魔王の嫁冒険隊。


「なぁなぁめりっち、ここには結局何があるん?」


「そのめりっちってのを辞めたら教えてやらんでもないのじゃ」


 いつの間にか呼び方がめりにゃんからめりっちに変わっておるではないか……。


 一応儂だってセスティと二人で一人の魔王なんじゃぞ?

 そうじゃなくたって魔王の嫁なんじゃぞ?


 なのにどうしてこう威厳という物が失われてしもうたんじゃろうか……。


 民と距離の近い支配者というのもまぁ悪い物ではないんじゃろうけれどもなぁ。


「ロピア、ヒルダ様に失礼なのである」


「儂をちゃんと敬ってくれるのはライオン丸くらいじゃよ……」


「我はいつでもいつまでもヒルダ様の味方なのである!」


「おおよしよし」


 頭の上に乗っかってるぬいぐるみライオン丸をぺしぺしと叩く。


「ヒルダ様! 我を子供かぬいぐるみだと思ってるのではあるまいか!?」


「違ったかのう?」


「ぷーくすくす!」


「ロピアめ! ヒルダ様はともかくお主は笑うでない!」


 やかましいのう……。


「まぁいい。ここに何があるか、じゃったのう? 正直儂はそんな事知らん。それを調べに来ておるんじゃよ」


 そもそも何があるか分かっておったらわざわざこんな所まで来ておらんわ。


「でもどうせ危険はないやろ? 魔族がこんな所におるとは思えんし……」


「まぁそれもそうじゃがな。むしろこんな王国の近くに居を構えておったならばそれはそれで大した神経じゃが……」


 儂らは王国の近くに発見された遺跡……というか洞窟に調査に来ていた。


 儂とロピアとライオン丸、そしてナーリアの四人で洞窟内を散策しているのじゃが……。


「のうナーリア、どうした? ずっと黙っておるが……」


「いえ、なんと言いますか……ここに入ってから妙な胸騒ぎが消えないんです」


「おいおい……不穏な事を言い出すでない。まるでこの奥に危険が潜んでいるような言い方ではないか」


「そういう訳では無いのですが……気にしないで下さい。なんとなく、そわそわしてしまって……ただの気のせいです」


 わしも気のせいだとは思うが……しかしナーリアがこんな事を言い出すのは珍しいので一応注意していた方がいいやもしれんな。


 警戒してしすぎるという事はないじゃろう。


「うわーっ、なんや!? 随分広い所に出てしもうたで!?」


 ロピアが何やら前方で騒いでいるので小走りで追いつくと、確かにこれは唸ってしまうのも分かる。


 とんでもない広さの空間が広がっていた。

 わしらはそんなに地下へ潜っていたか?

 どうもおかしい……。


「めりにゃん、何かあったんですか?」


「おいナーリア! こっちに来るな!!」


「えっ、どうしました??」


 ちっ、一歩遅かったか……。


 ナーリアがこの広い空間に入ってきた瞬間に、今までの通路が消え失せた。


「あれっ、えっ!? やっぱりここ何かおかしいです!!」


 言われんでも分っておるわい……。

 ナーリアだけでも向こう側に残せたらと思ったんじゃが間に合わんかったか……。


「めりにゃん、ごめんなさい」

「お主は悪くない。むしろ警戒を促してくれていたのに……儂が不用意じゃった」


「むむ……しかしここはなんなのであるか?? 何かがあるようにも見えないのであるが……」


 儂に頭を下げるナーリアを慰めていると頭の上のライオン丸が不思議そうに口を開く。


「すっごいでー! こんな所にこんな広い場所があったなんて驚きやなーっ!! めりっち見てや見てや! って、あれ……? 道無くなっとるやんけ!!」


 こやつだけはこんな時でも能天気じゃのう……。

 昔からこんな奴じゃったか?

 以前はあまり話した事は無かったかもしれんな。

 こうやって幹部たちとの距離が近くなったのもセスティのおかげであろうが……。


 こうも緊張感がなくなってしまうのはどうなんじゃろうなぁ。


 しかしこのままではまずい。早く帰り路の確保だけでもしておかんと……。

 転移魔法で帰れるようならそれでいいのじゃが、先ほどからこの空間に妙な力を感じる。

 おそらく転移では出られんじゃろうな。


 いざとなれば一応試してみてもいいかもしれんが、この状況で無理にそれをする事自体が危険かもしれんので最終手段じゃ。


「皆、これが幻覚という事もありえるじゃろう? 一応壁周辺を調べてみるのじゃ」


「わかりました!」

「了解や!」

「おうなのである!」


 ライオン丸は儂の頭の上なんじゃから自分で調べようもないじゃろうに……。


 こやつ最近自分がぬいぐるみである事に慣れ過ぎている。

 儂の頭の上に居る事に慣れてきておるな……いっそこのままマスコットとして生きてもらうのも悪くあるまい。

 その際は王国に人間が観光にくるような世の中になった時、動くマスコット人形として案内役を押し付けてやるわ。


 ふふふ……それは面白そうじゃ。


「ヒルダ様? 笑ってるのであるか?」


「ああ、お主が涙目でこき使われる様を想像したら自然と笑みがこぼれたわ」


「い、今のは聞かなかった事にしたいのである……」


 頭の上が少し震えるのを感じた。

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