魔王様はこの世界の真実を知る。


 ……荒神達とエンシェントドラゴンの関係はよく分からないが、よほど良好な関係を築いていたらしい。


「そんな事で俺の力になってくれるのか……まぁ助かるけどな」


「そんな事、ではないのだ。古龍というのは魔力を食わねば生きられず、我等と同じ生体をしているが……大きく違う所がある。古龍はこの世界の害になるものを許さない」


 ……世界の、害になるもの……?


『古代龍はこの世界その物なのだ』


「……ちょっと何言ってるか分からない」



『まぁ聞け。この世界は……半分なのだ』


 更に何言ってるか分からないんだが……?


『ぬぅ……知識を誰かに分からせるというのは存外難しいな……つまり、この世界は元々あった世界の半分しかないのだ』


「だから何言ってるか分かんねぇって。お前の言い方だと本当はもっと広い世界だったが半分だけになっちまったって聞こえるが」


『実にその通りだ』


 ……は?

 この世界の成り立ちなんて過去の事が俺には分からないからといってそんな荒唐無稽な話があるだろうか?


「あれか、星降りの民がこの世界に来て大陸が海に沈んで半分くらいしか陸地が残らなかったとかそういう……」


『違うな……。そもそも貴様はこの世界の果てがどうなっているか知っているか?』


「世界の果て……?」


 チャコを追いかけるようにサクラコと蛙、ショコラも俺の隣までやってきてオロチの話を聞いている。


 皆は何か知っているかと目配せをしてみたが、顔を横に振るばかり。

 チャコだけは何か知っているらしく俺の顔をじーっと見つめていた。


 世界の果て……海の向こう……?


『この世界は海に覆われているだろう? ではその先はどうなっていると思う?』


「禅問答か何かか……? 確か学者とかの考察では海をひたすら同じ方向へ進んでいけば世界を一周して反対側に出るとかなんとか……」


『……その学者は優秀だな。以前はそうであった』


 ……以前? 俺達の今いる世界はそうではないという事だろうか?


『この世界は、本来星である』


「星って夜に空で光ってるあの星か?」


『そう。アレと同じよ。大宇宙に存在するちっぽけな星だ』


 宇宙って言うのが空の向こうだとして、そこにいつも光ってる星とこの世界が一緒?

 あの星一つ一つに多くの人々の生活があるっていうのか?


『勘違いするなよ。命が存在する星は数多の中で一握りだ』


「この星はなんらかの理由で命が存在してるだけで、空に光ってる星にはそんな物居ないって事か?」


『居ないとは断言できないが、命が存在する星は限りなく少ないであろうな』


「……それは大体理解した。いや、よく分かんねぇけど、この世界が星って言うのはわかった。でもよ、半分ってのはどういう意味だ?」


『そのままの意味よ。この世界……この星は真っ二つに分断された。以前はこの星は球体であり、先程話しに出た学者が言う様に海をひたすら同一方向へ向かえば逆側へ出る。そういう造りであった』


「それが半円系になったって事か?」


『その通りだ。分断された……というよりも半分破壊されたという方が正しいが』


 オロチはこの話を誰かにするのは初めてらしく、言葉を選んだり順序を考えたりしながら話すのでどうにも要領を得ないが、それでも俺にもなんとなくわかってきた。


「じゃあよ、海の果てはどうなってるんだ? 今までは球体だったから向こうへ繋がってたとして、今は……? まさか崖になっててひたすら水がその宇宙とやらにまき散らされてるわけじゃねぇだろう?」


 そんな事があったらこの世界の海なんてすぐに干からびてしまうだろう。


『何も、ないのだ』


 ……あ?


『この世界の果てには何もない。限界まで突き進めば透明な壁にぶち当たってそこで終わりだ。この世界は囲われている』


 ちょっと待てよ。アルプトラウム達がもともとここに居た神様だっていうなら分かる。そいつらがそういう世界にしたんだって思えば納得できる。


 でも星降りの民は既にこういう世界になっている場所へやって来たんだろ……?


「この世界を二つにして、囲いを作ったのはどこのどいつなんだ……? まさかそれが正真正銘の神様だとでも……?」


『神など存在しない。居るのは……ただの馬鹿だけだ』


 何か思う所があるらしくしばらく黙り込むオロチの頭を突然ショコラが小突いた。


「一人で浸ってないでさっさと説明しろ」


『ふっ、小娘には敵わんな。いいだろう……この世界がまだ一つだった頃の話をしてやる』


 オロチの話はとても信じられるような物では無かったが、わざわざこいつが嘘をつく意味も無いので本当なのだろう。


 俺達はきっとこの世界で一番世界の成り立ちを理解する存在になる。


 アシュリーがこの場に居たらそりゃもう大歓喜で話に聞き入っていただろうな。


 あとで彼女にはきちんとした説明をしてやらないといけないかもしれない。

 頭のいい奴が知識を持っていなければそれはただの知識で終わってしまう。


 この場にアシュリーもめりにゃんも居ないというのはある意味で皮肉だ。


 話が進むにつれ、ショコラの眉間に皺が増えていくのが気になるが、何か思う所でもあるのだろうか?


「ねぇ、長くなるなら寝てていい?」


『貴様の妹の神経はどうなっているのだ』


「なんか、すまん」

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