魔王様のメンタルケア術。


 余計な事に時間を使ってしまったので急いで滑り台と化した階段の上までぴょーんと飛び上がる。

 律儀に階段なんて踏みしめてたからこんな事になったんだけど、階段があったらそれをちゃんと登ろうと思うのが人の性ってやつだと思う。


 後ろからヒールニントを脇に抱えたメアがふわりと飛行して追いかけてきた。

 飛べるってのはほんと便利だなぁ。

 俺もその辺の魔法をきちんと習っておけばよかった。

 チャコが居るから別にいいけど。


「で、カエルさんはどっちに行ったのかしら?」



 上のフロアは廊下が二手に別れていて、その奥にそれぞれ広間のような場所があるようだ。



「メディファス、足跡の分析たのむぞ」


『わ、わかりました……』


 ……? なんだかメディファスの様子がおかしい。


「どうした? 何か問題でもあったのか?」


『い、いえ! なんでもありません! 我は何もミスなどしておりませんので!』


 ……なんだこいつ。

 急にどうしたっていうんだ?


「……あ、なるほどな」


『主! ゲッコウ達は左側の通路を通っていったようです! 急ぎましょう!』


「待てメディファス。お前罠はきっちり調べてくれるって言ってたよな?」


『先を急がなくていいんですか!?』


「こんにゃろう……覚えてやがれ」


 任せろと自分で言ったくせに階段の罠を見破れなかった。

 それを気にしているんだろうし、確かにこれは話が違うぞこの野郎。


『戦いの後でしたし妙な事に使われそうになって我も気が動転していたのです……』


「まぁいい。次は頼むぜ」


『かしこまりまし……』


 バカッ。


「メディファスてめぇぇぇぇっ!!」

『申し訳ぇぇぇぇぇっ!!』


 ばっこりと俺の足元の床が開いて、視界が揺れる。

 間違いなく落ちる。下にはまたトゲトゲが……。


「……あれ?」


「何やってるのよもう……」


 俺はトゲトゲの上に落ちる寸前で、メアに腕を掴まれ、宙吊り状態になっていた。


「お、おぉ……助かったよ」


「こんな所に落ちたって別に死にはしないでしょ?」


「死ななくたって痛いじゃんかよ。それもこれもメディファスのせいだからな?」


『……終わった』


「ちょっと、おにぃちゃんの剣ってば人生諦めちゃってるけどいいの?」


『我は役立たず我は役立たず我は役立たず……』


「おいメディファス。俺が相棒を簡単に見捨てる訳ねぇだろ。相棒なら相棒らしくしっかりしやがれ」


『主……!』


 まったく、どうして俺がアーティファクトのメンタルケアまでしなきゃならねぇんだよ。


『……あ、主?』


「今回は不問だ! とにかくいい仕事しろ! 以上!!」


『我は未だかつてない程にやる気に満ち溢れております!』


 メディファスのやる気満ち溢れ宣言を軽くスルーしながらメアに引き上げてもらい、先を急ぐ。


 道中きっちり仕事をするメディファスの指摘で罠を幾つか回避しつつ、階段を二つ程上がった所でどうやら天守閣とやらに到着したようだった。


「おや……そちらの者達は二人の知り合いかな?」


 俺達が天守閣に踏み入ると、そこにはゲッコウ、ゲコ美、そして知らないカエルが居た。


「ええ、あの人達はあっしの戦友でさぁ」


 ゲッコウが警戒心を見せていない所をみるとあいつが……。


「ゲッコウ、ゲコ美、こっちへ来い。ゆっくりだ」


「いったいどうしたのですか? 怖い顔をして……」


 ゲコ美が不思議そうに問いかけてくるが、俺は今確信した。


 こいつはショウグン……ではない。


「二人とも早くこっちへ来い。そいつはショウグンなんかじゃねぇぞ!」


「な、何を言うんです。あっしが間違える訳がねぇ。この人は間違いなくショウグンでさぁ」


「そうですよ。私達以外知らない事をちゃんと知ってますし、別人のなりすましなんてあり得ません」


 ……どういう事だ?

 ゲッコウとゲコ美はあいつがショウグンだと疑っていない。それだけの理由があるという事だろうが……。


 それだとおかしい。


「フロザエモン、あの者は……一体何を言っておるのだ? 不敬であろう」


 ショウグンはぎょろりとした目玉を細め、俺を睨む。


「……あんたに聞きたい事がある。ここに居る筈のフクヒルのダイミョウって奴はどうした?」


「セスティ様、それなら既にショウグンが討って下さったのです」


 ……へぇ。

 既にショウグンがダイミョウを殺した、という筋書きにしたい訳だ。


「俺がここで働いてる奴等から聞き出した情報によるとだな、ショウグンってのは……【新しいフクヒルのダイミョウ】らしいぜ」


 ゲッコウとゲコ美は目を丸くして俺の顔を凝視している。

 驚いただろう? だからそいつはショウグンなんかじゃねぇ。


 もしくは、万が一本人だったとしても、だ。

 既にお前らが考えてるような奴じゃあねぇんだよ。


「分かったら早くこちらへ下がれ!」


「なんだ、そんな事ですかい」

「それならもう私達も説明を受けました」


「……えっ?」


 あれ? 俺なんか勘違いしてる?

 ちょっと恥ずかしくなってきたじゃんかよ!


「どういう事か説明してもらおうか」


「ならば私からお主にも分かるように説明しよう。私はフクヒルにてダイミョウを討ち、新たな統治者として君臨したのである。しかしベアモトの復興が我が使命。それ故にこちらへ来たという訳だ。納得頂けたかな?」


「……な、なるほど?」


 あっれー。城結構破壊してるけど平気かこれ。今も下の方燃えてるよな……?


「話しは纏まったのかしら? 結局ここには敵はいないって事でいいの?」


 メアがため息をつきながらそんな言葉を吐き出す。

 こいつは暴れられると思ってたようだからこの展開が残念なんだろう。


「良かったじゃないですかメアさん。争いは無い方がいいに決まってますよ。それにしてもショウグンさんって人はカエルじゃなくてトカゲだったんですね。驚きました」


 ヒールニントの言葉に、この場に居た全員が凍り付いた。

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