魔王の嫁だって失敗する。


「しかし……ただっ広いだけで何もないではないか! ここに閉じ込められたと言う事じゃろうか?」


 これだけの広い空間を使って一切何も無いとは考えにくいのじゃが……。


 かといって、ここから脱出しない事には何も進まないしどうしたものかのう。


「ヒルダさまーっ! これを見てほしいのである!」


 儂の頭から降りてあちこち調べていたライオン丸が遠くから儂を呼ぶのでそちらへ行ってみると……。


「ふむ、亀裂か……しかしこの小さな亀裂だけでは……む、そういう事か?」


「である! 我ならば向こう側へ行けるのである! ちょっと行って調べてくるのである」



「今の所ここくらいしか変わった所が見られんからのう……一人で行かせるのは心苦しいが、頼めるか?」


「了解なのである! 我もきっちり仕事をしてみせましょうぞ」


 小さなぬいぐるみの身体でなにやらやたらと気合を入れて飛び跳ねておる。


「むっ、むむむ……あ、頭がつっかえて……ヒルダ様、ちょっと押してほしいのである!」


 ……お主その身体になってからというものまったくしまらんのう」


 後ろからぐいっとライオン丸を押すと、「ひ、ヒルダ様! へんな所押さないでほしいのである!!」とか騒いでいたが知るかそんなもん。


 儂からしたらただのぬいぐるみじゃ。


「おっ、中は結構広くなってるのである!」


「何かあったら早まらずにまず報告じゃぞー?」


「うっ……」


「どうした!? 大丈夫なんじゃろな!?」


「……申し訳ないのである。変なボタンを押してしまったのである」


 こいつ……まず報告じゃと言ったばかりじゃろうが!!


 ずごごご……と重たい音が響き、どういう仕組みなのか壁が左右に開いていく。


「け、結果オーライなのである! 我の判断は間違ってなかったであるな!」


 しかしあの隙間からしか中の仕組みを動かせなかったというのは違和感がある。

 まるで本来は開けさせる気がないようではないか。


「奥に部屋があったのですか?」


「すごいやんかライゴっちお手柄やでー!」


 響き渡る音にナーリアとロピアも駆け寄ってきた。


 この奥にある部屋が重要なのだとしたら、結局この広い空間はなんだったんじゃ……?


「とにかく、奥へ行ってみるのじゃ。一応警戒はしておくように」


 ナーリアは儂の言葉に従って慎重に進むが、ロピアときたら「あいよーっ」とか言いながらぴょんぴょんと奥へスキップしていきおった。


「これロピア! もうちょっと気を張れ! 何かあってからじゃ遅いんじゃぞ!」


「わーってるって♪ こう見えてちゃんと警戒しとるし心配無用やでーっ!」


 ほんとにこいつ毎日楽しそうに生きてるのう……。

 今の王国がそれだけ居心地がいいという事かもしれんが、こいつはちょっと気が抜けすぎじゃ。


「おっとおっと……うわぁっ!!」


 ロピアがバランスを崩して転んだ。


「それ見た事か……。お前はもう少しだな……お、おいロピア……それはなんじゃ?」


 ロピアが倒れこんだのは奥の部屋中央にある妙な形のテーブル状の物で、それには大小さまざまな丸いボタンがついていて、ロピアは立ち上がろうとした際にその一つを思い切り押し込んでいた。


「へっ? ……いやぁ、なんやろ? 押してもうたけど別になんともないやろ? 動いてないんとちゃう?」


 ……確かに、ボタンは押されていたが何かがおきる気配は無い。


「めりにゃん、ここは……?」


 ナーリアが入り口に手を駆けながら辺りを見渡していた。

 その様子に、何か違和感を感じる。


 ……なんじゃ? 何かが引っかかっている。


「しかし、どうしてこれ途中で止まってしまったんでしょう?」


「な……んじゃと……?」


 確かに言われてみればその通りじゃ。

 先程開いた扉は、不自然に妙な所で止まっている。


「おいライオン丸! この扉を開けるのに押したボタンはどれじゃ!?」


「これである。ここにあるのがそうである!」


 ライオン丸が指さす場所には確かにボタンがあるが、それを再度押しても何も反応はない。


「押した時は赤く光っていたのであるが……」



 ここはそもそも何をエネルギーとして動いていた? 魔力か? 

 おそらくかろうじて扉を開ける事は出来たがここのエネルギーが尽きてしまったのじゃろう。


 ならば既にこの遺跡は機能しない。

 ロピアが押したボタンが何だったのか気にはなる所じゃが……。


「えっ、これは……どうしたんでしょうか?」


 ナーリアが何かに驚いたような声をあげたのでそちらをみると、ナーリアの弓が発光している。


「どういう事じゃ……? 確かその弓は何か特殊な素材で出来ているんじゃったな?」


「は、はい。クリスタルツリーと言って……でも今までこんな事一度も……」


 発光はどんどん強くなり、部屋中が一気に明るくなった。

 ……そして、段々と弓の光が治まっていく。


 クリスタルツリー……確か西の方にある魔素を溜め込んだ木であったか……。


「む、まずいぞナーリア! お主今すぐこの部屋から出るのじゃ!!」


「えっ、どういう事ですか!? あ、弓が……発光が止まりました」


「ナーリア……すまぬ。儂がもっと早くに気付けば良かったんじゃが……」


 彼女はまだ気付いていない。

 クリスタルツリーの弓から、一切の魔力を感じなくなっている事に。

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