魔王様と複雑な奴等。


「ヒールニント……もしかして知ってたの?」



「え? 私とロザリアさんが姉妹って話ですか? 知りませんよ今初耳です」


 その割には平然と受け入れすぎじゃないのか? この子の精神力どうなってんの?


「だってロザリアさんはローゼリアのお姫様ですよね? で、私ってローゼリアの教会とかに捨てられてたらしいんで、ロザリアさんが言うならそういう可能性もあるのかなー? って」


「お前……自分と母親の関係について知ってたのか?」


 ヒールニントは少し寂しそうに笑いながら頷いた。


「だって似てないんですもん。本当の親子じゃないんだろうなっていうのはなんとなく気付いてました。ロンザやコーべニアは気を使って私に何も言いませんでしたけど、村人の中には酷い事いう人もいましたから」


 迫害、だったのかどうかは分からないが、心無い人々から聞かされていたのかもしれない。

 お前は教会に捨てられていたんだ、と。


「でも私の母親はお母さん一人だけですから。産みの親が誰であれ、私には関係ないです」


「そうよね! 親って、本人同士が家族だと思ってればいいのよね!」


 何故かメアが激しく同意してヒールニントの手を取りぶんぶん振った。


 自分がうちのおふくろの事を母親だと言っているのを肯定してもらえた気分だったんだろう。


『へぇ、どうかんがえてもわたくしの方が姉ですけれども、血の繋がりがあるというのであればわたくしは貴女の事を認めてあげましてよ。勿論、貴女の母親も』


「お母さんも、ですか?」


『それはそうよ。わたくしの妹を保護してきちんと育てて下さったのですからその方は立派な母親ですわ』


 ロザリアの言葉にヒールニントは突然噴き出すような涙を流した。


「ちょっ、ヒールニント、大丈夫!?」


「だ、だいじょうぶれす……おかあさんが、褒められて、うれしくって……」


 彼女は村人から迫害を受け続けていたようだし、母親も随分酷い目にあって来たんだろう。



『泣くような事ではありませんわ。貴女はこのわたくしの誇らしい妹であると同時に、素晴らしい母親の娘というだけの事』


「ロザリアさん……ありがどうございばず」


「むーっ」


 そこで何故メアがむくれるのかが分からん。ロザリアとヒールニントが仲良くなるのが気に入らないのだろうか。


『あはははっ♪ メアの感情が手に取るように分かるわ。この子わたくしに嫉妬してるの? 可愛いところもあったものね!』


「私は貴女に嫉妬してばっかりよ? 全てが羨ましかったんだもの」


『……そうね、だからこそわたくしから全てを奪ったんですものね』


 一気にこの場の空気が凍り付いた。


「あのっ!」


 ヒールニントがいきなり大きな声を出すので全員がビクっと小さく跳ねる。


「どうしたの? 急に大きな声だすから驚いたじゃない」

『驚かせるんじゃないわよ。で、何かしら?』



「二人の間にいろんな事があったのはなんとなくわかるんですけど、メアさんは私の親友なんです。そしてロザリアさんは私のいも……えっと、お姉ちゃんなんです。だから、その……」


 こいつ空気読んでちゃんとロザリアの事を姉として認めてやったのか。偉いぞ。


「分かってるわよ」

『はぁ……この子と一緒に居たなら貴女が丸くなった理由も分る気がするわ』


「えっ、えっ? その、だからですね、喧嘩はやめて……」


「喧嘩なんて」

『してないわよ』


「あ、あれー?」


 俺はなんだかこの二人……いや、三人か。

 こいつらを見ていて、ヒールニントさえいればうまくやって行けそうだなと感じていた。


『別にわたくしは過ぎた事をごちゃごちゃ言う気はありませんわ。私の気は済んだんですもの。でも許しはしません。だから今後定期的にちくちくと精神攻撃をしてやろうと思ってるだけですわ』


「え、えっと……」


 ヒールニントがかなり困った様子で、俺の方に視線を送り助けを求めてきた。


「こいつらの関係は他の人が入っていいような問題じゃないし、当人達でうまく解決するから笑って眺めてりゃいいんだよ。ヒールニントはいつも通りこいつのそばにいてくれればそれだけで面倒な事にはならないから」


「そ、そういうものなんですか?」


 ヒールニントが困惑したように首を傾げこめかみに人差し指を当てる。


『まったく、可愛らしい妹ね』

「でしょ? ほんとに可愛い妹なのよ」


『わたくしの、妹ですわよ?』

「貴女の中で私は生まれたんだから私の妹でもあるでしょう?」


『それじゃメアまで私の妹になってしまいますわよ』

「あ、そうなの? じゃあロザリアおねぇちゃんって呼ぼうかしら?」


『やめなさい』

「私も嫌よ。でもヒールニントは二人の妹って事でいいわよね?」



『ええ。じゃあ、守らないとですわね』

「勿論よ♪」


 ……メアとロザリアの会話を聞いてるヒールニントは目を丸くしてあわあわと視線を泳がせている。


 知らんうちに妹だの姉だのが増える感覚を分かってもらえただろうか。

 どうしていいかわかんねぇんだよこういう時はさ。


「というかだ、なんでこのタイミングでメアがこの話をし出したのかは分からんが、俺からも礼を言わせてくれ。あの時はおふくろを助けてくれてありがとう」


「やめてくださいっ! 私もその時の事覚えてないので……そんなふうに言われても実感がわかないですよ」


 お互い何も覚えていない所で繋がりがあった訳か。


 そしてメアとロザリア、そしてその二人とヒールニント、俺とヒールニント、ここに居る者は皆過去で繋がっている。


 その関係は当時とは違い、悪化している事も、元に戻らない物もあるだろうけれど、ここに揃っているのだから新しく未来を作って行く事が出来る筈だ。


 その為にもアルプトラウムはどうにかしないといけない。

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