魔王様は女の部分が恐ろしい。


「おいセスティ、お主もう身体ある程度動くんじゃろ」


「わかっちゃった?」


「わかるわい。腕を背中に回してくるわ頭を擦り付けてくるわ……お主その状態だと随分甘えて来るのう」


「それだけめりにゃんが頼りがいがあって素敵って事よ♪」


 なんだか難しい事考えるのを辞めたらこんなに安心できる相手他に居ないってよく分かった。


 私、男だろうと女だろうと、めりにゃんの事好きだなぁ。


「からかうでないのじゃまったく……ほれ、そろそろ着くのじゃ」


「……アシュリーはラボに居るの?」


「うむ。アシュリーは自分の持ち場を誰よりも早くぎゃくさ……殲滅してラボに戻っておる筈じゃ」


「今虐殺って言おうとしたよね? ね?」


 アシュリーも流石だなぁ。それに、すぐにラボに戻ってるって事は……期待していいのかしら?


「さ、ここからは自分で歩けるかのう?」


「え、どこか行くの?」


 めりにゃんは私をおいてどこかへ去ろうとしていた。


「ん? 儂が居たら都合悪いような事ではないのか?」


 どうしてそうなったのかが分からないんだけど……。


「ううん、めりにゃんにも一緒に来てほしいな」


「お、おう……お主そろそろ元に戻ってくれんか……こう、懐かれ過ぎてむず痒くなるんじゃぁ……」


 照れてる。かーわいいっ♪


「めりにゃんは本当に可愛いなぁ♪ これからもずっと大好きだよ☆」


「あ、愛がストレート過ぎて辛いっ!」


 めりにゃんは「うーっ!」って謎の悲鳴をあげながら頭をわしゃわしゃと掻きむしり出した。


「お、お前ら一体何をやってるんだ……? 高度な夫婦漫才か何かか……?」


「あっ、アシュリーだ♪」


 アシュリーはなんだか疲れたようなげっそりした顔で、目の下にクマも出来ている。


「おいアシュリー! セスティをなんとかしてくれ儂はもうダメじゃっ」


「ちょっと、大丈夫なの? 何かあったの……?」


 アシュリーが頭にはてなマーク浮かべながらめりにゃんを心配してる。


「アシュリーは優しいねー♪ いつも自分を冷たいように見せかけてるけど、私はアシュリーがすっごく優しいの分かってるからね!」



「うわっ、なんだこいつどうしちまったんだ?」


「アシュリー! 全然寝て無いんでしょ? 目の下にクマできてるじゃん。頼んでた事頑張ってくれてたんだろうけど……無理してクマなんて作ってたら可愛い顔が勿体ないよ」


「かっ、かか……っ」


 アシュリーが顔を真っ赤にして耳がピンって立ったのがちょっと面白い。


 あの耳って感情が反映されて動くのかな?


 気になって、まだ上手く力が入らない体でアシュリーに近寄ってみる。


「な、なんだなんだ!?」


 ちょんっ。


 耳をつついてみた。


「わぎゃーっ!!」


 思った通り、ちょっと触ったら更にぴんっ!! って立って、その後ピコピコ動き出した。


「なっ、ななな何すんのよアンタっ! めりにゃん、こいつどうしちゃったの!?」


「すまん、よく分からん……呪いが悪化しとるんじゃなかろうか……」


「悪化してるとか失礼だよ! 私は素直になってるだけなのにーっ!」


 めりにゃんに反論しようとくるっと体の向きを変えようとしたけどやっぱりまだ上手く身体が動かなくて足がもつれ、バランスを崩してしまう。


「わわっ」


 バランスを取ろうと頑張った結果、私を支えようとしてくれたアシュリーを下敷きにしてしまった。


「うぅ……アシュリーごめんね」


「ひょあっ、い、いいからどけっ! はやくどけっ!」


「体に力入らなくて……」


「どういう状況なんだこれはっ!! おいめりにゃん、笑ってないで助けろーっ!!」


「ひっひっひ……儂もかなり大変だったんじゃ。アシュリーにもお裾分けしてやらんとのう?」


「あ、ありがとう……? じゃなくて! 今じゃなくていい! 嬉しくない訳じゃないけどこういうの今じゃなくていいからっ!」


 アシュリーが怒っちゃって、めりにゃんがしぶしぶ私を立ち上がらせてくれた。


「ふぅ、めりにゃんありがとね」



 ……閑話休題。


「えと、あー……その、なんか、すまん」


「ほんとじゃよ馬鹿者め」

「アンタは自分の破壊力をもう少し理解しなさいよね」


 破壊力って言われても……。


「それより、もう身体は動くようになったようじゃな?」


「ああ、まだ感覚が鈍い感じするけどなんとかなるな」


「それにしてもアンタ……症状かなり悪化してない?」


 それはなんとなくだけど理由は分かる気がする。


 俺が本当の意味でこいつらを受け入れてしまったからだろう。


 自分が男だろうと女だろうと関係なく、こいつらは自分の理解者でパートナーだ、みたいに思ってしまった事によって自分が女だから女との恋愛はおかしいっていう大前提がぶっ壊れてしまったんだと思う。


 まさか自分があんな風になるとは思ってなかったからほんと今焦りと困惑と申し訳なさしかない。


 一応だけどそれを二人にも説明しておいた。

 勿論恥ずかしいから、女の時に女との恋愛はおかしいっていう前提が壊れたって事だけ。


「まぁ確かに近くにショコラみたいなのが居たらその辺の常識がおかしくなるのも分るけど……」


「そうじゃな……今度からセスティが女になっとる時は気をつけんと……」


 ショコラのせい、という事で納得してくれたらしい。すまんショコラよ。でもお前普段の行いが悪いからこうなるんだぞ。うん、俺は謝らなくていい気がしてきた。


 どうも女に引っ張られてる時は本能に忠実になってしまう傾向にあるので、本当に自制しないと女としてこいつらと一線を越えてしまいかねない。


 それは流石に男としてがいいよ俺は。

 女の自分に先を越されて悔しい思いをするとかアホらしすぎる。

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