水が洪水のようにゲコゲコランドへ流れ込んだ……。
「ダムがなんだってんでぃ。アレは国の重要な水源で……」
「表向きは、な」
キャメリオはショウグンの姿で、恐らくはショウグンその物であろう立ち振る舞いで語る。
「この国のダムはある物を隠す為に存在する。水源として役に立てつつ、ソレを他国から隠し、守る為に」
「一体何を言ってやがるんでぇ……そんな話聞いた事も……」
「そうかな? 我が妹は何か心当たりがあるようだが?」
その場に居る全員が一斉にゲコ美に注目する
。彼女は、確かに何かを知っているようで、おろおろと震えている。
「ゲコ美さん、いったいあのダムには何が隠されてるってんですか?」
「ふ、フロザエモン様……私も、父上から聞いただけで……しかもあれはおとぎ話……」
おとぎ話、だと?
それはおそらく昔から伝わる伝承と同義だ。
ここにキャメリオがそれだけの自信を持てる何かが眠っている?
「妹よ、それはおとぎ話などでは無い。私は以前ダムに潜り確かめている……おっと、潜って確かめたのは私の方でした」
急にニタァと下品な笑い方になったので驚いた。というか気色悪い。
「どうもこのやり方だとお互いが混ざりすぎて本当の自分がどちらなのか分からなくなってしまいますね……まぁ、私が取りこまれるなんて事はあり得ませんが」
俺には、なんとなくだけどこいつの自信の正体が分かったような気がした。
「……読めたぞ。ダムの中に有る物がよ」
「ほう? しかしそれが分かったとしてもう遅い。我が手には膨大な力を含む杓子の玉が、そして私はこれを使用できる資格を所有している!!」
ぶわっ!
突然キャメリオが立っている場所から紫いろの光が立ち上る。
「ちっ!」
ゲッコウが慌てて距離を詰め、キャメリオに刀を一閃させるが、一瞬遅く刀は空を切る。
「あいつは多分下だ! 俺達も行くぞ!!」
俺の考えが正しければ今この船はダムの貯水池真上だ。
「ゲッコウ! ダムは完全に修復されていたか?」
俺は忍び込む前にそこまで気が回っていなかった為確認してない。
「へ、へい。完全に修復されていたように思いやす」
だとしたらキャメリオが自分で修繕を指揮していただろうし、杓子の玉が手に入るまで目的の物、あるいは場所を隠すためだったのだろう。
だとしたら、以前はただ水中に隠されていただけかもしれないが今ならそれ専用の通路などが用意されている可能性がある。
俺は船の床を船底までぶち抜き、眼下に広がる湖のような貯水池を見る。
分かりやすい入り口などは特に無さそうだ。
「メア! あいつの魔力をサーチする事は出来るか!?」
「やってみる! ちょっと待って! ……って、何これ!?」
メアの反応を見る限り俺の想像は当たっていたようだ。むしろ魔力サーチに引っかかるくらいならもう時間がない!
「メア、その一番でかい魔力の場所へ俺達を転移させろ!」
「え、この反応だけで飛べって?」
「いいから早く!」
キャメリオの野郎、杓子の玉のエネルギーを、目覚めさせる為の起爆剤に使うつもりだ。
めんどくせぇ事になる前に玉ごと粉砕すべきだった!
「変な所に出ても恨まないでよ!」
俺達が転移した先には幸運にも空気があり、暗闇の中でバカでかい何かが、虚ろな目をギロリと光らせていた。
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