元魔王でも無理なタイプの相談。

 

「ヒールニント!? ここに居るの!?」


「メアさーん! こっちです!!」


 ヒールニントの魔力反応があった場所へ転移しようとしたら、最初見えない壁に阻まれた。


 私を拒む程の力って、誰の仕業よ!!

 どうにか本気を出せばぶち破れそうだったので気合を入れようとしたら、フッと私を拒む力が消えうせた。


「あれは何だったのかしら……それより、ヒールニントは無事……?」


 先程声がした方に通路が伸びていたので、急いで奥へ向かうと思ったよりすぐに突き当たりになってしまって正面の壁に突っ込んでしまった。


「うわぁぁぁっ!!」


 ずごーん!!


「ひゃぁっ!! め、メアさん? 急に壁に突っ込んでどうしたんですか?」


「うるさいわねっ!! それより、大丈夫なの??」


 頭から瓦礫を被ってしまったので適当に払い落としながら彼女を見ると、とりあえず元気そうである。


「私は大丈夫ですよ。それより……」


「他に誰か居なかった? ここに、物凄い魔力を持った何かが……!」


「んー、えっと……」


 ヒールニントはキョロキョロと小部屋になっているこの場所を見回して、首を傾げながら、



「誰も居ませんよ?」


 と呟いた。


「……そう、でもここは何かおかしいわ。誰か、とても強い力を持った何かの悪意を感じる」


「悪意、ですか……? 多分違うと思うけどなぁ」


 何を言ってるんだこの子は。


「何か心当たりがあるの?」


「うーん、そういう訳じゃないんですけど……」


「とにかく、長居は無用よ。二人で散策するのは危険すぎる。一度ここから出ましょう」


 当時来た時は全然気付かなかった。

 私はあの時完全に何もしらないプリンだったから……。

 今なら分かる。……勿論ヒールニントが居なくなるまでは気付かなかった訳だけど、とにかく分かる。


 ここはまずい。

 絶対に何か居る。


 しかも何が怖いって、さっき感じた信じられないほど強力な魔力が、今はどこにも存在しないという事だ。


 今の状況だけを見たらこの遺跡が危険だとはみじんも感じないけど、さっきの奴がどこかに潜んでいるかもしれないと言うだけで恐ろしい。


 相手がどのくらいの強さか、とかそういう問題じゃない。


 あの恐怖感は……そう、アルプトラウムと初めて会ったあの時を思い出す。

 背筋が凍る感覚……あの時の私はそれこそ何も知らない無知な小娘だったからそれ以上なんとも思わなかったけれど……。


 これは、早々にセスティ達と合流した方がいい。

 私だけでヒールニントを守り切れる自信が無い。


 私は大抵の相手ならばどうにでもなる自信があったし、実際出来ると思ってた。


 だけどあんなのが相手だったら話が別だ。尋常な相手ではない。


「ほら、何してるの! 私の手を掴んで。すぐにここから出るわよ!」


「あ、はい……ちょっとだけ待って下さいね」


 ヒールニントはそう言って、私に背を向けると何もない空間に深々とお辞儀をして、「お待たせしました」と言い私の手を取る。


 王都で惨殺死体を見た時もこの子は祈っていたっけ。

 もしかしたら誰か過去にこの遺跡に来た人間の死骸でも転がっていたのかもしれない。


 だとしても私はそんなものいちいち確認する気は無いし一刻も早くここから脱出したかった。


「出るわよ!」


 ……ふぅ。

 私は外に出るだけだと不安だったのでそのまま万事屋まで転移した。


 急に現れた私達にメイド達が驚いていたけれど、私の様子を見て心配してれたのか、駆け寄ってきてハンカチで額を拭いてくれた。


 いや、そこまでする? 距離近いって。


 サクラコさんと一緒に居るような人達だからなんだか女性との距離感がバグってる。


「あー、おねぇさん。とりあえず私とヒールニントに冷たいお茶もらえるかしら」


 本気で心臓がバクバク言ってる私と違ってヒールニントは涼しい顔してメイドからお茶を受け取る。


 まったく……分からないって事は幸せな事ね……。


「……」


 ヒールニントはぽけーっと部屋の天井の方を見つめながら冷たいお茶をくぴくぴ飲む。


「……ヒールニント、あなた……なんか様子がおかしいわよ? 本当にあそこで何も無かったんでしょうね?」


「えっ、私ですか? 別にいつも通りですよ? 特に何も無かったですし」


「そう、それならいいのだけれど……」


 私は、正直疑っている。

 あの力の持ち主との接触があったかどうかは分からないし、それを疑っているという訳ではないのだけれど……。


 ヒールニントが私に何かを隠しているという確信にも似た予感があった。


 いったい、何があったのだろう。

 私に言えないような事、というよりは言う必要がないと思ってるような……そんな感じがする。


 何か深刻な悩みを抱えているという感じではない。

 ただ、心ここに有らずというか、物思いにふけっているように見えた。


「貴女が言う気が無いならそれでいいけど、困ったら私にちゃんと相談するのよ……? ほら、私は……貴女の友達、なんだから」


「メアさん……はい♪ 分かりました。困ったらなんでも相談しちゃいますからね☆彡」


「出来れば恋愛相談以外でお願いね……?」

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