魔王様は出そうで出ない。


「……トカゲ? ショウグンは間違いなくあっしらと同じような外見の筈ですし、どうみても同種でしょうや」


「私達は厳密にはカエルではありませんが、同じ種族なのは間違いありません。ショウグンもそうですよ。ほら、見た目一緒でしょう?」



 ゲッコウもゲコ美もヒールニントが言った言葉を不思議がっている。


 確かにショウグンはどう見てもカエルなんだが……。

 こいつのどこをどうみたらトカゲに見えるんだ……?


「そうよヒールニント、どっからどう見てもカエルさんのお仲間でしょ?」


 メアの言葉にもヒールニントは首を傾げたままで、目を細めてショウグンの顔をじっと見つめた。


「えぇー? でも全然違いますよ? カエルさん達はこう、顔もツルっとヌメっとした感じじゃないですか」


 ツルっとはともかくヌメっとは表現としてまずいのでは? 言いたい事はとてもよく分かるけれども。


「でもショウグンさんはどうみてもザラザラで硬そうな皮膚ですよね。カエルさん達に比べたら顔も細長いし、私にはどうしたら同じ種族に見えるか分からないんですけど」


 ゲッコウは少しの間、ヒールニントの言葉の

 意味を咀嚼するようにゲコッと一鳴きして、次の瞬間ゲコ美を抱きかかえてその場から飛びのいた。


 そしてショウグンが振り抜いた刀が空を切る。



「……ふむ、どうやらやっかいな相手が混ざっていたようだ。せっかくうまくいっていたというのに面倒な事を……」


 ショウグンは空振りした刀を、やれやれと肩を竦めながら再び鞘へ納める。


「しょ、ショウグン!? いったいどうされたんですか!?」


「ふむ、姫はまだ気付いていないか……フロザエモン、今からでも遅くないぞ、私に従え」


「いきなり切りつけておいてそりゃあないでしょうや。もし、そんな事をしなければあっしはショウグンの事を信じる事ができたかもしれやせん」


 えっと……これはどういう状況なの?

 結局こいつはショウグンなの? 違うの?


 やばい。もしかして俺が一番状況についていけてないかも。


 いや、まだメアもゲコ美も分って無い筈だ。頼む誰か説明して。


「……なるほどね、大体分かったわ。どうりで知ってるような臭いがすると思ったわ。貴方……臭いのよ」


 あ、まずい。メアはなんか知らんが把握してしまったらしい。


 あと俺とゲコ美だけじゃん。


「貴方は……いったい誰なのですか? どうして私達しか知らない事まで……やはり私に刺客を送ってきたのは貴方なのですか?」


「姫、何を言っておられる。私は私、ショウグンに他なりません」


 やっぱりショウグンなの?


「そんなはずありません! 貴方はショウグンでは無い……」


 どっちだよ!


 ……いや、どっちでもいいや。とにかく敵って事ははっきりした訳だしぶっ殺せば解決だろ。

 事情は後で分かってる奴に聞けばいいか。


「観念したらどうだ? もうネタは割れてるんだぜ。いい加減正体を現したらどうだ」


『主……我はなんだか少し恥ずかしいです』


「うるっせぇ! 少し黙ってろ!」


 小声でメディファスにそう言ってやった。邪魔すんじゃねぇ。


 メディファスの奴は俺の心を読んでるから完全にハッタリかましてるのがこいつにはバレバレである。


「ふふ……さすが鬼神セスティと言ったところか……いや、今の肩書は魔王、だったかな?」



「お前……俺の事を知ってるのか?」


「それはもうよく存じておりますよ。貴方は有名ですしね……それに、私の兄が貴方に世話になったようですから」


 ……なんだと? 今こいつなんて言った?


 私の兄? 俺はこいつの兄に会った事があるというのか?


 みんなの視線が俺に集まる。

 待ってくれ、まだちゃんと把握してないんだってば!


『主……知ったかぶりをするからそういう事になるのです』


「うるせぇ黙ってろ! それともお前には分かってるのかよ」


「何をぶつぶつ言ってるのです? 兄の仇とこんな所で出会えるとは思いませんでしたよ」



 兄の仇だぁ?

 あれ、ちょっと待てよ。

 今なんだか分かりそう。こいつもしかして……。


『残念ながら主は分っていないようなので我が説明致しましょう』


「待てメディファス、分ったから! もうちょっとで出てくるから! ほら、こいつはアレだ、あいつ!」


 なんだっけ!? 絶対知ってる。こういう事が出来る奴に心当たりがある筈なんだよ!


 えーっと、うーん、あれ、みんなの俺を見る視線が冷ややかになってきてる!?


「待て、ほんともうちょっとだから!」


『以前も他人に成りすました魔物が居たでしょう? 確か名前はキャメ……』


「わーっ! わーっ! もう分かってるから! キャメリーンだキャメリーン! ……えっ、キャメリーンだと!?」


 メディファスの言葉に反応して答えを導き出したは良い物の、なんでこんな所でキャメリーンの話が出てくるんだ!?


「お前キャメリーンの弟なのか!?」


 ゲッコウとゲコ美はじりじりと奴から距離を取り、警戒態勢を取る。


「ヒールニント、ちょっと下がっててね。あいつ……やっぱり元魔王軍の奴よ」


 メアもヒールニントを守るように一歩前で出た。


「お前、はぐれか?」


「はぐれ……? それはお前らが決めた基準の話しだろう。私からしたらお前に従う魔物共の方が魔物としての自覚を失っている」


「うっさいわね。元魔王も現魔王も居るんだからそれに歯向かうって事は分かってるわね?」



 キャメリーンの弟を名乗るはぐれ魔物はその姿をでろりと変質させ、にやりと笑った。

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