魔王様とゲコゲコランド


「……わかりやした。全部話しやす。でもここではあれなのでヤシロの中まで来て下せぇ」


 俺達はカエルとゲコ美に案内されてギズモオオヤシロの離れみたいな所にある小さな小屋へ案内された。


「あっちのヤシロの中じゃないのね?」


 メアはヤシロの中に入れると思ってたらしくて少し残念そうだ。


「それは、ヤシロの中は聖域なので一般の方は入れないのです。それに入っても特に何がある訳ではありませんしご了承下さい」


 ゲコ美が俺達に頭を下げ、奥からお茶を入れて戻ってくる。


 それを各自ずずっと啜りながら、カエルの言葉を待った。


「あっしが昔魔王軍に居た事は知ってやすよね?」


「ああ、めりにゃんの親父さんの代だったか? その前だったか……よく覚えてねぇけどな」


「それはいいんでさぁ。問題はあっしが魔王軍を抜けてニポポンへ来てから始まりやす」


 カエルの話は、なんというか……どこまで本気で話してるのか分からないような物語だったが、隣で涙を流しているゲコ美を見る限り本当の話しなのだろう。


 簡単に説明するとこうだ。


 魔王軍から離れ一人放浪の旅をしていたゲッコウはやがてニポポンへ流れ着き、この地で黒いフードを目深にかぶった流れの暗殺者として活動を始める。

 この地では当時各地にダイミョウと呼ばれる人物が居て、それぞれが軍を率いて国の支配権をかけて争っていた。


 そんな折、ゲッコウはフクヒルという地区のダイミョウに雇われてベアモト城の姫を暗殺する事に。


 ちなみにだが、ベアモト城とその城下町などをひっくるめてゲコゲコランドという名前だそうだ。


 彼はベアモト城への侵入作戦の途中、不注意で大怪我を負ってしまう。

 城の周りにある堀に落下し、死を覚悟した。

 気を失ってしまい、気が付いた時にはゲコゲコランド内にあるボロボロの小屋の中で、手当されていた。

 その時手当してくれたのがゲコ美だったらしい。


 傷は深かったが、ゲコ美の献身的な介護により三か月程で完治した。

 そして、ある晩体の具合を確かめながら、三か月越しの暗殺を再開する為小屋を出る。

 ゲコ美はベアモト城で働いているようだったので、城の内部構造などを会話の中で聞き出していた。

 その甲斐あってターゲットである姫の寝室まで到達し、薄いカーテン越しにうっすら見える姫に刀を突き刺そうとしたその時、姫から声をかけられた。


 しかも、それは毎日のように聞いた声だった。

 彼を助け、毎日献身的な介護をしていた女性こそ、ゲコ美であり、本来の名をゲコリーヌ姫という。

 姫は全てを知っていたが、どうしても見捨てる事が出来ずに治療をしたのだそうだ。本来は簡単な治療をしてすぐに追い出す予定だったらしいが、一緒に居るにつれお互い憎からず思いあう仲になってしまった。

 ゲッコウの傷が治ってしまうまでの短いラブロマンスというやつだったらしい。


 ここまで話を聞いてメアは早く続きを教えて! と大興奮。ヒールニントは目にうっすら涙を溜めていた。


 そこから先だが……。


 ゲッコウはどうしても姫を殺す事が出来ず、仕事を達成できないという情けなさから自害を図るが、それを姫が止めた。

「貴方はあの日死んだのです。今ここに居るのは私の想い人……どうか、死なないで下さい」

 そんな事を言われて、コロっとやられてしまったのだそうだ。

 ゲコ美はその話の途中顔を真っ赤にしてそわそわしていた。


 結局ゲッコウはフクヒルを裏切り、ベアモト城の、姫の護衛として仕える事になる。

 勿論得体のしれない者を、という反対もあったらしいが姫たっての望みだったのでそのまま採用された。

 そして、なによりゲッコウは腕が立ったので次第に文句をいう奴もいなくなったそうだ。


 そんな日々を数年続け、カエルは周りからも認められるようになり、フクショウグンという役職に就いたらしい。ショウグンとは違うの?


 そしてある日、フクヒルから新たな暗殺者が数人やって来る。

 ベアモトお抱えの魔術師が城全域に侵入者感知の魔術を仕掛けておいた為それがすぐに分かった。

 おそらくゲッコウが侵入した時もそれでバレてしまったのだろう。

 二度目の侵入は、ゲコゲコランドの敷地内から、だったので外部からの侵入者、とは分からなかったのかもしれない。。


 とにかく、ゲッコウはその侵入者を切り捨てる。その際、刺客の一人がどこかに隠れてその様子を見ていたらしく、ゲッコウの裏切りがフクヒルのダイミョウにバレてしまった。


 結果、激怒したフクヒルのダイミョウはゲッコウとゲコ姫を殺害する為に大規模な暗殺部隊を用意し、ある日の夜、戦が始まった。


 いくら侵入者を感知できようともその人数が膨大で、しかもすべてが手練れともなれば対処のしようもない。

 ベアモト城はすでに陥落寸前だった。


 そしてベアモトのダイミョウは最終防衛手段として、機動要塞ベアモンを起動させる。


 突っ込みどころはここなのだがとにかくまずは話を纏める。


 機動要塞ベアモンというのは城の一部が変形し巨大なカラクリになるという物らしい。

 勿論ロンシャンの巨大魔導兵装と比べたら玩具みたいな物だろう。なにせ人力で大量の人々が中で歯車を回し続ける事で動かす事が出来る物だったらしい。


 姫とダイミョウはベアモンの頭部、天守閣に。ゲッコウはベアモンと共に暗殺部隊を相手取り戦地を駆ける。

 その際戦場の指揮をとっていたのがショウグンという人物らしい。


 しかし、ベアモンが変形する前に忍び込んだ刺客が一人いたらしく、そいつがベアモン内部に仕掛けた爆薬が大爆発を起こし、ベアモンは爆散。天守閣は吹き飛び、ゲコゲコランドの水源であったダムに激突、ダムが決壊しゲコゲコランドは大爆発と大洪水に襲われた。


 そんな状態だったので姫は死んだと思われていた。

 ゲッコウが他の敵を片付け、姫を探すが、ダイミョウの遺体は確認できたものの姫の遺体は見つからなかった。

 きっとあの爆発と洪水で死んでしまったのだろうと諦めるしかなく、それからは死んだようにニポポンを放浪し続けたらしい。


 奇跡的にお互い生き延びて、この前この地で再会した、と。

 ……そんな裏話があったと考えるとあの再会は凄い事だったんだなぁ……。


 しかし、俺は機動要塞ベアモンの事が気になって気になって、いまいち感情移入できなかった。


 そう言えばショウグンって結局誰だよ。

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