魔王様と滑り台はぷにんぐ。
「……こ、これは一体どうした事で……?」
メアが泣き喚くレイファンとかいう男をげしげしと蹴って更に泣かしてる所に、ゲッコウ達が現れた。
「あらカエルさん。こいつ覚えてる? 賭け試合やってた時の……」
「おや、どっかで見た事ある顔だと思いやしたが……確かにあの時のゲス野郎ですな」
「フロザエモン様、この方はどういう方だったのです?」
ゲコ美が純粋に興味本位と言った感じでゲッコウに質問し、彼は言葉に詰まってしまった。
「あのね、ゲコ美さん聞いて! こいつってばロンシャンでね、女の子を……」
「わーっ! わーっ!!」
「何よカエルさん急に叫び出して……」
ゲッコウの気持ちはとてもよく分かるので俺はメアを止め、ゲコ美に適当な事を言ってごまかす事にした。
「メア、言わなくていい事ってのもあるんだよ。それとゲコ美に簡単に説明するとだ、こいつは男じゃなく女だけを狙って戦いを挑むような卑怯な奴だったらしい」
「ぶーっ!」
「そうなんですか? でもメアさんのように強い女性もいらっしゃいますよね」
俺の言葉にぶーたれていたメアがゲコ美の声を聞いてパァっと表情を明るくした。
「そうなの! だから私はこいつを男として再起不能にしてやったのよ!」
「男として、ですか?」
「ゲコ美さん! こんな奴の事はいいんでさぁ。それより、随分と大立ち回りをしていたようですがもうダイミョウの所へ向かって平気って事ですかい?」
ゲコ美は不思議そうにゲッコウの顔を眺めていたが、今は自分たちのやるべき事を優先する事にしたようだ。
「ショウグン様はやはり……?」
「それについては一応情報を仕入れたはいいけど、実際どこまで本当なのかっていうのが微妙な所なんだよな。少なくともダイミョウの所まで行けばはっきりするからよ」
俺達が今後の事についてそんな話をしている時、ゆっくりと地面を這いつくばってレイファンが少しずつ窓の方へ近づいていたようだ。
「あ、ちょっと! 何逃げようとしてるのよ!」
メアはその動きにいち早く気付き、飛び掛かろうとしたけれど俺はそれを止めた。
「ちょっとおにぃちゃんそこどいて! そいつ殺せない!」
「ひぃぃぃぃっ!! お、お助けぇぇぇっ!」
レイファンは窓から転がり出るように飛び出ていった。
外でがらんがらんとけたたましい音が聞こえてきたので、おそらく慌てて飛び出したせいでバランス取れずに屋根を転がり落ちたんだろう。
死んでるかもしれんなぁこれは。
「ちぇっ。どうせだったら私がぶっ殺してあげたかったのに」
なんでこいつこんなにあの男に殺意剥き出しなんだろう。前に何かされたのか?
「まぁいいわ。この鬱憤はきっちりよそに八つ当たりしてスッキリする事にするわね」
その八つ当たりをされる方も可哀想だけれど、それが向かう先が味方とか俺とかじゃなくて敵だったら全然かまわん。やってしまえ。
俺達は改めてフロアの奥まで進み、レイファンが最初に出て来た扉の向こう側まで行くと、さらに上の階へ続く階段が現れた。
風呂で女性達が言っていた事が本当だったとしたら……。
問題はそれをこいつらにいつ言うかだ。
ショウグンが本当に掴まってもう死んでるとかだったら話は早いんだけど、事態はそう簡単な問題でもなさそうだった。
がこんっ!
「へぶっ!」
もうすぐ階段を上り切ろうかという所で急に階段の段差が消えた。
俺は踏み出した足が空を切り、突然滑り台のようになった階段だった物に顔面を打ち付け一番下まで勢いよく落下してしまう。
「いったたた……」
どうやら突然の事で反応出来ず、落ちたのは俺だけじゃなかったみたいだけど……。
何故か地面が柔らかかったが、それより頭上からゲッコウの声がした。あいつは落ちなかったのかよちょっと悔しい。
「大丈夫ですかい?」
振り向くように階段の方を見上げると滑り台状になった階段に刀を突きさし、ゲッコウは落下を逃れていた。
腕にゲコ美を抱えたまま器用によじ登り、二人が階段の上へ。
「今は時間が惜しいんで先に行きやすぜ!」
待て、と言う前にゲッコウ達が姿を消した。
俺達も急いで追わないと……!
「おにぃちゃん」
「メア、ヒールニント、無事か!?」
「えっと、私は大丈夫です。ちょっと摩擦で熱かったですけど怪我とかは無いですよ。でも……ちょっと、その……えっと……」
何やらヒールニントがもごもご言ってる。
「おにぃちゃんってば!」
「なんだメア!?」
お前の心配なんてしてねぇんだが。
「早くどいてよ。っていうか鷲掴みにしてるの離してくれる? いくらおにぃちゃんでもぶったたくよ?」
俺はゲッコウ達が消えた階段の上ばかり気にしていたが、メアを下敷きにしてしまっていたらしく、上を振り向く際に何かアレな部分を鷲掴みにしていた。
「うわぁぁぁぁっ!!」
慌てて飛びのく。勢いで柱に頭をぶつけて痛かった。
メアとこういうのはよくない! 絶対よくない!
そもそもそれは元々俺の身体なわけで、こんなふうにドキドキする事自体が間違ってるんだけども!
「おにぃちゃんさ……別に気にしてないからいいけど人の胸鷲掴みにしておいてうわぁぁって何? 結構傷付くんだけど……」
『愚民はド平民でド変態でしたのね……わたくしの体そんな奴に使われてかわいそう……』
ロザリアの静かな憐れみと罵倒の言葉を無視して俺は今起きた事を記憶から抹消した。
抹消したったら抹消した。
「と、とにかく! 俺達も早くゲッコウ達を追うぞ!」
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