魔王様は再会を見届ける。
「ロザリア……私はアシュリーという。お前には悪いんだが……」
「ああ、アシュリーね。勿論わたくしも知ってますわ。以前貴女の家でショコラに凌辱されていたのも見ていましたもの」
「余計な記憶は消せっ!!」
ロザリアが落ち着いたのを見てアシュリーが話しかけたのだが……マリスの中に居た時も外の様子は全部見えていたという事らしい。
アシュリーの反応にロザリアはケラケラと明るく笑う。
「それで、大賢者さんがわたくしになんの用かしら?」
「まったく……あのな、その体はメリーという奴の物なんだ。悪いが返してもらうぞ」
「……そう、それは別に構わないんだけれども……どうしたらいいのかしら? わたくしはそもそもどうやってここに入ったのかもわからなくってよ」
ロザリアはスッキリしたような顔をしていたが、体を返せと言われても方法が分からず困っていた。
「……私のやる事は終わったから、少し離れておくわね」
「ちょっと待ちなさい!」
気を聞かせてこの場をさろうとするメアに、ロザリアが倒れたまま叫ぶ。
「アシュリー、わたくしをこの身体から追い出す方法があるの?」
「ある」
「そう、それならメア。貴女にこれを預かっていてほしいの」
そう言ってロザリアは震える手で先ほどメアが彼女に付けた髪留めを外し、メアに差し出した。
「だから、それは貴女の……」
「そうよ。でもわたくしはこの身体から出て行かなきゃいけないようですわ。そしたらこれはどうしたらいいんです? 貴女が罪の象徴として持ち続けなさいよ」
「……そう、貴女がそれを望むのなら……」
「おい、勘違いするなよ。確かにこの体から出ていってもらうが、その後の事はゆくゆく何とかする。ロザリアはロザリアとして生きてもらうからな」
メアが髪留めを受け取った時、アシュリーがイライラしながらそんな事を言い出した。
さすが大賢者様だ。俺の頼んでいた事をちゃんと進めていてくれたらしい。
俺が以前身体が一つ足りなくなる事に気付いた時、それとなくアシュリーに相談していたのだ。
「今はまだ解決はしないけれど、いつか必ず。約束するわ。だから……」
「そうでしたの……そういう事なら、メア……必ずそれをわたくしに返しなさい。全てが終わったら、必ず。それまでは勝手に死ぬなんて許しませんわよ」
「……分かったわ。あいつとの闘いが終わったら……その時、私をどうするかロザリアが決めてちょうだい」
「ええ、そのつもりよ。……話はおしまい。アシュリー、宜しくお願い致しますわ」
アシュリーは無言で軽く頷き、ロザリアの体の前でしゃがみ込むと、突然彼女の服をひん剥いた。
「ばっ、アシュリー!! お前何やってんだ!!」
「文句があるなら見るなこの変態!」
アシュリーに怒鳴られてしまった……。
文句がある訳ではないので見ていよう。うん。それがいい。
「……わたくしの体ではないといえどこれはさすがにちょっと恥ずかしいですわね……」
「確かこの辺だった筈だが……あった」
アシュリーがロザリアの体をぺちぺちと調べ始め、ある部分で手を止めたかと思うと体をこじ開けた。
「なっ!? え、わたくしの体どうなってますの!?」
「これは人型のアーティファクトなんだ。お前の体じゃないんだから驚くな。お前の身体に入ってるコレがエネルギー源なんだが……一度取り外すぞ」
返事を待たずにアシュリーがガコリと、何か球体を外した。
『あわわっ、ちょっと! これどうなってますの!?』
声は、その球体の方から聞こえてきた。
驚いているのは本人だけじゃない。アシュリー以外の全員がこの状況についていけていない。
「メリーの体にどうやって人間の精神を入れたのかずっと考えていたのよ。ヒントはセスティが持ってるヤマタノオロチね」
「俺オロチの事アシュリーに見せたっけ?」
「見てはいないけれどアーティファクトに入ってもらったって話は聞いたわ。ショコラからね」
あいつアシュリーと意外に仲良くやってるんだな……。
「だから、きっとこの身体に組み込むならここだと思ったのよ。私が以前嵌め込んだ物とは違うから確信した」
「違うって……それがまさかアーティファクトだって言うのか?」
「正確にはアーティファクトの外殻って所かしら? 強度はあるようね。ここにロザリアの精神を封じて、メリーに組み込んだのよ。アルプトラウムなら人体から精神体を抜き取るなんて簡単でしょう? 貴女達の中身を入れ替えられるくらいなんだから」
俺とメアの中身を入れ替えていた事やメリーの構造を踏まえた上でこの状態を見抜いたのか。
「てっきり準備出来たっていうのはアシュリーが器を用意してそこにロザリアを移すのかと思ってたよ」
「万が一の場合はそうするつもりだったけれど、その場合は大規模な魔法になるから私だけじゃできないわ。私は神様じゃないもの」
私は神様じゃないもの。という言葉には皮肉めいた物を感じる。
「でも考えが当たってて良かったわ。こうだろうと思っていても不安だったものね」
そう言ってアシュリーは自分が持ってきた疑似アーティファクトをメリーの腹部に嵌め込む。
「メリーの人格は眠らされていただけ。主導権を握っていたロザリアが抜けたのならきっと……」
皆が固唾を呑んで見守る中、ぴくりとメリーの指が動いた。
「メリー、私が分るか!?」
「はれれー? ますたー? あの、お腹すいたんですけどおにくありますー?」
ぼかり。
アシュリーが目に涙を溜めながらメリーの頭を叩いた。
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