魔王様と出撃準備。


「そりゃどういう意味だ? 敵のダイミョウを騙す為……?」


「へい。奴等に、あっしらが慌ててショウグンを探しているのだと思わせる為でさぁ」


 どういう意味だ。

 その言い方だと実際はショウグンの事を探してなんかいないという事に……。


「あっしの見立てではショウグンは既に殺されているか、もしくは敵の手に落ちて囚われているかのどちらかでしょうや」


「あ? ……そうか、ゲコ美が生きている事、杓子の玉の事をリークしたのがショウグンだと思ってるんだな?」


「私も信じたくはないのですが……私はベアモン爆発の際ショウグンのおかげで命を拾う事が出来ました。その後この場へ連れて来てくれたのも彼です。だから……私が生きている事、杓子の玉を持っている事を知っているのはショウグンだけなのです」


 ゲコゲコランドを復興させたのは純粋に領地を広げたというだけかもしれないが、ゲコ美を狙ってきている以上それだけではなく何かしらの理由があると見ていいだろう。


 それと、杓子の玉について知っている時点でショウグンは既に敵の手に落ちている。


 それが確定事項ならば、ゲッコウ達がショウグンを探していると思わせるのは効果的かもしれない。


 こちらは何も分かっていないという見せかけにもなるし、ショウグンの力をそれだけ頼りにしているとも取れる。


 しかしショウグンが既に敵に落ちているならダイミョウって奴は今頃ほくそ笑んでるだろう。


 いくら探してもショウグンは見つからないのを分かっているから。

 ゲッコウはその余裕の隙を突いて単身忍び込みダイミョウを暗殺する。


 そういう考えだったようだ。


「でも姫さんや姫さん……えっと……セスティさんやメアさんが手伝ってくれるって言うんだったら余計な小細工なんか必要なくなりやしたな」


「私も居るんですけどー」


「ヒールニントさんっていいやしたっけ。勿論感謝してやす。あっしらの為に、ありがとう」


「いえいえ。困ってる人が居たら力になるのは当然ですよ♪」


 なんだかヒールニントとゲッコウはにこにこげこげこな感じでぎゅっと握手。


 背後からそれぞれメアとゲコ美がムッとした顔で見ていたのを俺は気付いてしまって、見ない振りする事にした。


「どうする? 本気でぶっ潰すだけなら俺とメアが今から言ってベアモト城ってやつを吹っ飛ばしてくるけど」


「待って下さい! もしかしたらまだショウグンが囚われているかもしれないので……」


 ああ、まだ生きてると思ってる訳だ。

 その可能性も無い訳じゃないが、生かしておく理由が……いや、そうか。

 逆に考えればダイミョウにとっていい駒になる。万が一ゲッコウが乗り込んできたとしてもショウグンを人質にすれば……。


「分かった。まずはそのショウグンって奴が囚われているかどうか、それとこんな言い方はしたくないが、生きてるかどうか。それを確認して、もし掴まってるようなら助け出す。ぶっ潰すのはそれからって事でいいな?」


「へい。面倒をおかけしやすがお願いしやす。ショウグンはあっしらにとってとても大事な恩人なんでさぁ」


 それを聞き始めるとまた話が長くなりそうだったので突っ込んだ事を聞くのはやめた。


「じゃああくまでも忍び込むのがメインって事でいいな? 決行はいつにする?」


「やはり闇に紛れる事が可能な夜の方がいいでしょうや」


「よし、そうと決まれば今夜にでも乗り込むぞ。そのベアモト城ってのはどこにあるんだ?」


「ここから結構遠いんで陸路ならもう出発しないといけやせん」


 え、マジで言ってんの?


「それなら私が転移で連れて行ってあげるから今夜出発すればいいわ。ヒールニントとゲコ美はここに残していった方がいいのかしら?」


 ……それは俺も考えたけれど、ゲコ美を狙う刺客がいる以上ここは安心とは言えない。


「一緒に行った方がまだマシだな。ヒールニントはメアが、ゲコ美はゲッコウが、きっちり守れよ」


「勿論よ!」

「勿論でさぁ!」


 よし、そうと決まれば夜になり次第ゲコゲコランド潜入作戦開始だぜ!


 結局全員まとめて、非戦闘員を守りながらの戦いを選んだ。

 本来なら王国とか安全圏に一度避難させておくのが一番いいのかもしれないが、本人たちがそれを良しとしないのもあるし、ゲコ美に至っては杓子の玉が必要になるかもしれないし、使えるのは私だけだと言って聞かない。


 使えるのがゲコ美だけ、というのはどういう事なんだろうか?

 王族にしか使えないとか、特定の血筋にしか扱えないような物なのかもしれない。


 その証拠に、機動要塞ベアモンとやらを動かす時、ゲコ美もベアモンの天守閣に居た。


 ただ単に城の主であるベアモトのダイミョウが娘を近くに置いただけかもしれないが、先程のゲコ美の発言も加味して考えると使うには少なくとも一定以上の条件が必要という事になる。


 だとしたら最悪の場合杓子の玉を奪われた、というだけならリカバリーが効く。

 使う為にはゲコ美が必要で、逆に尚更彼女の身の安全が増すという物だ。


 さらわれて拷問でも受けない限り。


 そんな事にならないよう、ゲッコウには頑張ってもらう事にしよう。

 カエルの姫が拷問にあう姿、というのを想像してしまって寒気がしたのはゲッコウには言えない。心の底からそんな事にならないよう願う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る