魔王様とカエル風呂。
「さて…陽もそろそろ暮れてきたな。お前ら準備はいいか?」
見渡すと、全員が無言で頷く。
「確認するぞ、ゲコ美はゲッコウに、ヒールニントはメアにしっかりついて行く事。きっちり守れよ」
再び皆が無言で頷く。
「じゃあゲッコウ組、メア組、それと俺で別れて潜入するぞ。まず最優先はショウグンって奴の安否確認だ。もし見つけたらすぐに助け出す事。そして……救出、もしくは既に死亡が確認できた場合はもう何も考えずに大暴れしていい。他の組にそれが伝わるくらい暴れろ」
誰かが暴れ出したら、それを救出、もしくは死亡確認の合図として合流を目指す。
「明らかに他の奴が暴れてるのに気付いたら各自頂上を目指そう」
「おそらくショウグンが居るとしたら地下牢、ダイミョウが居るのは最上階の天守閣になるでしょうや」
カエルが補足してくれたように、牢屋は大抵地下にあり、偉い奴は大抵一番上にいるものである。
今回もそのお約束が通用するとも限らないが、大抵の場合そうだと相場が決まっているものらしい。
「じゃあメア、頼むぞ」
「分かった。でも行った事無い場所だからまずは上空から様子を見るわよ」
そう言ってメアは俺達の手を取り、転移魔法を展開。
俺達は瞬時にゲコゲコランドの上空へと移動する。
眼下に見えるのは終始強く光るライトに照らされたベアモト城、そして、それを中心に広がる城下町。
城下町の中には至る所に川が流れており、その周囲には木が沢山植えられていて暗がりの中でもとても綺麗だった。
ゲッコウが言うにはほぼ当時の状態に回復しているとの事だが、夜だからか人の気配はほとんど感じない。
それが寝静まっているだけなのか、住人が戻ってきていないのかは分からない。
しかし、ダイミョウは何が目的でゲコゲコランドをここまで復興させているのだろう?
このままこの地を統治する為なのだろうが、それならここに住人がいたとしてそれはほとんどフクヒルからの移住民かもしれないな。
「カエルさん、警備に気付かれず侵入するとしたらどこ?」
「そうですなぁ……もしあっしらが居た時のベアモト城であるなら城の裏手、お堀の壁……水面の少し上あたりに小さな扉がありやした。もしその作りをそのまま修復しているのであればそこが一番でしょうが、敵もそれは分っているでしょうや」
「それでも正面から行くよりはマシよね?」
「……もう一つ入り口があります。少し面倒な場所ですが、そこなら当時のまま残っているでしょうし敵に知られていない可能性もあります」
ゲコ美が静かに呟く。少し声が震えている気がするが、チラっと見たところ下を見てゲッコウにしがみ付いているようなので高いところが苦手なのかもしれない。
「分かった。それはどこ? そっちにしましょう」
「さきほどフロザエモン様が言った入り口の下、水の中です。今はどうなっているか分かりませんが以前城の中にも小さな水場がありまして、そこに繋がる横穴があるんです。でも私達は水の中でも大丈夫ですが貴方がたは……」
「水の中……問題無いわ。空気の膜を作って濡れないようにするし呼吸も出来るから」
すげぇなそんな魔法もあるのか。
こいつがローゼリアで古代の魔導書から得た知識の一つだろうか?
その当時のメアは全てに復讐する為にそれらを覚えたのだろうが、それが今何かを守るために使われている。
「何笑ってるのよ」
「いや、なんでもねぇよ。それより……行くならそろそろ行こうぜ」
「言われなくても。じゃあまずは城の裏手の堀まで行きましょう」
再び転移し、城の裏手に出る。ゆっくりと高度を下げ、お堀の中へ降りていくとゲッコウが言っていた扉を見つけた。
「ここからそのまま水の中へ入って下さい」
ゲコ美の案内に従い、メアが俺達を空気の膜で包み込んでゆっくり水の中へ沈んでいく。
水に足から浸かっていくのに冷たくも無いし普通に呼吸も出来るのが不思議だ。
「酸素はさほどもたないから急ぎましょう。どのあたり?」
「そのまま底まで行って下さい。……そう、そこです。ここから壁の方に……あの穴を通って中に行きましょう」
ゲコ美の言う通り堀の壁に穴が開いていて、そこから城内へ通じているようだった。
そう言えばゲッコウは魔王軍から偶然こちらへ移ってきたのになんでここの奴等はカエルだったんだろう?
それは偶然なんだろうか? それともゲッコウも元はこっちの出身だったのか?
まぁ今それはどうでもいいか。
そもそも俺はゲッコウとゲコ美しか知らないから他の連中もカエルとは限らないんだけど、一国の姫がカエルの時点で住民もカエルの可能性は高いよな。
「結構奥深いのね……」
「少しスピードを落として下さい。この先二手に分れている場所が……そこです。そこを左に行って、すぐ右手にある鉄格子を外して下さい」
水路を左に曲がると右手に鉄格子が見えて、それは手動の鍵で簡単に外せる仕様だったので開けて奥へ進む。
「後はこのまま進めば城内に出られます」
やがて、水面が近いのか光が見えてきた。
水面にたどり着く前にもう一つ細かい網目の鉄格子があったのでそれも開け、メアが警戒しつつゆっくり水面から顔を出す。
「……誰も居ないみたいね。外に出るわよ」
「……水場っていうのは、そういう事か」
なるほどね。
そこはどう見ても風呂場だった。
「か、勘違いしないで下さいね? いくら私達がカエルのような種族だとしても、水風呂だけで生活してるわけじゃありませんから! ここはそういう専門の部屋というだけで、きちんとしたお風呂もありますからっ!」
何故だかゲコ美が早口でまくし立てる。
俺の考えを見透かされていたのだろうか。
こいつらカエルだし風呂は水風呂でいいんだな。って、そう思ったのだが違ったらしい。
「魔王さん、ゲコ美さんの入浴シーンの妄想はやめてくだせぇよ」
「……しねぇよ」
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