元魔王ご一行砂漠を行く。


「ねぇちょっと、本当にこんな所に集落があるの?」



 私はショコラとシリルをそれぞれ手にぶら下げて砂漠の上空を移動していた。


 転移でいきなり到着、ってなった時に既に魔族に占領されていたり、道中で集まっていた場合などの事を考えて直接目視しながら進む事になったんだけど、全然集落なんて見えてこないしすっごく暑いし一面砂ばっかり。


「おねぇちゃんはもう少し我慢ってものを覚えた方がいいよ」


「まったく生意気な妹ねぇ……シリルの方がよっぽど可愛げがあるわ」


「そ、そんな事言ってもわたくしはお姉様の者ですわっ!」


 ややこしいなぁ。シリルの言うお姉様はショコラで、ショコラの言うおねぇちゃんが私で、私のおねぇちゃんがメリニャン。


 うーん……ちょっとシリルのいうお姉様っていうのが何か違う気がする。


「シリルはどうしてショコラの事をお姉様って呼ぶの?」


「どうして……と言われましてもお姉様はお姉様ですの」


 全然説明になってないしよく分かんないな……。


 世の中にはまだまだ私の知らない事が沢山ある。


「まぁいいわ。でもそのブライって集落はあとどのくらいの距離なのかしら? どう見ても砂しか無いんだけれど……」


「あ、それならもう少し行くと緑が見えてきますわ」


 緑……この砂漠に草木があるって言うのかしら?


 到底信じられる話では無かったけれど、そのまま十分ほど飛行していると遠くに揺らめいた緑が見えてきた。


「本当にこんな所に植物があるのね……」


「ブライとジラールはどちらも川を中心にしていますので、集落の周辺にだけはまだ緑が存在しているんですの」


 こんな荒廃した場所にも水さえあれば命が存続していける……。


 こんな環境で植物も沢山……やっぱり世界って広いなぁ。

 心なしか今まで見て来た植物よりも輝いて見えた気がした。


「おねぇちゃん、あれがブライ。魔族が居る気配は無いからそのまま中央の広場に降りちゃって」


「はいはい」


 早くもブライという集落の住人が、空を飛んでくる私に気付いたらしくちょっとした騒ぎになっている。

 人も広場に集まってきて、私達が降り立つとそれをぐるりと囲まれてしまった。


「……これ、友好的な雰囲気無いんだけれど……?」


「それはおそらくわたくしがジラールの巫女だからですわ。皆さん、わたくしに敵意はありません……! って、あれ……?」


「シリル、どうかしたの?」


 万が一の時に備えていつでも魔法を発動できるように準備をしたが、その心配は杞憂に終わった。


「いえ、ここにはジラールの民も一緒に居ますわね? ならどうして皆はこちらを睨んでいるんですの?」


 それは私が聞きたいところだけど。


「おい! 貴様今頃のこのこ帰って来てなんのつもりだ!? まさかまたあんな事をしに来た訳じゃないだろうな!?」


「あ、シャリィ久しぶり」


 一人剣士風の女性が代表として前に出て、どうやらショコラに対して文句を言っているようだ。


 私達が睨まれているというよりもショコラがこの人達に怨みをかっている雰囲気。


「以前ここに来た時にね、この人達が私の事縛り上げて妙なプレイをしようとしたから逆に襲いかえして全員足腰立たなくしてやった」



「……そ、そう。貴女はきちんとそれ相応に怒られた方がいいわ」


 ショコラは私の言葉を無視してシャリィという女性に話しかける。


「ちょっと聞きたい事があったから立ち寄ったんだけど、なんでそんな怒ってるの? もしかしていつまでも私が帰って来なかったから寂しかったの?」


「ばっ、ばばば馬鹿な事を言うな! 誰が貴様の事なんて……!!」


「何をしているのです! これは何の騒ぎですか?」


 またなんか出た……。とりあえず事態をこれ以上ややこしくする前に今の状況を解決してほしい。

 解決しないまでもせめて説明して。


「キャナル様! いけません、下がって下さい!!」


「いったいなんだと言うのです。何か問題が起きたのならすぐに報告しろと……う、あ……」


 キャナルと呼ばれた少女がショコラを見て固まる。


 いや、少女と言ってもここに居る人達は皆シリルと同じで人間ではないのだったか。


「あ、キャナルだ」


「し、しょ、ショショショショしょこ……」


 びったーん!


「キャナル様ぁぁぁっ!!」


 キャナルはショコラを見て、急に様子がおかしくなり口から泡を吹いて倒れてしまった。


「……キャナルどうしたの? 病気?」


「貴様……! キャナル様はな、お前が旅立った後も数日に一度はあの時の事を夢に見て憔悴しきっておられるのだ! これも全部貴様の責任だからな!」


 シャリィはショコラの事をとにかく怒って目の敵にしているというか、トップがあんな状態だから守ろうとしてるのかもしれない。


「なんだ、あの日からやっぱり私の事が忘れられなくなっちゃったんだね。シャリィとキャナルは今日たっぷり可愛がってあげるからもうちょっと我慢して。それよりね、」


 ショコラがやっと本題に入った。


「なんだ? お前あいつらに用があって来たのか……?」


 あいつらに用があって……? という事はこのシャリィという女は魔族達の居場所を知っている……?

 やはり何か目的があってこの近くへ集まっているのだろうか?


 ……ロザリアは、来てるのかしらね。

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