元魔王の妹は食欲旺盛。


「何か知ってるなら教えて。そしたらご褒美あげるから」


「いや、むしろ教えるから何もせずこのまま帰ってくれないか……?」


 シャリィは心底嫌そうな顔をしてショコラを警戒している。

 きっと以前酷い目にあわされた経験があるんだろう。


「つまんないやつー。久しぶりに会ったんだからつまみ食いくらいさせてよ」


「人をおかずみたいに言うんじゃない!」


「ある意味おかず……いや、シャリィをおかずにする趣味はないなぁ。どっちかっていうとメインだし」


「私にはお前が何を言ってるのかわからん……」


 私も概ねシャリィに同意だ。ショコラの言ってる事はやっぱりよく分からない。

 難しい言葉を使うのでこちらも勉強が必要。


 ……きっと知らなくていいような事なんだろうけど、私が知らない事があるっていうのがちょっともやもやする。


 知識欲が深すぎるのも考え物ね……。


「まぁ今回はゆっくり遊びに来たわけじゃないし、キャナルもシャリィも出来れば時間かけて頂きたいんでまた今度にするね。とにかく情報ちょうだい」


「……私の地獄までのタイムリミットが多少伸びただけのように思えて仕方ないが、今は何事も無さそうな事をありがたく思っておこう……」


 なんだか酷く疲れた顔をしている。基本的にショコラは女の敵なのだろう。私のあの感覚は間違ってなかった。

 ショコラは危険だ。


「お姉様、こんなやつより私の方が美味しいですの」


 シリルに限っては本当に謎の思考回路である。

 自らショコラに身を捧げようとする意味が分からない。どうしてそこまで献身的になれるのだろう?


「シリルはシリル。シャリィはシャリィ。むしろたまにしか食べられない分希少価値がある」


「くっ、それなら、いざって時にはわたくしも混ぜて下さいまし!」


「おいおい……私の意思は尊重してもらえないのか? いいからあいつらとっととおっぱらってくれ。私達も迷惑してるし奴等のせいで皆ピリピリしてるんだ」


 シャリィが言うには、ここからしばらく行った場所にあるジラールという集落の近くに大量の魔族が降り立った。

 それで危機を感じたジラールの人達集落を捨ててブライに合流した、という流れらしい。


 シリルもそのジラールの住人だけれど、彼女は驚くほどジラールの危機に興味がないみたいだ。


 彼女にとっては住んでいた場所よりもショコラが居る場所の方が大事らしい。


 まぁ、その感覚に関しては少し分る気がする。

 私キャンディママが大切だけどライデンはどうでもいいし。そういう事なのかもしれない。



「それで、そいつらはジラールの近くで何やってるの?」


「いや、ジラールの奴らもそれは分からないらしい。急に魔族が沢山やってきて怖くなって逃げてきたって話だ。今はもう至宝も無いしあそこに拘る理由もないからな」


「ふぅん。直接見に行ってみるしかなさそうだね。……って事だからよろしくおねぇちゃん」


 ショコラは私の方を振り返って掌をヒラヒラと振った。


「おね……この女性は貴様の姉なのか……?」


 シャリィが私の顔を見て露骨に警戒する。


「ちょっと、私をこの変態と一緒にしないでちょうだい……ショコラに比べたらとってもまともよ?」


「そうそう。普通の元魔王」


「そうか、よかった……って、え? 元魔王?」



 なんか話がややこしくなりそうだからさっさとジラールって所へ行こう。


「さあ、二人ともさっさと出発するわよ」


「ねぇ! 今元魔王って」


「私達は先を急ぐから。特に質問はないわよね?」


「さっき元魔王」


「な・い・わ・よ・ね・?」


「……はい、質問は何もありません」


「うん、いい子ね。じゃあ行くわよ」


 ……ふぅ、なんとかごまかせた。


 魔族の居場所がはっきりしたので大体の距離と場所を聞いて直接転移魔法で移動すると、ちょうどジラールの上空にでた。

 真上って訳にはいかなかったけれど視界に入ってれば十分でしょ。


 それにジラールを占領してるってわけでも無いらしいしね。


「……やっぱりここに居る訳じゃないのね」


「……なんか変な感じがする」


 ジラールに降り立つやいなやショコラが変な事を言いだした。この子のこういう勘とか直感は侮れないので私も注意深く周りを調べる。



「特に何もなさそうよ」


「……シリル。ここはシリルの方が詳しいでしょ? 何か違和感感じない?」


 ショコラは大真面目な顔になってシリルに意見を求める。


 これは本格的に何かがあるのかもしれない。


「えっと……確かに、何かおかしいですわね。神殿の方へ行ってみませんか?」


 特に何も無い集落の中を進み、神殿っていうのの前までやってきた。


「やっぱり魔族のお目当てってここだったんじゃないの……?」


「そうかもしれませんわ。明らかに異物の気配がします」


 私も警戒のレベルを強める。

 二人が言うには、この神殿の中にすでに魔族がいるらしい。


 何が目的化は分からないが、早めにジラールの人たちが逃げてくれていたのは好都合だ。



 ここを守ろうとして死なれても目覚めが悪いし、ここが戦場になる場合他の連中は邪魔なだけだしね。


 階段を登り、神殿の中へ入ってすぐ、そいつは居た。


「む……? 思ったより早かったね?」


 完全に想定外だ。こんな所にアルが居るなんて。

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