元魔王と限界な妹。


「……どうするの?」


 ショコラは何事も無かったかのように淡々と問いかけてくる。


 この子には感情って物が無いのかしら……。


 アルの事はいい。どうせそのうち戦う事になるのだから。


 それよりも、この近くに集まって来ていた筈の魔族達とロザリアよ。


 ショコラやシリルが感じていた気配はアルの物だった。

 だとしたら魔族はどこに?


 ロザリアは洗脳から解放されている筈なのにどうして……?


 考えていても仕方がない。


「二人とも、とりあえず外の様子を見に行くわよ」


 二人を急かすように階段を戻り、神殿を出て空を見上げる。


「ひぃっ! あ、アレはなんですの!?」


 シリルが驚くのも無理は無いかもしれない。

 空が黒いのだ。


 大小様々な影が空を覆っている。

 これだけの数の魔族が……?

 いや、きっと王国に攻め込んできた時と一緒だ。


 魔族はこの中の一部だけだろう。

 他多数は作り出された人工的な魔物……。


「どうする? ここでやっちゃう?」


「いえ、どこへ向かっているのか確認してからの方がいいわ。まだ目的がわからないもの」


「面倒だなぁ。ここでやっちゃえば早いのに」



 ショコラの言う事も一理はあるんだけど、戦力が私とショコラだけっていうのが良くない。


 シリルは戦力にならないし……私とショコラだけでも雑魚共はほとんど片付けられると思う。

 でも疑似アーティファクトなんかを持たされてる魔族がどのくらいいるか次第ではちょっとまずい事になる気がする。


 ロザリア本人がどういうつもりなのか分からないけれど……。


「とりあえず魔法で姿をカモフラージュして後をつけるわよ」


「りょーかい。おねぇちゃんの言う通りにするよ」


 急におねぇちゃん呼びをぶっこんで来ないでよびっくりするじゃない。


 こんな事で少しだけ浮かれている自分が恥ずかしい。

 これから、私に姉を奪われた女を尾行するっていうのに。


 いくら詫びても償いなどは出来ない。

 死んで詫びろというならそれもいいだろう。

 だけど、それは全てが終わってからだ。

 せめてアルとの決着をつけるまでは死ぬ訳にはいかない。


 私は自分達の周りの大気を操り光の屈折率を出来る限りぼやかせて、空を飛んだ時青に溶け込んで見えにくくなるようにした。


 来た時のように二人を手にぶら下げていると目立ってしまうので今回は小脇に抱えるようにしている。


 それにしても大群の移動とはいえ乱れが無さすぎる。

 王国戦の時と同じで簡単な命令を与えられ、それに従うだけの人形のような状態なんだろう。


 こんな大群をどこに向かわせるつもり……?



 そんな状態で半日ほどふわふわと空を飛び、大群の後ろを付いていくと……。


「ねぇ、そろそろトイレ行きたいんだけど……」


「我慢してちょうだい」


「……ここでしていい?」


「ダメに決まってるでしょうが!」


 ショコラの奴……!


「もう我慢できないよおねぇちゃん……!」


「お姉様! もし限界ならわたくしが受け止めて差し上げても……!」


「おねぇちゃん変態が居るよ」


 私からしたら二人とも十分変態よ。ついでに言うならどっちの方が変態って、間違いなくショコラでしょ……?


「もーれーるー!」


「はいはいうるさいわねぇ……じゃあ尾行するのは私だけでいいから二人とも一度王国へ帰りなさい。王国内まで飛ばしてあげるわ」


「はーやーくー!」


 ショコラが私の腕の中でもぞもぞと暴れ出した。

 動きが激しくなってきたのでこれはそろそろ本格的に危ないかもしれない。


「ちょっと待ちなさい。飛びながらだから大変なのよ。少し集中させて」


 あーもうもぞもぞと鬱陶しい。


「よし、とりあえず城の前まで飛ばしてあげるからあとは自分で何とかしなさい。それとシリル、お兄ちゃんに通信入れるように言っておいて」


「わ、わかりましたわ!」


「じゃあよろしくね。あとショコラは城の中に漏らさないように」


「い、いいから……はや、く……」


 ショコラの顔面が青くなって来たので、二人を王国の城まで転送した。


 やれやれ……結局私だけで追いかける事になっちゃったなぁ。


 でも一人だったら……もう少し冒険してもいいかもしれない。


 おそらくこの大群は私の事なんて眼中に無いだろう。

 試しに……。


 私は最後尾を飛んでいる一匹の足を掴んでみたが、まったく気にする事なく私を引きずるように飛び続ける。


 やはり意識なんて存在しない。


 それなら……!


 私は念のために身を隠したまま魔物の群れの中を前方へどんどん進んでいく。


 中腹より先のあたりまで来たところで、先頭集団がちらっと見えた。


 魔族は……ほとんどいない。

 二人だけだ。


 そして、先頭には……。


「ロザリア……!」


 やはり彼女だ。

 MDの姿をしているが、中身はロザリアの筈。

 洗脳が解けて今どういう状態なのだろう?


 ロザリアと魔物数十体が方向を変えた。


 残りの魔族二匹と大量の魔物はそれとは別の方角へ。


 二手に別れた……?


 このまま進んだとして目的地は……。


「メア、そちらの状況を教えてくれ」


「おっと……少し声の音量落としてちょうだい」


 セスティが通信してきた。シリルがちゃんと伝えてくれたんだろう。


「魔族二体と大量の魔物が王国へ向かってるわ。それと、ロザリアが別の方向へ向かってる」


「ロザリア……やっぱり居たか。向かってる方角から目的地は分からないか?」


 それについては多分だけど心当たりがある。


「あの子が向かってるのは……多分だけど……」


 いや、間違いないだろう。


「ローゼリアよ」

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