元魔王は繋がりを大事にしたい。


「じゃあそろそろ行こうかおねぇちゃん」


 ショコラを身体から引きはがすと、何事も無かったかのようにそんな事を言ってくる。

 こいつの情緒はどうなってるのかしら……。


 それにしても……まだそのおねぇちゃんっていうのに慣れない。


 以前はロザリアの中でガーベラがお姉様と呼ばれているのを羨ましく感じた事は有ったけれど、まさか自分が姉になって、しかもおねぇちゃんなんて呼ばれる事になろうとは……。



 そうか、私がこの子の姉になって、セスティが私の兄になるというのなら私もやらなきゃならない事があるのか……。


「な、なんだよ」


 じろじろ見ていたのを気付かれてしまったのかセスティに警戒されてしまった。


「えっと、違くて、その……ショコラが私の妹で、貴女が私の兄って事になるのよね?」


「ま、まぁそうだが……どうした?」


 まずい。変な目で見られてる。出来る限り平然と、そつなくこなさなくては。


「という事はよ? 私がショコラのおねぇちゃんなのね?」


「そ、そうだが……」


 そうよね。それであってるのよね。

 だったら……、自然に、おかしく思われないように……。


「お、」


「……お?」


「おにぃ、ちゃん」


「げふぅっ!!」


「えっ、ちょっとどうしたの!? 何か、何か変だった……?」


 私何か間違えたかしら。

 これで合ってると思ったのに……。


「いや、変とか……そういうんじゃ、なくてだな……」


「じゃあ何よ。文句あるならちゃんと言いなさいよおにぃちゃん」


「勘弁してくれマジで……」


 酷い。私が勇気出して慣例に従ったっていうのに!


「何よ私が妹じゃ不服だっていうの? 貴女が言い出した事でしょ!?」


「そ、それはそうなんだが……お前からおにぃちゃん呼ばわりされるとは思ってもいなかったというかだな」


「おにぃちゃんをおにぃちゃんって呼んで何が悪いのよ! 今更拒否なんて許さないんだからね!」


「だ、誰かこいつになんとか言ってやってくれ……!」


「セスティ……諦めるのじゃ、いい妹が出来て良かったではないか」


 魔王の嫁……メリニャンが「くっくっく」と笑いながらセスティをからかう。

 そんなに私の発言がおかしかったのだろうか……少し自信を無くしそう。


「メリニャン……貴女もおかしいと思う?」


「いやいや。儂は大歓迎じゃよ? それにのう……一ついい事を教えてやろう。自分の兄の嫁は義理の姉という事になるのじゃ!」


「なん……ですって?」


 私は、妹と、兄と、姉を同時に手に入れてしまったというのか。


「ほれほれ、お姉さんと呼んでくれて構わんのじゃぞ? 何故かショコラは儂の事お姉ちゃんとは呼んでくれんのじゃ」


「だって自分が狙ってる対象の事おねぇちゃん呼びはなかなかできないって」


「なっ、お主儂の事狙っておったのか!? セスティ! やっぱりショコラのやつ乱れておるぞ! どうにかせい!!」


 ……なんだか騒がしくああだこうだと言い合いが繰り広げられているけれども、私にはそんな言葉全然耳に入って来なかった。


 私に姉? お姉様……。

 でもガーベラみたいな雰囲気はメリニャンから感じられないし、同じように呼ぶのは抵抗がある。


 だとしたらやっぱり……。


「おねぇちゃん?」


「ガハッ!!」


 メリニャンまで私の言葉で謎のダメージを受けている。

 確かリンシャオさんがいつか言っていた気がする。特定の言葉には力を持つ物がある。

 相手に深く突き刺さる言葉。呪いのようにいつまでも気になってしまって囚われてしまう。

 そういう物の事を言霊、というらしい。


 セスティやメリニャンに同じようなダメージを与える事が出来るというのなら私にとってこの言葉は言霊を持っているという事なのだろう。


「やっぱり変? ダメならやめるけど……」


「い、いや。それでいいのじゃ。儂の事は気軽にお姉ちゃんと呼んでくれて構わぬ。勿論セスティはお兄ちゃんでよいぞ」


 メリニャンはニッコリと笑って私の呼び方を受け入れてくれた。


「貴女、じゃなかった。おねぇちゃんって、いい人ね。私誤解していたわ」


「セスティ! セスティ! 儂、このいかんともしがたい感情をどうしたらいいじゃろうか!!」


「知らねえよ!! 俺だってどうしたらいいか……」


 よく分からないけど私に妹と兄と姉が出来たよ。

 今度キャンディママにも教えてあげなきゃね♪


「えっと、改めて言わせてもらうけれど、これからも宜しくね。ショコラに、おにぃちゃん、おねぇちゃん」


 やっぱり私は家族っていう物に憧れみたいな感情を持っていたのだと思う。


 急に、家族が三人も増えた事が嬉しくて、自分でも不思議なくらいに感情が高ぶっている。


 私はきっと今顔面がだらしなく緩んでいるだろう。


 プリンとして生きていた時ならともかく、メアリー・ルーナとして、今のこの私として、こんなに自然と笑顔になったのは初めてかもしれない。


 私の大切な物がまた増えてしまった。


 それは私の弱点にもなり得るし、その分強くもなれる。


 よっし、今まで以上に頑張らなきゃね♪


 手始めに私の妹と、その性欲処理奴隷を連れて偵察と行きましょうか!


 あ、性欲処理奴隷とか言っちゃってごめんシリル。

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