魔王様は結末を見届ける。
「俺の身体の事はちょっと考えなきゃいけないかもしれんが今はそれどころじゃないんだ。余計な時間をくっちまったが、少し急いでる」
「そう言えばそんな様子じゃったのう? いったい何があったんじゃ?」
「……もしかしてメアか?」
あらからじめアシュリーにはいろいろ相談してあったので、そのあたり話が早くて助かる。
「めりにゃん、今メアがローゼリアでロザリアと戦ってるんだ」
「……なんじゃと? ロザリアと言えばまだ魔族王であろう? 一人で大丈夫なんじゃろうか?」
「俺は奴を信用して一人で任せた。万が一何かがあったら俺の責任だ。……とはいえ、こちらが片付いたんだから様子を見に行くつもりだよ。それでめりにゃんとアシュリーには一緒に来てほしい」
めりにゃんは優しく微笑んで「お主が決めた事なら儂は従うよ」と言ってくれた。
「勿論メリーの事もあるから私は行くぞ。しかしメアの奴連絡いれろと言っておいたのに……」
アシュリーは眉間に皺を寄せながら文句を言い、慌てて何かを準備し始めた。
「ちょっとだけ待っててくれ。念の為に持って行くものがある」
「間に合ったのか?」
「間に合わせにしかならんけど一応な……よし、じゃあ行くぞ。場所はローゼリアでいいんだったな?」
アシュリーは俺達の腕を掴むと、一瞬で転移魔法を展開。
「……久しぶりに来たな」
俺達はローゼリア城の前に居た。
以前ここに来た時、俺はまだメアリー・ルーナとして、だったな。
前にもまして城はボロボロになっているように見える。
「あの二人が選ぶ場所ならここだと思ったんだがな……逆に戦いやすい広い場所だったか?」
「めりにゃん、ちょっと上空から見てくれないか? あの二人が戦った場所なら間違いなく被害が出てると思う」
「了解じゃ。しばし待っておれ」
めりにゃんはふわりと浮き上がり、それを下から眺めていたのだが、彼女が途中でこちらの視線に気付いて服を抑えた。
なんだか怒っているようにも見える。
……いや、そんなとこ見てないって!
でも俺は学習した。ここで、そんなとこ見てない、と言うとそれはそれで怒るのだ。
そっと目を逸らす。これが正解。間違いない。
俺の対応は正しかったらしく、しばらくするとめりにゃんが目指すべき場所を見つけてくれた。
「この城の裏手じゃ! 山がごっそり削れておるぞ!」
城の裏手にある山、か。
敷地内で戦うのを避ける為だったのかもしれないな。
「儂はこのまま向かうからセスティはアシュリーに連れて来てもらうのじゃ!」
そう言ってめりにゃんはそのまま飛んでいってしまった。
「アシュリー、頼むぞ!」
「頼むって言われても私その裏山なんて行った事ないんだけど……仕方ないわね……」
そう言ってアシュリーはまず城の上空へ転移、そこから浦山を視認し、すぐさま被害の多い場所を確認しそこへ転移。
するとそこには……。
「メア、やめろ!!」
ちょうどメアがロザリアに剣を突き立てる所だった。
俺が叫んだのとメアが剣を突き立てるのはほぼ同時だったため、間に合わない。
「……あら、心配してきてくれたのねおにぃちゃん」
「おま……」
おにぃちゃん呼びに対して反応しそうになったが、今はそれどころじゃない。
完全に間に合わなかった。もう少し、一瞬でも早ければ……。
「連絡しなさいと言ったわよね……?」
アシュリーがゆっくりと前にでてメアに近付いていく。
「ごめんなさい。こっちも大変だったのよ」
「……見ればわかるわ」
おい、どうしてそんな呑気に……って、あ……そういう事か。
「でも上手くやってくれたみたいね。助かったわ」
「ええ……大変だったわよ。……で? ここからどうする気?」
メアが突き立てた剣はロザリアの顔のすぐ横の地面に突き刺さっているようだ。
当のロザリアは……。
「……またぞろぞろと……わたくしは、負けましたのね。さっさと殺しなさいな」
「それが出来ればこんなに苦労しないのよ。私は貴女を殺したくないし、そこの怖い顔したちびっ子エルフがその体が欲しいらしいから壊す訳にも行かないし。おにぃちゃんに上手くやれって言われてるしね」
「……おにぃ……ちゃん?」
ロザリアはもう動けない程に疲弊しており、なんとか顔だけをこちらに向けた。
「私の体を使っているあのド平民が貴女の兄だと言うの……?」
相変わらず口わりぃなこいつ。
「それは話すと長くなるんだけどね、簡単に言うとあいつの母親が私を娘にしてくれたのよ。だからアレは私のおにぃちゃん」
「あはは……何よ、それ……馬鹿みたい。貴女は本当に私の知ってる奴なの?」
「私はこの命尽きるまで貴女とこの国、そして迷惑をかけた人達へ謝罪をし続けるわ。その為にもアルプトラウムを倒さなきゃならないの……だから、もう少しだけ時間をちょうだい。お願いよ」
ロザリアは埃塗れの顔で、力なく笑いながらひたすら涙を流し続けた。
「もう、いいわよ……勝手になさい。もう疲れてしまったわ……」
「ロザリア、貴女に……返す物があるの。ガーベラから貴女にって」
メアは蝶の形をした髪留めを取り出し、ロザリアの髪に付けてやった。
「ガーベラ、お姉様……お姉様ぁぁぁ……」
俺達は、顔をくしゃくしゃにして泣き続けるロザリアが、落ち着いて静かになるまでじっと見守り続けた。
メアは、罪の意識に苛まれて苦しそうになりながらも、まるで母親のような目で彼女を見つめていた。
――――――――――――――――――
前日譚にあたるぼっち姫外伝その壱、から続く二人の因縁もひとまずここで終幕です。
勿論、当然ながらロザリアはメアを許す事はできません。メアもその件に関して許されようとは思っていません。
それでも、一時的にだとしても今回こういう形で決着をつけさせてもらいました。
ここからロザリアについてどうするのか、は次回、次次回にて。
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