魔王様とキャメリオ。
「改めて自己紹介でもしましょうか。私の名前はキャメリオ。フクヒル、ベアモトを手中に納め、ゆくゆくはニポポン全土を我が手中に納めてみせる」
「貴様ショウグンをどうした!?」
ゲッコウが珍しく怒りに身を震わせている。
俺には、ショウグンがどうなったのか既に分かっているのだが、どう説明していいか分からない。
残酷な結果を告げる事になっちまうが……教えない訳にもいかないだろう。
「ショウグン……あいつは愚かだった。お前たちの為に何一つ情報を吐かなかったよ。思いつく限りの拷問をしてやったんだけどな」
「貴様……! ではやはりショウグンは……」
「ゲッコウ、ゲコ美……気を強く持て。そして落ち着いて聞いてくれ。こいつがもし俺の知ってるキャメリーンと同じような性質を持っているとするなら……」
キャメリーンは食った相手をコピーする能力を持っていた。外見や記憶までも。あの時はプルットの紹介だったジャックスや、ナーリアが幼い頃に世話になったリーシャ達が犠牲になった。本当に質の悪い奴だった。
俺が説明している間、キャメリオは長い舌を振り子のように左右に振りながら、愉快そうに笑っていた。
ゲス野郎め。
「そ、そんな……ではショウグンはこいつに、食べられてしまったというのですか……?」
ゲコ美はピンク色の肌が青くなってしまったんじゃないかというくらいショックを受け、彼女を守るように抱きしめるゲッコウは更に怒りをあらわにした。
「おとなしく従うのならば家臣にしてやっても良かったのだがね、あんなに頑固な奴は初めてだったよ。しかし……まぁいいさ。ほとんど私の目的は果たされている」
そう言ってキャメリオと名乗った魔物は姿勢を低くし、刀の束に手を添える。
「この人数相手に一人でやろうっていうのか? 勝てると思ってるのかお前」
「普通に考えたら勝てないでしょうね。ですが……先ほども言いましたが私はもうやるべき事は終えている。勝つ必要はないのです。負けさえしなければ!」
そう言うとキャメリオが居会抜きのように刀を一閃。
一振りしただけで天守閣の柱が数本切り倒される。
「なっ、ここはお前の城なんだろうが! 自分で破壊してどうする!?」
「うるさい人ですね……そもそも貴方のせいでこの城はもう少ししたら炎に包まれ倒壊するでしょう。ならば拘る必要はない。王さえ生きていれば城などいくらでも作り直せるのだから」
ガラガラと音を立てて天井が崩れてくる。どうやら的確に主柱を叩き切ったようだ。
こいつ剣士としてもなかなかの腕だぞ。
「ま、待て!!」
キャメリオが奥の扉の向こうへ飛び込んでいき、ゲッコウが慌てて追いかける。
あの野郎ゲコ美置いていきやがったな!
俺が落ちてくる瓦礫からゲコ美を守りつつ、メアはヒールニントを守りつつ二人の後を追った。
扉の奥へ行くとさらに一つ階段があり、それを登りきると屋根に直通しており、そこが打ち止めだった。
「あいつらどこへ行った!?」
「おにぃちゃん、あっち!」
メアが指さした場所は、上空だった。
大きな楕円形の風船みたいな物が取り付けられた船。
そこから梯子が垂れていて、キャメリオがぶら下がり、そのさらに下にゲッコウが飛びついていた。
くそっ、チャコを連れて来なかったのは本当に失敗だった。
「メアすまん! 追いかけてくれ!」
「分かってる。皆で行くわよ!」
メアは俺達の手を取りまとめて空へ飛びあがる。
俺も直接ジャンプで十分届く距離ではあったのだが、勢いがつきすぎて船をぶち破る可能性があった。
飛行して追いかけてもらう方が安全だろう。
「まったく面倒な人達だ」
船の部分まで登り切ったキャメリオが、垂らしている縄梯子を切り落とした。
「う、うわあぁぁぁっ!!」
「フロザエモン様ぁぁぁぁ!!」
梯子と一緒にゲッコウが落ちていくのを間一髪でゲコ美が手を伸ばしキャッチするも、落下してくる人を片手で掴むなんて一般人の握力、腕力では無理だ。
ゲコ美もある意味魔物の一種なのだろうからなんとか受け止めたはいいものの、力が足りずにずるりとぬるりとゲッコウがずり落ちていく。
「ゲッコウ! ちょっと無茶するからなんとかしろよ!」
「か、かしこまりやした!」
俺は右手をメア、左手をゲコ美に繋いでいたので、ゲッコウごと思い切りゲコ美を上空へ向け投げ飛ばす。
「きゃぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「ゲコ美さん! あっしに掴まって下せえ!」
上空でゲッコウがゲコ美を抱きしめたのを確認して、二人が落下してくるのを俺が再び左手で受け止める。
勢いがついた二人分の体重っていうのはなかなかの衝撃だったが俺なら問題なく受け止められる。
「よしメア! このままあの飛行船の中へ行ってくれ!」
「分かった! ちょっとスピード上げるわよ!」
ぎゅんっと加速し、あっという間に船体に隣接した。
ちょっとどころじゃなくスピード上がってんじゃねぇか。
大きな風船の下は海へ出るような普通の船の形をしていたので甲板へ上がり込み、一息ついた。
「キャメリオはもう目的を果たしたと言っていたが何か心当たりはあるか?」
このタイミングしかないと思って気になっていた事を聞いてみたところ、思っていたよりも面倒な返事が返ってきた。
「申し訳ありません……! 私、彼がショウグンだと信じてしまっていたので……それで」
「あっしからも謝りますぜ……不覚でした」
つまり、杓子の玉を渡してしまったという事か。
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