元魔王とシリルの真実。


「直接会うのは久しぶりねアル……いえ、今はデュクシだったかしら?」


「……どちらでもあるからね、呼び方なんてどちらでもいいさ。それより今回は君らだけかい?」


 ……私はアルのその言い方に妙な違和感を感じた。


「貴方は大体の状況をいつも理解していると思っていたのだけれど?」


「ふふ……いつもそれではつまらないだろう? なんでもかんでも観測して眺めるのも悪くないがね、もうその段階は過ぎた。ここから先は私も何が起こるか、というのを楽しみたいのでね。……その為に人間と同化したと言ってもいい」


「口数の多さだけは相変わらずね。そんなに話し相手に餓えてるのかしら? それなら何人か話し好きなのを紹介してあげるわよ」


「君の皮肉も相変わらずで安心したよ。……しかし、本当に君らだけか。少々意外だな」


 アルは楽しそうな、それでいて空虚な笑みを浮かべて私達三人を値踏みするように視線を移していく。


「じろじろ見るな変態」


「ははは、ショコラは相変わらずっすねぇ」


「その口調で喋るなカス」


「……参ったなぁ。俺はアルプトラウムであると同時にちゃんとデュクシなんすよ? 気に入らないと言うのであれば辞めるがね」


 完全におちょくってる。ショコラをからかって遊んでるんだこいつは。


 相変わらず性格が悪い。

 人間と同化して、それぞれの意識が溶け合っているとはいえ、力の差が歴然すぎてアルプトラウムの割合が多い気がする。


 勿論彼の中できちんとデュクシとしての記憶も思考も存在しているのだろうけれど、これはもう二人が溶け合った新しい人物だ。


「これから貴方の事デュクシトラウムって呼んでやろうかしら」


「やめろ」


 珍しく若干声色を荒らげて拒否してくるのがちょっと面白かったけれどこちらとしても言いにくい名前なので採用は見送る事にした。


「それで、アルはこんな所でいったい何をしているのかしら?」


「……君らはここが何なのか知っているかね? 特にそこのガーディアン。お前は知っているのではないか?」


 ガーディアン……?


「……ここは、至宝を安置し守る為の……」


「やれやれ。どうやら長期間ここに放置しすぎて記憶領域がエラーを起こしているようだ。……いや、無理な分裂のし過ぎでそもそもの記憶領域が減少して記録が消えてしまったのか?」


「考察は家に帰ってからやってくれないかしら? こっちはアルの独り言に付き合ってるほど暇じゃないのよ」


 私の発言に彼は「くっくっく」とわざとらしく笑い、「本当に君は相変わらずだ。どれだけ甘くなっても、それだけは変わらない」と私の事知ってますみたいな態度を取られてとても不愉快。


「貴方ね……私の理解者面するの辞めてくれる?」


「そうだそうだ彼氏面するな!」


 私に続いてショコラが変な事言い出した。そういうのほんとやめて。


「彼氏面か……面白い表現だが少し違うよ。私はメアを認知した初めての存在で成長を誰よりも近くで見て来たんだからね、少しは親のような気持ちになってしまうものだよ」


「生憎と親はもう間に合ってるのよ。それに貴方は私を利用していただけ。それ以下ではあってもそれ以上である事は無いわ」


「……なるほど。そんなふうに思われていたとはね……ふふっ、よく分かっているじゃあないか」


 ニヤリと口角を吊り上げたアルの表情は、デュクシの顔ではあるが間違いなく私の知っているアルプトラウムだった。



「まぁいい。そんな事よりも、だ……何も知らない君らに少しここの解説をしてあげようじゃないか」


 ……こいつの長話に付き合う気は無かったけれど、正直それは少し気になる。

 ここで妙な道具を守っていたシリルすら知らない事で、おそらくこいつがこんな所に居る理由……。


「この神殿には地下があってね……ついてきたまえ」


 そう言ってアルは神殿の奥へふわふわと進んでいく。


 興味の無いショコラを無理矢理引っ張りつつ、私達もその後をついて行く事にした。


「実はここの住人達が寝静まった頃に一度来ていてね……勝手にここの施設を利用させてもらっていたんだ」


 彼は最奥、恐らく至宝が安置されていたであろう祭壇の裏手に回り、壁に赤い石を翳した。



「それは……ロザリアストーン?」


「覚えていたかい? 君にも馴染みのある石だからね。でもこれは……本来ロザリアストーンなどという名前ではない。まぁ呼び方などどうでもいいがね。とにかく鍵のような物だと思いたまえ」


 いちいち説明が長い。話が回りくどい。


 前から思っていた事だけれど、明確に敵となった今尚更気になって仕方ない。


 ロザリアストーンを当てた壁が左右にスライドし、地下へ向かう階段が現れた。


「この神殿にこんな場所があったんですの……?」


「まったく、ここを守るガーディアンの役を与えられておきながら本来の役目を忘れるとは嘆かわしい……」


 暗い階段に私たちの足音だけが響く。


 やがて、行き止まりになったところでアルが再びロザリアストーンを翳す。


 開いた扉の先からまばゆい光が溢れ出す。


 そして、そこには……。


「ロザリア……!?」


「そう、ボディはMDだが間違いなくロザリアだよ」

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