元魔王に芽生える感情。


「こんにちわ。久しぶりだけど私の事分かるかしら?」


「えっと、あれ? さっきまで居ましたよね? でも髪の色が違う……? あれ……?」


 私が久しぶりに万事屋を訪ねたらメイドの人が困惑してる。


 どうやら話を聞く限り、ついさっきまでここにセスティが来てたらしい。

 サクラコさんとショコラと蛙も一緒なんだそうだ。


 せっかく来たのでヒールニントと一緒にお茶を一杯ご馳走になってから外へ出る。


「ちょっと顔出しに来ただけだったけれど……ここにセスティやサクラコさん達が来てたっていうのはちょっと気になるわね……」


「魔王様達も観光なんでしょうか?」


「どうかしら。確かに面子考えるとセスティがただの里帰りに付き合ってついでに観光しに来たって考えられなくもないけど……」


 もしかしたら何かを調べに来たのかもしれない。

 こちらから連絡を取ったっていいけど、なんていうか癪なのでしない。


 こっちはこっちで勝手にやりたいようにやっていくって決めたんだ。

 私は私らしく、メアリー・ルーナとしてこの

 生を楽しむんだから。


「それにしてもリンシャオさんどうしたんですかね? 急に用事が出来たとか言ってましたけど」


「ほんと急だったわね。出来ればもう少しロンシャンでゆっくりしたかったんだけど……リンシャオさんが相手してくれないとつまんないのよね。地下闘技場に私は出入り禁止だし……」


 ロンシャンで観光を楽しんでいたんだけれど、リンシャオさんが急に「ヤル事があるかラ忙しいネ」とか言って私達を追い出したのだ。


 以前あそこで働かされていた時にお世話になった人に挨拶も出来たし、復興が進んできた街を見て回れたのは良かったけどね。


 私達は次にどこへ行こうか迷った結果、どうせロンシャンまで来たなら、という事でニポポン観光をしていこうって話になったのだ。

 何故かリンシャオさんにニポポンを強く推されたという理由もある。


「ここマデ来たナらニポポンは見て行かないト損ヨ」

 とか言ってた。おススメスポットも幾つか聞いたので後で回ってみよう。


「そう言えばメイドさん達に、魔王様達の行き先の心当たりを聞いてみたんですけど遺跡がどうとか言ってましたよ」


 遺跡……?

 この辺りで遺跡って言われたらあれかな?


「私その遺跡知ってるかも」


「本当ですか? どうします? リンシャオさんおススメスポット巡りするかその遺跡に行ってみるか……」


 どうしよう。リンシャオさんのおススメスポットも気になるけど、遺跡の方はここから近いし転移ですぐに行けるし……。


「とりあえず一度遺跡でも覗きに行ってみようかしら」


「私はメアさんについていくのでどこでもいいですよ♪ その代わり危ない所だったら守って下さいね?」


「勿論よ。それについてはちゃんと任せておきなさいよね♪」


 ヒールニントがじーっと私の顔を見つめながらニコニコしている。


「な、なによ」


「メアさんって少し変わりましたよね」


「そうかしら?」


「えぇ、なんだかよく笑うようになったっていうか、女の子らしくなったっていうか」


「ちょ、やめてよ恥ずかしいわね……でも、これでも私も女子って事かしらね。今頃そんな簡単な事に気付いたのよ」


 そう、私だってもうちょっと普通の女子のように振舞ったっていいんだ。

 世界を恨む気持ちが無くなったわけじゃないけど、どうせなら思い切り楽しみたいという気持ちだって生まれた。


 だから私は変化に身を任せていく。

 いろんな人との出会いが私を変えていって、どんどん元々の私からは遠ざかって行くのかもしれないけれど、それは退化じゃなくて進化だから。


 だから止まらない。

 こんなふうに自分がどんどん違う人間になっていく感じがしたとしても、それを受け入れていく。

 今の私が常に私なんだから。


 何に影響受けたって、誰に影響受けたっていい。


 そういう意味では確かに私は変わったのかもしれない。

 いろいろ怖くなって王国を飛び出してから、ヒールニントと出会って、なんやかんやあって王国へ戻る事になって……。


 あの人達のお人好し具合にほだされたのかもしれない。

 それも私の変化だ。


 それを否定しても仕方ない。

 明らかに私の考え方、感情は変化していっているんだろう。

 だからと言って過去の罪は消えないけれど、だからこそ私はそれを抱えて、この命を何か別の事に使わなければいけない。


 王国を守るというのもその一つだけれど、ヒールニントを守るっていう仕事にもやりがいを感じている。


 ただ単にこの子と居ると気が楽だと言うだけかもしれないけれど。


 私にとってこの子の、のほほんとした雰囲気は癒されるし、それ以上に何かもっと……言葉では言い表せない親近感を感じる。


 初めて会った気がしないと言ったら気持ち悪がられるだろうか?

 他人とは思えないのだ。


 単に相性がいいだけかもしれないが、一緒にいたいと思える。

 だから、私は彼女を守るし、出来るだけいろんな所を見せてあげたい。

 そして、彼女が大切に思っているあの男についても、どうにかしてやりたいと思う。


 ……我ながら馬鹿みたいだが、私にとって彼女はもう友達なのだから仕方ない。


「……どうかしました? なんだか嬉しそうですけど」


「別に。観光旅行が楽しいだけよ」

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