魔王様と入り組んだ人間関係。


「よし……じゃあ三組に分かれて捜索開始だ。それとメア、くれぐれも確認が取れるまでは暴れるなよ? もし誰かに見つかるような事があったら……」


「分かってるっておにぃちゃん。静かに騒ぐことなくそいつを速やかにぶっころでいいんでしょ?」


 ……にっこり笑いながらそんなふうに答える新しい妹がとっても不安なのですよお兄ちゃんは。


「じゃあいきやしょう! あっしらはあっちから調べていきやすんで宜しくお願いしやす」



 ゲッコウが俺達に一礼して、ゲコ美を連れこの場を後にした。


「メアさん、ご迷惑をおかけしますけど……守って下さいね♪」


「何言ってるのよ。当たり前でしょ? 馬鹿ね」


「あー、馬鹿って言った方が馬鹿なんですよ?」


「そんな常識私は知らないわよ」


 おい、お前らこの状況でイチャつくんじゃねぇよ。


「おい、俺達もそろそろ……」


「あ、そう言えばさ、おにぃちゃんってヒールニントと会った事あるんだってね」


 ……何を言い出したんだこいつ。


「そりゃ会った事あるさ。彼女が自分から王国を訪ねて……」


「違う違う。もっともっと昔。ヒールニントもおにぃちゃんも小さな子供だった頃だよ」


 ……もっと子供? 俺がリュミアと旅をしている頃か? いや、それはさすがに子供とは言えないだろ。


「メアさん、その話は……」


 なんだかヒールニントが少し恥ずかしそうに俯いてしまった。

 待てよ、俺何かしたのか? 過去の自分にまったく自信がもてない。


「あのね、昔ヒールニントの事可愛がってくれたんでしょう?」


「すいませんでしたぁぁぁぁっ!!」


 俺は何も覚えてないけどなんだかとんでも無い事をやらかしてしまったのかもしれない。

 とにかく謝罪をしないと……!!


「ちょっと大声出さないでよ! 気付かれたらどうするの!?」


「ち、違うんですっ! メアさん、もっとちゃんと説明してあげて下さいっ!」


「ど、どういう事だ……?」


 俺が記憶の無い時、例えば酒飲んだ時とか、そういう時に何か乱暴をしたとかそういう話ではないらしい。


「えっと、なんだっけ? キャンディママとあの変態親父と一緒に旅行した事覚えてる?」



 ……旅行? いつの話だそれは。

 まだおふくろと親父が一緒に居るって事はショコラも一緒だろう。

 家族みんなで旅行……?


「……あっ、確かに旅行した事あるな。いまいちどこに行ったか覚えてないが……あの時、なんだっけな? 大変だったって事は覚えてるんだが……」


「キャンディママが魔物から毒をうけちゃったんでしょ?」


 ……俺の頭の中でいろんな記憶がフラッシュバックした。

 確かにそんな事があった気がする。

 子供のころだからほとんど覚えてないけど、家族でどこかに出かけて、おふくろが具合悪くなって……それから……。


「えっと……あの時、どっかの村によって、誰かがおふくろを治療してくれたんだっけ……? いまいち記憶が……」


「その時小さい女の子居たの覚えてる?」


 小さな女の子……? メアは俺の様子を見てニコニコというよりニヤニヤ笑ってる。


 なんでこいつがそんな事知ってるのかと思ったが、多分おふくろに聞いたんだろうなぁ。


「……女の子、女の子……俺はほとんど覚えてないが、確かにその村で誰かと遊んだ覚えはあるな……」


「そう、それがヒールニント。ついでにいうとキャンディママを助けたのもヒールニントよ」


「えっ? ……そう、なの?」


 ヒールニントの方をちらりと見ると、恥ずかしそうに「そうらしいです」と呟いた。


 確かに毒程度だったらヒールニントの力で簡単に治療できるだろう。

 しかしそんな幼い頃からその力が発現していたのか?


 俺はデュクシの記憶を再生した時の事を思い出した。


 確かヒールニントの力は……神、つまり星降りの民の力だ。

 俺が今使っている体の元の持ち主、つまりロザリアとヒールニントはアルプトラウムの子孫であり、その資質を色濃く受け継いでいる。



 ロザリアは魔力という形で、ヒールニントは回復方面に特化した形で。

 どちらも人並み外れた力を所有していた。


 そのヒールニントに、俺は昔会った事があり、そしておふくろの命を助けてもらった事がある……。


 因果な物である。


 俺達が倒さなければならないアルプトラウムが、巡り巡って俺のおふくろの命を守った事になる。


 別に助けてくれたのはヒールニントで、彼女が偶然あいつの血を引いていただけであってアルプトラウムが良い事をした訳じゃねぇんだけど、なんだか複雑な気持ちになった。


 俺のこの体とヒールニントはある意味姉妹関係にあたるのだろうが、それは彼女に言う訳にはいかない。

 その話をしたら何故知っているのかと追及されてしまうし、デュクシの記憶に関してはこの子に伝えるべきではない。


『なるほどね、そうだったんですの。じゃあヒールニントさんはわたくしの妹って事になるんですのね』


 開いた口が塞がらなかった。突然ロザリアが爆弾をぶっこんできた。


「ちょっとロザリア! その件は……!」


『あら? 言っちゃダメな事だったかしら? ごめんあそばせ?』


「いやいや、私が妹ってのは確定なんですか? もしかしたら私の方がお姉ちゃんかもしれませんよ?」


 ……今なんて?

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